第147話[表] 地球・廃墟調査
<Side:Akari>
「この廃墟は?」
廃墟を見回しながら、私がそんな疑問の言葉を投げかけると、
「かつて、『竜の血盟』によって――正確に言うと、その息のかかった企業によって――オートマトンが生み出されていた工業施設だな」
「朔耶がいきなり戦闘ヘリを操縦していた場所でもあるね」
なんて言ってくる蒼夜と珠鈴。
「戦闘ヘリを操縦って……」
と、呆れ気味に私が呟くと、
「まあ、うん、朔耶は『超展開メーカー』とか言われてたくらい、無茶苦茶だった。うん」
などとロゼが言ってきた。
……ちょ、超展開メーカーって……
たしかに話を聞く限りでは、そうとしか言えないような人物ではあるけど……
そんな事を思っていると、
「というか、その戦闘ヘリは一体どこから? 超常現象調査室は所持していませんよね?」
という、もっともな疑問を首を傾げながらユーコが口にした。
そしてそれに対し、
「ああ、ちょいとばかり作っている所から拝借した」
なんていう返事をする蓮司。いや、拝借って……
「作っている所からの拝借って……それ、ただの強奪じゃ?」
「いやいや、そんな事はないぞ。作っていたのは、ここでオートマトンを作っていた企業と同じだ。要するに『押収物』だよ」
腕を組みながら呆れ気味に問いかけたシャルに対し、蓮司が首を横に振って否定しながら、そう返事をする。
「……諸々の手順をすっ飛ばしていきなり踏み込んで『押収』というのも、なかなか無理のある話だけどな……」
今度は蒼夜が呆れ気味にそんな事を口にする。
……たしかに無茶苦茶ね……
「まあ……その後、室長さんが大変そうだったのは覚えているのです」
やれやれと言わんばかりの表情でため息混じりにそう言って、首を横に振るクーさん。
「そう言えば、あの時には既にクーもいたんだったな」
「はいです。もっとも、あの頃は引きこもっていたですが……」
クーさんが蒼夜の言葉に頷きながら、ちょっと肩を落とし気味にそう口にすると、
「状況を考えれば仕方があるまい。むしろ、しばらく見ない間に随分と変わっていて驚いたくらいさ」
なんて事を言って微笑してみせる珠鈴。
「ま、たしかに大分変わったな」
蓮司は珠鈴に続くようにして、肩をすくめながらそう言うと、一呼吸置いてから、
「……で、それはそれとして、ここのどこを調べればいいんだ? ここって、最終的にウチじゃなくて警察――というか、公安の連中が調べたから、いまいち良く分からねぇんだよなぁ……」
と、そんな風に言葉を続けてユーコの方を見た。
「あ、はい。ここではどうやらオートマトンだけではなく、キメラの一部も生み出していたようで、そのキメラを生み出していた区画の方を調査する感じです。ここを監視している方が、怪しい熱源を複数感知したと報告してきたそうでして……」
ユーコがそんな風に説明した所で、
「なるほどね……。……そこで報告にとどめて、足を踏み込まなかったのは、ある意味正解かもしれないわね」
「ん、たしかに。殺気……というか、うん、獲物を見つけた獣のような視線を感じる。うん」
なんて事を言ってくるシャルとロゼ。
相変わらず、とんでもない察知能力ねぇ……
「うむ。……やれやれといった感じだが仕方がないな」
珠鈴がそんな事を口にした直後、その姿が消えた。
……あれ? どこへ?
と思ったその直後、
「グギャァァアアァァァッッ!?!?」
という、明らかに異形の存在と思われる『何者か』の断末魔の悲鳴が響いた。
そして程なくして、
「とりあえず、こちらを監視していたキメラっぽい奴は倒してきた。……が、すまない、上手く一撃で仕留められず、声を上げられてしまった」
と、申し訳なさそうに言いながら、珠鈴が再び姿を見せた。
……いつの間にか倒してきてるし……
なんて事を思いながら私は、
「まあ……どの道、私たちの存在は既に察知されているんじゃないかしらね?」
とだけ返した。
「そうだな。別にひっそり忍び込みに来たわけでもないし、大した問題じゃない」
「はい。室長さんたちからも、可能ならば一掃しておいて欲しいと言われていますから、倒す事を優先していただいて大丈夫ですよ」
蒼夜とユーコがそれぞれそんな風に私に続いて言葉を紡ぐと、
「いや、むしろ今の声で『逃げられたらどうしよう』と思っているんじゃないか? 姉貴は……」
などと、肩をすくめながら言う蓮司。
するとそれに対して珠鈴が、
「うむ、その通りだ。逃さず殲滅せなばならない所で、あのような声を上げさせてしまっては、恐れをなして逃げ出す奴も出てしまう可能性があるだろう? 私はそれを懸念しているのだ」
と、頷きながら告げてくる。
あ、そっちの心配なのね……
ちょっとだけ呆れ気味にそんな事を思った所で、
「ま、まあ、施設の外へと通じる出入口は、監視の人がしっかり見張っているそうなので、そちらは心配しないでも大丈夫だと思いますよ」
と、頬を掻きながら言うユーコ。
「ん、でも、たしかに逃走するような動きをされると、うん、ちょっと面倒な気はするかも。うん」
「――そうだな。ここは各出入口に分かれて、包囲殲滅する方がいいか」
ロゼの発言に続き、蒼夜が顎に手を当てて思考を巡らせながらといった表情で、そう口にしてくる。
その言葉に私は――
でもまあ、たしかにそれには賛成ね。
手分けして一気に倒してしまった方が確実だし。
それに……全員で一塊になって突入するのは、明らかに戦力過多だし……ね。
なんて事を思うのだった。
第1部第2章の異伝で登場した場所へと再びやってきました。
さて、次からは平時通りの間隔に戻る予定でしたが、それだと少し間が開いてしまうので、次は平時から1日前倒ししまして……9月5日(木)の更新を予定しています!




