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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第2部 黄金守りの不死竜と調査録 第2章 遙かなる古の遺産編
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第136話[裏] ホロウとジャミング

<Side:Souya>

「お、ここなら使えそうだ」

 オーブを見ながらそう呟く俺。

 

「あの建物から100メートルくらいって所かしらね?」

 護衛という名目でついてきたシャルが、例の端末があった建物へと視線を向けて、そう口にした。

 それに対して俺は、

「そんな感じだな。この距離で使えるようになってくれて良かったというものだ」

 と返すと、早速オーブに向かって呼びかける。

 

 するとすぐに、「どうかしましたかー?」という声と共にテレポータルが開かれた。

 

 というわけで……俺はこれまでの出来事をディアーナに説明する。

 そして、説明し終わった所で、

「オーブが使えない場所……ですかー。まあたしかにー、空間の状態が不安定というかー、コロニー外に存在する空間構成素子が歪んだようなー、そんな波動の『流れ』を感じますねー」

 なんて事を言ってくるディアーナ。

 

 歪んだ空間構成素子というのは、ホロウ・ファクターの事だな。

 コロニー外はそもそもハイパースペースのような『ワープ空間』であり、このワープ空間を形成し、ワープを成り立たせる為の素子が『停滞』してしまっているのが現在のこの世界――というか、このコロニー群の状況だ。

 

 この停滞状態を『ホロウ』といい、停滞してしまった素子を『ホロウ・ファクター』という。

 ……と、『竜の座』の深奥――朔耶の残した資料に書かれていた。

 まあ、それについて研究していた古代の人間の記録であり、朔耶の記録ではないのだが。……というか、朔耶自身も良く分かっていなかったようだし。


 ……あれこれ知識を得ているあたりは俺の知らない朔耶だが、そういった理解力は俺の良く知っている朔耶だよなぁ……

 

 っとと、それはそれとして――

「要するに、逆を言えばその波動の流れがあるから空間に……もっと言うなら、次元に穴を開けるなんて事が出来るんだな」

 と、そんな風に口にする俺。

 するとそれに対してディアーナは頷いてみせ、

「そういう事になりますねー。コロニー外に停滞しているそれをー、その場所にある機械で取り込んでー、何らかの力を加える事で『流れ』を作ってー、性質を変異させているようですねー」

 と言ってきた。

 

 つまり、あそこにある装置は『外』から素子――ホロウ・ファクターを取り込み、人工的に『停滞状態から動かす』事で、本来の状態に近しい性質を取り戻させている……という事だろうか?

 別の世界――宇宙と繋がるワームホールを生成しているのだから、そういう事なんだろうとは思うが、専門知識があるわけじゃないから絶対とは言い難い。

 ……まあもっとも、この辺りの専門知識を持つ者は、現時点では鬼哭界にしかいなさそうな気がするが。

 それもこちらの味方ではなく、敵対する側の。

 

 なんて事を考えていると、俺の横で何か思案していたシャルが、

「いまいち理解出来ないけど、大雑把な話……あれを制御すれば、どこへでも繋がる空間の穴が作れるって事かしら?」

 などという問いの言葉を口にした。

 それに対してディアーナは再び頷いてみせ、そして答える。

「はいー。理論上はそうなりますねー。もっともー、それを成す為の必要なー、エネルギー量は膨大なのでー、テレポータルのようにー、ホイホイとは開けないと思いますけどー」

 

「ふぅん、なるほどねぇ……。なんというか、効率の悪すぎる微妙な転移装置って感じだわ……」

「普通に使うなら、そうですねー。ですけどー、普通とは違う使い方をするならー、これしかないですねー」

 やれやれと首を横に振ってみせるシャルに、ディアーナがそう返す。

 すると、それに対してシャルが更に問いの言葉を投げかけた。

「これしかない使い方? ……テレポータルでは接続出来ないような所にも繋ぐとかそういうの?」


「はいー、その通りですー。テレポータルでは接続出来ないような場所にもー、繋げられるのがー、こちらの最大の利点と言えますねー。他にも色々ありますがー。あの辺りの地表を浮遊させているのもー、その空間に作用する力の影響ですしー」

「なるほどねぇ。うーん……もしかして転移装置として使う方がイレギュラーって事だったりするのかしらね?」

「あー、そうですねー。そんな気がしますー」

 シャルの新たな疑問に少し考えながらそう答えるディアーナ。


 ……言われてみると、たしかに異世界と繋がる『穴』を開けるって、本来の用途ではない気がするな。

 本来は、このグラスティアを含むコロニー群を、現在いる空間から離脱させるために研究、および開発されたものだったのかもしれないな。

 

「……ま、その辺を調べるにせよなんにせよ、まずは制御出来る状態にしないと、だな」

「そうですねー。とりあえずー、状況は分かりましたー。解析や調整のサポートをしつつー、行き来出来るようにしますねー」

 俺に頷きながらディアーナがそんな風に言ってきたので俺は、

「シャルは、エステルたちにテレポータルを繋いだ事を伝えて来てくれないか? 俺はこのままこっちで準備しておく」

 と、そうシャルに告げた。

 

「ええ、分かったわ」

 と言って去っていくシャルを見送ると、

「――ホロウ・ファクターによる空間の穴……というか、次元の穴の生成……か。ホロウ・イクリプスの多発が、この世界に転生するはずの魂が別の世界に流れていく原因のひとつである気がするな」

 と、ディアーナに向かって言う俺。

 

「そうですねー。ホロウ・イクリプスそのものであればー、私にも検知する事が出来ますがー、今回のようにー、ジャミングされていたりするとー、検知出来ませんからねー」

 ホロウ関連はディアーナにも認識出来ている――というか、俺からホロウ関連を普通に伝えられたのはディアーナだけだったともいう――ので、先程とは違って直接的な名称を使ってそう返してくる。

 というか……検知出来るとか、さすがは『女神』といった所だな……


「もっとも、ホロウ・イクリプスの発生場所に、都合よく死者の魂があるのも良く分からないが……。……って、いや、そうじゃないか。ホロウ・イクリプスの発生した場所で殺されている……のか」

「おそらくそうですねー。つまりー……」

「何者かが意図的に発生させ、そしてその場にいる人間を殺害している……か」

 ディアーナの言葉を引き継ぐようにそう言うと、ディアーナがそれに対して頷いてみせる。

「そうなりますねー。無論、その『何者か』は人間とは限りませんがー」


「ああ、たしかにそうだな……。もっとも、何故そんな事をしているのかさっぱりだが。まさか、『全体の質量』を減らす為……とかだったりするのだろうか?」

「ありえないとは言い切れませんねー。ジャミングされている以上ー、詳しい事はー、その時その場所にいないとー、わかりませんしー。なんにせよー、このままだと後手に回り続けてしまうのでー、どうにかしたい所ではありますがー、どうしたものやら……ですー」

 肩をすくめる俺に対し、頬に手を当ててため息をつきながらそう返してくるディアーナ。

 

 その時その場所を探る方法……か。うーむ……パッとは思いつかないな。

 

 ああそうだ。ジャミングと言えば――

「そのジャミングだが……例のオルティリアの遺跡も、似たようなジャミングが働いていた。だが、まだ第1階層部分ではオーブが問題なく使えた。もしや、あそこも……」


 そう。今回の遺跡で分かったが、オルティリアの遺跡の第1階層はジャミングが弱かった。

 というより、調査状況の確認の為に訪れた第7階層でも問題はなかった。

 ただ、確実に第1層よりもジャミングが強くなっているのは感じられたからな。

 あと、2~3層程度でオーブが使えない領域に入りそうな気がする。

 

「――深層に行ったらー、使えなくなる可能性がありますねー。というかー、むしろそうであってくれるとー、今回の遺跡とー、それからヴァロッカの『天穿の奇岩群』と合わせてー、詳しく調査する事でー、何か掴めそうな気がしますー」

 と、そんな事を言ってくるディアーナ。

 そして、それを聞いた俺は――


 天穿の奇岩群……か。

 たしかにあそこも、今回の遺跡やオルティリアの遺跡と類似している点があるからな……

 というか……だ。そろそろオルティリアの遺跡の方も、本格的に深奥へと踏み込んでいきたい所だよなぁ。

 もっとも、まずはユーコと灯を再会させるのが先だが。

 今のままにしておくわけにはいかないし、この先、あのふたりが必要不可欠になると考えられる場所、状況もあるし……な。

 

 ――なんて事を考えるのだった。

蒼夜視点なので、割とディープな話をする回となりました。

まあなんというか……ようやく状況が大きく動き始めるその入口まで来た感じです。

もっとも、ここの話を1話内で纏めた結果、大分長くなってしまいましたが……


さて、そんな所でまた次回!

次の更新も予定通りとなります、7月15日(月)の想定です!

ただ、来週後半、ちょっと更新出来ない日が生じそうなので、その次(とその次も?)は予定通りにとはならなさそうです……

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