第135話[表] システムとエネルギー
<Side:Akari>
「ふむ……。どうやら妾たちが『この遺跡群へ立ち入った』事で、自動的に稼働状態になったようじゃな。おそらく、休眠状態の遺跡に未登録の者――つまり外部の人間が立ち入った際に、自動で撃退するように設定されていたのじゃろう」
端末を調べ終えたエステルがそんな風に言ってくる。
「それって、設定を変えればあの歪んだ魔獣も出てこなくなる……って感じだったりするの?」
カエデがそう問いかけると、
「そうじゃな……。『誘導機能』がこちらに向かって働いているようじゃから、それを停止すれば、立て続けに襲いかかってくる事はなくなるのぅ。ただ……あくまでも『誘導』のようじゃし、まったく出てこなくなるわけではなさそうじゃな」
なんて事を端末のディスプレイを確認しつつ言ってくるエステル。
……このディスプレイ、よくまあ割れもせずに当時のまま残っていたものだわ。
っと、それはそれとして――
「要するに、今はエンカウント率が大幅に上がっている状態って事よね? エンカウント率が大幅に下がるのなら、とりあえずそれで十分というものだし、停止してしまえばいいんじゃないかしら?」
「そうだな。ある程度自然に出てくるのは、この遺跡の状況を考えると、仕方がない気もするしな」
私の発言に続くように蒼夜がそう言ってエステルを見る。
「うむ。では、早速停止してしまうとしようかのぅ」
頷きながらそんな事を言い、端末を操作するエステル。
すると程なくして、ディスプレイに『機能停止』と表示された。
……今更だけど、古代文字であっても普通に読めるのは便利よねぇ……
「これで良いはずじゃ」
と言ってくるエステルに、
「たしかに『機能停止』とは表示されているけど、それ以外には何もないというか……何かが変わったような感じがしないから、本当にエンカウント率――出現頻度が下がったのかは、まだ何とも言えないわね」
と返す私。
「ま、そこはもう少しすれば分かるじゃろう」
腕を組みながらそう言ってきたエステルに、
「ちなみに、稼働しているのは侵入者撃退だけなのか?」
という問いの言葉を投げかける蒼夜。
「いや、『人工ワームホール生成制御システム』なるものも稼働しておるぞい。こっちは妾たちが足を踏み入れる前から稼働しておったようじゃな。そして、少し前――『アルミューズ城の地下にある裏位相コネクトゲートが開かれた日』に何らかのシステム異常が発生した記録も残っておったぞい」
「なるほど……。そのシステム異常とやらによって、この辺り一帯の岩盤が宙に浮き、この遺跡がこうして地表に出てきた……と、そのような感じですか?」
エステルの返答に対し、今度はジャンさんが問いかける。
「うむ。まさにその通りじゃ。何故システム異常が生じたのかは分からぬが……裏位相コネクトゲートが開かれたあの日というのが妙に気になる所じゃな」
「アレが直接的、あるいは間接的に影響した可能性が高い……という事か」
エステルの言葉を聞いたロディがそう呟くように言うと、
「そうだな。ただ、直接的に……というのは、それぞれの仕組みを考えるとないような気がするな。どちらかというと間接的――どちらも空間に作用するシステムであるがゆえに、この世界……というか、このコロニーが存在している『亜空間』に歪みや乱れが生じた……とか、そんな感じなんじゃないかと思う」
と、頷きながらそんな推測を口にする蒼夜。
「……私の頭じゃ何を言ってるのかさっぱり分からないけど、そのシステムをコントロールして、何か出来たりする感じなの?」
シャルが肩をすくめながらそうエステルに問いかけると、
「詳しく調べてみぬとなんとも言えぬが、とりあえず擬似的に『空間の穴』を作る事は出来そうじゃな。もっとも、色々な条件を満たす必要があるようじゃから、作れる場所はある程度決まってしまうがの」
と、そんな風に返すエステル。
キ、キタワァァァァァッ!
心の中で歓喜の叫びを発しつつも、慌てず騒がず、
「つまり、ユーコの所に繋げられる……と?」
とだけ問う私。
……それ以上言葉を続けたら、ハイテンションになりそうだったから踏みとどまったともいう。
「うむ、そうじゃな。……というよりも、既にそことの繋がりが薄っすらと出来ておるようじゃな。でなければ、おぬしがここでこうして動く事は出来んじゃろうし」
エステルにそう言われた私が、
「あ、たしかにそうね。じゃあ、急いで穴を大きくしちゃいましょ。バンバンと! さあすぐに! さあ! バンバン!」
と返すと、それに対してエステルが、
「お、落ち着かぬかっ。いきなりテンションがおかしくなりすぎじゃわい!」
なんて事を言ってきた。
……はっ!
「あ……。つ、ついうっかり……テンションが上りすぎて前のめりになってしまったわ……」
――踏みとどまり損ねた、ともいうわね……
「まあ……分からんではないがのぅ……」
ため息混じりにそう言ってやれやれと首を横に振るエステルに、
「それで……実際の所、繋ぐのにはどのくらいかかるんだ?」
と、腕を組みながら問いかける蒼夜。
「そうじゃなぁ……。この手のものに詳しい人間を全員集めても、3~4日はかかりそうじゃのぅ。歪んだ魔獣の出現頻度や、エネルギーの状況などによっては、もう少し伸びるやもしれぬがの」
「ふむ……。だが、そのくらいの日数で出来るのなら、全員集めてさっさと取り掛かる方が良さそうだな」
エステルの返答に、そう判断した蒼夜が即座に女神様と繋がるオーブを取り出す。
……が、
「ん? 使えない? ここ、霊的な力が満ちていそうな感じだが……違う……のか?」
なんて事を言った通り、オーブは濁った色をしていた。
「遺跡全体には満ちておるようじゃが……どうやら、この辺りは別のエネルギーの流れによって、干渉――相殺されてしまっておるようじゃな」
エステルがメガネ――インスペクション・アナライザーと言うべきかしら――をかけながら、そんな風に告げると、それに対して蒼夜は、
「なるほど……。このパターンは初めてだな。なら、とりあえず一度ここから距離を取ってみるとするか」
と、納得の表情で顎に手を当てながら言った。
それを見て私は思う。
うーん……。ここまでどんなトンデモナイ場所でも使えていたのに、ここに来て初めて使えない場所が出てくるなんてね……。まあ、それだけここが特殊で特異な場所だって事なんだろうけど……と。
遂にオーブの使用出来ない場所の登場となりました。
……まあ、ようやくここまで来たともいいますが……
想定よりも時間がかかっているので、なんとかしたい所ではあります……
とまあ、そんな所でまた次回!
次の更新も通常通りとなります、7月12日(金)の想定です!




