第133話[表] 端末と建物と壁
<Side:Akari>
「……どうにか外に出られたわね……」
建物の外へ離脱した所で、ため息をつきながら口にする私。
「まさか、人によって狙われやすいだの狙われにくいだのの概念があるだなんて、完全に想定外だったわねぇ」
なんて事をシャルがやれやれと首を横に振りながら言うと、
「たしかにそうじゃなぁ……。こうなると、集まっていた方がまだ出現頻度が低くなるというものじゃわい」
と、腕を組みつつそう返事をするエステル。
「まったくよ。襲ってきすぎにも程があるって感じだったわ……」
私はそうため息をつきながら言うと、そこで一度言葉を切り、周囲を見回しながら、
「で、それはまあいいとして……装置を稼働、制御する為の端末は、上か下……あるいは周辺だったわよね?」
という問いの言葉を紡いだ。
「うむ。そのはずじゃ」
そう返事をしてきたエステルに続くようにして、ロディが、
「下はないだろうから、上か周辺って事になるが……この建物、2階とかなかったよな?」
と言って、出てきたばかりの建物を見上げる。
「そうだねぇ。外から見ると3階か4階はありそうだけど、中は天井が物凄く高いだけだったし」
カエデが頷きながらそう言うと、ジャンさんが周囲を見回しながら呟く。
「となると、周辺……という事になりますが……」
「――周辺にある建物は全部で4棟……ですね」
「そこそこあるわねぇ……。どれも大きいし」
ジャンさんの言葉に、シャルは肩をすくめながらそう返すと、エステルの方を見て問う。
「エステル、なにか絞り込めそうな情報とかないの?」
「そうじゃのぅ……。エネルギーの流れじゃが、最初は上向きで最後は下向きじゃったな。それと……その途中は、こう……時計回りのような感じでもあったぞい」
エステルが指で流れを示しながらそんな風に告げてくる。
上向きから下向き、そして時計回り……ねぇ。
「上に行って下に行くって事は、端末は上の方にあるんじゃ?」
「たしかにそう考えるのが妥当ですね」
カエデの発言に頷きながらそう返すジャンさん。
そしてそのまま、
「――その上で時計回りとなると……右方向……」
と呟きながら右の方へと顔を向ける。
「……ちょうど他よりも高い建物があるな……」
蒼夜がそんな風に言って、背の高い建物をじっと見る。
これは……クレアボヤンスを使っている感じかしらね?
そう考えた私は、蒼夜に対して「なにか視える?」と、問いかけてみた。
「ああ。稼働状態のなにかの装置が視えるな。その先は……。――おっ、なんかそれっぽい部屋があったぞ」
そんな風に言ってくる蒼夜に、
「ふむ。ならば、そこへ行ってみるとしようかの」
と返すエステル。
するとそこで、
「でも、この建物……どこから入るの?」
なんて事をカエデが言ってきた。
「……言われてみると、入口らしきものが見当たらないわね? 裏側かしら?」
建物を見回しつつ、私がそう呟くように言うと、
「いや、裏側にもなさそうだな。というか……クレアボヤンスで覗いてみても、入口らしきものがまったく見当たらない」
と蒼夜が返してきた。
「だとしたら地下から行く……とか?」
そう言って首を傾げるカエデに、
「階段っぽいのもないんだよなぁ……」
などと返事をする蒼夜。入口もなし、階段もなし……ねぇ……
「昇降機、あるいはテレポーターかのぅ?」
腕を組みながらそんな風に言うエステルに続くようにして、
「またそれを探すの? もう面倒だから壁を壊せばいいんじゃないかしら……」
と言って肩をすくめてみせるシャル。
「……なんだかもう、それでいい気がして来たわ……」
「古代の遺跡を調査する身としては『壊そう』とは言い難いけど……でも、個人的にはもう壊しちゃっていいんじゃないかなって思うよ」
「昇降機やテレポーターは、どう考えても探すのに手間がかかりそうだしな」
私、カエデ、ロディがそれぞれそんな風に言うと、
「……ま、そうだな。ここは壁を壊してショートカットするか」
と、蒼夜までそう言ってきた。
「まあ、器物損壊の罪に問われるような場所ではないですし、そもそも問う者もいませんから、壊しても別に構わないとは思いますが……壊せるようなものなのでしょうか? 古代遺跡の壁は、現代の技術では考えられない程の強固さがありますが……」
ジャンさんがそんな事を口にすると、
「融合魔法なら穴くらい空けられそうな気がするが」
と返す蒼夜。
「それはむしろ、穴を空けすぎて倒壊の危険性が出てくるのではないかのぅ……」
「魔煌弓のチャージショットとか?」
エステルの言葉に対し、私がそう問いかけると、
「融合魔法と大差ないわい。貫通しすぎるものはやめておいた方がよいじゃろうな。壁のみならず主柱などの壊してはまずい所まで巻き込みかねんからのぅ」
と言って、首を横に振ってくるエステル。
まあ……たしかに否定は出来ないわね……
「ならもう斬るしかないわね」
シャルがそんな事を口にしつつ、刀と剣の柄にそれぞれ手を掛ける。
そして、「はっ!」という掛け声と共にそれを抜き放った。
「ほあっ!?」
エステルのそんな素っ頓狂な驚きの声が発せられるのとほぼ同時に、X字の霊力の衝撃波が生み出され、建物の壁へと襲いかかる。
そして、そのまま強烈な破砕音と共に壁の一部分を粉砕した。
「いくらなんでもいきなり過ぎじゃ……。何とも無かったから良いものを……」
いきなり壁を粉砕したシャルに対し、エステルがやれやれと首を横に振りながら言う。
「うーん、霊力ってとんでもないねぇ……」
なんて事をカエデが呟くように言うと、
「これは霊力と紋章の力の合せ技ね。さすがに霊力だけじゃ壊すのは難しいけど、紋章の力を乗せてあげれば問題なくいけるわ」
などという返答をするシャル。
「紋章って、そういう使い方も出来るのか」
「ええ。まあ私の紋章は、だけど」
今度はロディに対してそう返すシャル。
「魔法探偵シャルロットで建物を破壊するシーンがあるけど、あれってもしかしてこれを使った……とか?」
「ええそうね。もっとも……紋章の暴走を制御出来ていない頃だったから、『少しばかり』やりすぎてしまったけれど……ね」
カエデの問いかけに、シャルがそんな風に答える。
……『少しばかり』の所を強調していたけど、なんというか……少しばかりで済むようなものじゃなかったような気しかしないわねぇ……なんて事を思っていると、
「ま、まあそれはともかく、しっかり壁だけ壊れたし、中に入るとしましょ」
と告げて、建物の中へと歩を進めるシャル。
……『しっかり壁だけ壊れた』?
う、うーん……。その言い回しだけで、やっぱり少しばかりで済むようなものじゃなかったのが分かるというか、その時に何があったのかがなんとなく想像つくというものね……
などと思いながら、私は壊れた壁から建物の中へと足を踏み入れるのだった――
実はここ、一番最初のプロットでは、建物の中に入るまでもう少し時間を要する流れだったのですが、間延びするだけで特に意味もない状態だったので、以前の大調整の時に大幅にカットしていたりします。
とまあそんな所でまた次回! ……なのですが、所用により7月頭に3日程更新出来ない状況になる為、先行して出来ている部分を使い、少し更新日をスライドするようにして空きが出来すぎないようにしようと思います。
そのため、次の更新は『 7月3日(水) 』の想定です(その次の更新は、7月8日(月)を想定しており、そこからはいつもどおりの更新日に戻る予定です)




