第131話[表] 歪んだ魔獣の出現頻度
<Side:Akari>
「どうやら、ここにあるのは装置だけのようじゃな。これを稼働させて何かを実行する端末は他の場所にあるようじゃ」
そんな風に告げてきたエステルに対し、
「ロディが言った『まさかのオチ』だったわけね……」
とロディの方を見ながら言って、やれやれと首を横に振る私。
まあ、不安的中ともいうけれど。
「正直、当たって欲しくないオチだったが、昇降機が見当たらない以上そうなるよなぁ……」
ロディは腰に手を当ててため息混じりにそう口にした後、エステルの方を見て問いかける。
「――その端末がある場所って、こう……サクッと分かったりしないのか?」
「端末がある場所については、エネルギーの流れを辿れば分かるはずじゃ。……が、サクッとはいかぬな。どうしても『それなりの』時間がかかってしまうのぅ」
『それなりの』を強調しつつ、そう返事をするエステルに対し、
「……それってつまり、出現頻度の凄まじい歪んだ魔獣を倒し続ける必要があるって事よね?」
という問いの言葉を投げかけるシャル。
たしかにそうなるわよねぇ……と思っていると、案の定エステルが、
「まあ、そういう事になるのぅ……」
と答えて肩をすくめてみせた。うん、分かっていたわ。
「……とはいえ、闇雲に探すよりはマシだと思うしかありませんね」
「そうだなぁ……。……と言ってるそばから湧いてきたな」
ジャンさんに続いて蒼夜がそんな風に言った通り、歪んだ魔獣の『予兆』が早速生じていた。
「瞬殺出来るとはいえ、ひっきりなしに来るのはさすがに面倒だねぇ……」
「そうねぇ。出現を封じる手段が欲しいわ……」
私がカエデに対してため息混じりにそう返した所で、
「それなんだけど……私たちが遺跡内に足を踏み入れるまでは、まったく姿が見えなかったじゃない? その事を考えると、なにかありそうな感じがしない?」
なんて事をシャルが言ってくる。
「よっと! え? そうなの?」
チャージショットで歪んだ魔獣を消し飛ばしながら問う私に、
「ええ。だって、ずっとこうやって出現し続けるのなら、今頃この遺跡はこいつらで埋まっているじゃない」
と返してくるシャル。なるほど、言われてみるとその通りね。
「これで終わりだな。――そもそもこいつらって、俺たちのいる所にしか出現して来なくないか? さっきぐるっと回って元の場所に戻ってきた時も、俺たちがそこに行くまでは何もいなかったしな。所構わず出現するようになったってんなら、先に待ち構えているのが居てもいいはずなのによ」
最後の1体を倒しながらそんな風に言ったロディに対し、蒼夜は顎に手を当てて、
「……ふむ。言われてみるとたしかにそうだな。となると、遺跡の守護者――ガーディアンのような存在も兼ねていて、ピンポイントに侵入者の居る場所に出現させている……のか?」
なんて事を呟くように言う。
「そうですね……それは十分あり得るのではないかと思います。だからこそ『歪みの根幹』に近づく程、出現頻度が上がっている……とも考えられますからね」
「うん? それってつまり、『何者か』があの歪んだ魔獣を送ってきているって事? で、『歪みの根幹』から近ければすぐに新手を送り込めるけど、遠いと送り込むまでに時間がかかる……と?」
ジャンさんの発言に対し、カエデがそんな風に問う。
「はい、その通りです。そしてその『何者か』については、この遺跡の侵入者撃退用システムの類などが考えられますね。そのシステムが生きていて、そういった『処理』――『対応』を自動的に行なっていると考えれば、色々としっくりきますし」
「うーんなるほど。たしかに古代アウリア文明の遺跡って、そういう『自動迎撃システム』みたいなのが存在している所って多いよね。トラップの魔法陣なんかもその類だと言えばその類だし」
カエデがジャンさんの説明に納得しつつ、そう口にする。
トラップの魔法陣……ねぇ。
そう言われると、私とユーコがオルティリアの遺跡で遭遇した奴も、遺跡の『自動迎撃システム』のひとつだと言えなくもないわね。
「要するに『自動迎撃システム』の親玉みたいなシステムがあって、それがまだ生きているって考えればいいのよね?」
そんな風に言ったシャルに対してエステルが、
「まあそうなるのぅ。一応そっちも探れないか試してみるとしようかの」
と、なにやら大型の魔煌具――幻導具の方かもしれないけど、見た目からでは判別出来ない――を複数設置しながら言う。
そして設置し終えた所で、今度はそれを操作しつつ、
「とりあえず探知を始めるゆえ、歪んだ魔獣の方は任せたぞい」
なんて言ってきた。
「仕方ないわねぇ……。というか、あいつらって大して強いわけでもないし、みんなである程度広がっておいて、近くに湧いてきたら瞬殺する感じでいいんじゃないかしら……」
シャルが肩をすくめながらそんな事を口にする。
それに対して、
「ふむ。つまり全員でモグラ叩きをするってわけか。互いに離れていても、携帯通信機の通話をオープンにしたままにしておけば会話は出来るし、いいんじゃないか?」
「そうねぇ。散開して湧いてきたのを各自で倒していくのが、一番手っ取り早い気が私もするわね」
と、そう返す蒼夜と私。
他の皆も特に異論はなく、じゃあそれでという事になった。
……
…………
………………
「う、うーん……。なんだか私のいる辺り、湧きすぎな感じがするわ……。もう24体目よ……?」
私は誰にともなく呟きながら、歪んだ魔獣を仕留める。
さっきよりも出現頻度上がってないかしらね? これ。
なんて思ってると、
『そう? 私と誤差だと思うけど? 私は今湧いてきたこいつで23体目だし』
とシャルが通信機越しに返してきた。
そしてそれに続くようにして、
『逆に私の所はまったく出現しませんね。まだ2体しか倒していませんし』
『こっちもまだ3体だよ。まったく出ないってわけじゃないけど、明らかに少ないね』
『ああ、俺も5体しか倒してないな。急に出現頻度がガクンと下がった感じがする』
と、ジャンさん、カエデ、ロディが言ってくる。
『こっちはそこまで極端に出現頻度が下がった感じではないな。これで19体目だ』
エステルの所にいる蒼夜はそんな感じらしい。
経過時間からすると、さっきとあまり変わらないわね。
『なんだか随分とムラがあるというか、偏ってるわね……』
シャルがそう口にすると、蒼夜がそれに対して、
『場所を入れ替えてみるか?』
という提案をした。
『そうね。ちょっと交代してみましょ』
どうやらシャルと蒼夜は場所を入れ替えるらしい。
うーん、場所によって出やすいとか出にくいとかあるのかしらね……?
なんて思いながら、湧いてくる歪んだ魔獣を倒していると、
『……ねぇ、さっきより出現頻度が上がってるんだけど……』
『そうじゃな。ひっきりなしに襲ってくるわい』
と言ってくるシャルとエステル。
それに対して、
『俺の方は目に見えて出現しなくなったぞ。あれから5体しか……いや、ちょうど6体目が湧いてきた所だ』
なんて返す蒼夜。
……私、もう合計で50体近く倒してるんだけど……
……って、あれ?
これって、もしかして……『場所によって』じゃなくて、『人によって』襲われる頻度が違ってる……?
どうにも句切れそうな場所がなかったので、想定よりも長くなりました……
ま、まあ、そんなこんなでまた次回!
次の更新も予定通りとなります、6月24日(月)の想定です!




