第128話[表] 灯と空間の穴
<Side:Akari>
「もしかして……この遺跡も、あのオルティリアの遺跡並に広い感じ?」
「さすがにそれはないわい。というか、あれと比べたらほとんどの遺跡は『凄く狭い』としか言えぬしの」
私の問いかけに対し、エステルがそんな風に返してくる。
私は、たしかにそうかも……と思い、
「あー、うん。それはまあたしかにそうね」
と、そう返事をした。
そして、そのまま腕を組みながら改めて問う。
「なら、一体どれくらいの広さなの? 私、外から見てないからわからないのよね」
「そうじゃなぁ……。外から見た感じでは、ルクストリアの大工房の倍くらいじゃったぞい」
「倍って言われても、大工房の広さが良く分からないんだけど、いや、たしかに結構な広さがあるのは見て知ってるけど……」
「ふむ……。数値で現すのなら、大工房が大体3平方キロメートルくらいじゃから……この遺跡は6平方キロメートルくらいといった所じゃなかろうかのぅ? 地下深くにまで続いておるとか、亜空間にも続いているとかじゃなければ……じゃがの」
私の問いかけに対し、エステルがそんな風に答えると、
「とりあえず、地下深くまで続いているような感じはないな。亜空間の方は……わからんな。どこかに『裏位相コネクトゲート』の類が存在している可能性はゼロではないし」
という補足を蒼夜が口にした。
そして、そこへさらにロディが続く。
「……というか、何かしらその手のものが存在していそうな感じはするけどな。まあ、あくまでもカンだが……」
「いや、そのカンは割とアテにしていいと思う。何かしら空間や次元に影響を与えるものが存在しているのは間違いないからな。でなければ、灯がこうして動く事は出来ないだろうし」
そんな蒼夜の言葉に対して私は――
こうして動けるという事は、ユーコとの距離が近くなっているという事でもあるわけで、ここからユーコの所へ行ける可能性が結構高いって事なのよね……?
ううーん……。なんというか、こう……ピキーンって感じで、地球と繋がっている場所を感じ取れたりしないものかしらね……と、そんな事を思った。
そして一呼吸置いてから、まあ……そう上手くはいかないわよねぇ……なんて感じで、心の中でため息をつきながら周囲を見回す。
……って。うん? んん?
右前方――といっても、かなり遠くだけれど――に、グニャッと歪んでいる場所があるようなないような……。一体なにかしら……。うーん、ううーん……
「アカリ? なにをそんなに首を傾げまくってるのよ?」
……私、そんなに首を傾げまくっていたかしら……と思いつつ、ある意味もっともな疑問を私に対して投げかけてきたシャルに、
「あ、えっと……。右前方――つまり、あっちの方だけど……」
と返して一度言葉を切ると、指でその方向を示す私。
そして一呼吸置き、続きの言葉を紡ぐ。
「なにか……グニャッと歪んでいる場所がありそうな……そんな感覚があるのよ。まあ、薄っすらとだから、絶対そうだとは言い切れないんだけど」
「グニャッと歪んで……いる?」
顎に手を当ててそんな風に呟くシャルに続くようにして、蒼夜も、
「ふーむ、なんだか言い回しがマーシャに似ているな。……ひょっとしたらひょっとする……のか?」
なんて事を呟いた。
「言い回しがマーシャちゃんに似ているってどういう事?」
「いや、前にマーシャが、エレンディアのアナスタシア自然公園に開いた『空間の穴』をそう表現していたから、もしかしたら同じように感じて、同じように表現しているんじゃないかって思ったんだ」
私の問いかけにそう返してくる蒼夜。
それに対して私は、その時の事――マーシャちゃんが嫌なものを感じると言って、調べたら隠された通路があって、最終的には『可変の集合体』とかいう奴のところに辿り着いた事――を思い出しながら、言葉を紡ぐ。
「あー……そう言えば、グニャっとか、モヤァとか、そんな事を水晶の滝――正確に言うと、その滝の裏の洞窟――で、言ってたわね。マーシャちゃん」
そして更にそのまま、「うーん……」と少し考えてから、
「……言われてみるとたしかに『同じ』かも……。グニャっとかモヤァとも表現出来そうな、そんな感覚だし」
と、『同じ』の部分を強調しつつ言葉を続けた。
「うーん、なるほど……。だとすると、この遺跡のどこかに『空間の穴』が生じている可能性が高そうだね」
カエデが腕を組みながらそう言うと、それに続くようにして、
「そうだなぁ……。その『空間の穴』の繋がっている先がどこかというのが気になるが……灯がこうして動けている事を考えると……」
なんて事を蒼夜が言ってきた。
……私がこうして動けるという事を前提にするのなら、答えはひとつしかないわけで……
「この薄っすらと感じる歪みは、地球――」
とそこまで口にした所で、『地球』だと、蒼夜とロディ以外にはノイズになってしまう気がしたので、
「――ユーコの所へと通じる『空間の穴』……?」
と言い直す。
「ああ、そうなるだろうな。……まあ、穴そのものではなく、同じような性質を持つゲート的なものである可能性もなくはないが」
蒼夜が私の発言を引き継ぐようにして、そう告げてくる。
それって要するに、どっちにしてもユーコの所へ繋がっている『何か』が、ここにはあるって事よね。
これは『いい傾向の兆し』だと言うべきじゃないかしら。
でも、なんというか……『ピキーンって感じで、地球と繋がっている場所を感じ取れたりしないものかしら』なんて事を思いはしたけど、実際にこうしてその場所を感じ取れると、ちょっと困惑してしまうわねぇ。
一体、どうして感じ取れるのかしら……。ユーコと魂が半分繋がっているようなものだから……とか?
などと思考を巡らせていると、
「なにはともあれ、アカリさんがその『何か』を感じるのであれば、そちらの方へ行ってみるのが良さそうですね。虱潰しに調べていくよりも確実でしょうし」
と、ジャンさんが言ってきた。
「だねぇ。ここはアカリが先導するのがいいんじゃないかな?」
カエデがジャンさんに同意してそう言うと、どうやら蒼夜も同じ意見のようで、
「そうだな。そうしてくれると助かる」
なんて事を口にしつつ、私の方へと顔を向けてくる。
ええっと――
「……でも、あくまでも方向を薄っすらと感じ取れるだけだから、この遺跡のどこにあるかまではわからないわよ? そもそも……ここの構造を把握しているわけじゃないから、適当に進む感じになっちゃうけど……」
そんな風に私が言うと、
「なぁに、それで全然問題ないわい。なにせ、ここの構造なぞ妾たちも把握しておらぬ。誰が先頭に立って進もうとも、『適当に進む感じ』でしかないのじゃからのぅ」
「ああ。ジャンさんが言った通り、虱潰しに調べるよりはいいってもんだ」
と、エステルとロディが返してきた。
「……分かったわ。それなら私が先頭に立って進むわね」
私はそう言うと先頭に立ち、なんとなくの感覚でみんなを引っ張って、遺跡内を進んでいくのだった――
灯がなにやら感じ取っていますが果たして……?
とまあそんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなります、6月14日(金)の想定です!




