第123話[裏] 遺跡と重力異常
<Side:Souya>
紆余曲折あった末、ディガルタの遺跡――長年雪に埋もれていたという古代の城へと辿り着いた俺たち。
と、そこで、
「ほほう、これはこれは何とも異常な感じで……。実に興味深い現象ですね」
なんて事をジャンが言った。
ちなみにジャンがここにいるのは、ユーコの代わりらしい。
というのも、広捜隊にはロゼが一時的に加わった事で、戦力に余裕がある――というか、ありまくりのようで、カエデと繋がりのあるジャンがこっちに来る事になったかなんとか。
それはさておき、ジャンが『異常』『興味深い』と言ったが、たしかに目の前の光景は普通ではなかった。
「遺跡周辺の地面が隆起……どころか、完全に宙に浮いているわねぇ……」
シャルがそう呟いた通り、長年雪に埋もれていたという古代の城を中心に半径3キロに渡って地面が抉れ、その抉れた部分の岩盤が、まるっとそのまま空に浮かび上がっていた。
もっとも、空に浮いている大地は、浮く前の姿そのままで浮いているわけではない。
元々平らな大地だったものは細かく砕け、高さも広さもバラバラな、複数の浮遊島を形成している状態だ。
なので、浮遊島同士が上下に重なり合い、まるで多層構造のようになっている場所もあったりする。
おそらく、浮かび上がった時の『異常な現象』によってそうなったのだろう。
そして、その下――クレーター……というには真っ平らだが、地面が抉れたその場所に、以前冥界を訪れた際に見た『古代アウリア文明特有の建材』で作られた巨大な建物が広がっていた。
「なるほど、カエデが古代の城と断言していたのはこういう事じゃったか……」
ジャンと同じく、急遽調査に参加する事になったエステルがそんな風に言う。
「古代の城だと言っていたが、これって、複数の棟からなる施設――大学とか研究所とか工場とか、そういう感じじゃないか? エレンディアでも、北の方の郊外で最近こういう感じのものが建ち始めてるし」
「ああ、たしかにそうだな。各棟の高さもルクストリアにあるエクスクリス学院や大工房なんかと同じ感じだ」
ロディの発言に対し、俺はクレアボヤンスで建物全体を確認しつつそう返す。
するとそこで、俺たちのところへとやってきたカエデが、頬を掻きながら、
「そうだね。私もそんな風に感じたけど、『古代の大学遺跡』とか『古代の工場遺跡』とか呼ぶのは、ちょっとこう……ロマンが感じなかったから……」
なんて事を呟くように言った。
……うんまあ、たしかにそれはそうだが……ロマンで名付けていいものなのか……?
と、そんな事を思っていると、
「しかし、これはまた分かりやすいくらいの『重力異常』じゃのぅ」
と言いつつ、調査用の魔煌具を取り出すエステル。
「たしかにそうだな。これ、ここから先――地面が抉れた事で深い谷と化しているが、その谷底の部分って無重力みたいになっていたりするのか?」
俺はエステルに対して頷きつつ、古代の城――というか古代の何かの施設――とその周辺を改めて見回しながら問う。
「今調べておる所じゃが……どうやら『あの浮いている地面の周囲だけ』が『無重力』化しておるようじゃな。底――というより、あの施設群の少し上から、通常よりも少し重力が小さいようじゃ。まあ、一応重力自体は『下』に向かって働いておる感じじゃがの」
なんて事をエステルが言ってくる。
ふーむ……。まるで月かなにかのようだな。
「とりあえず、あの施設群まで行ってみる? 重力が小さいなら飛び下りても大丈夫よね?」
「まあ、空気抵抗が減っていたりはしないゆえ、普通よりはふわりと着地出来るはずじゃが……あまりオススメはせぬぞ? 普通に落下速度制御魔法を使って下りた方が良いぞい」
シャルの問いかけに対し、そんな風に言って肩をすくめてみせるエステル。
そう言えば……月では重力は小さいからといって、高所から飛び下りるなんて行為をするのは危険だと、そんな話を聞いた事があるな。
もっともあれは、月には大気がなく、空気抵抗が一切存在しないがゆえに、落下速度が加速し続ける為だと思うが。
っと、それはそれとして――
「――《翠天舞の落羽》!」
落下速度を大幅に――まさに羽根が舞い落ちるかの如き速度まで――遅くする魔法を使って、ゆっくりと崖を降下する俺。
他の皆も同じように魔法を使って降下。
ジャンは翼があるので普通に飛翔しながら下りていったが。
ちなみにシャルはというと、なんというかほぼそのまま飛び下りて、地面ギリギリの所で空中跳躍――要するに二段ジャンプ――を使い、速度を強引に殺すとかいう無茶な方法で着地していたりする。ロゼとかシズクとかも似たような事が出来るな。
……ってか、そもそもなんでそんな下り方を?
俺がその事を問いかけると、
「誰かが先に下りて安全をたしかめておかないと駄目でしょ? 地中にアンブッシャーとかが潜んでいるかもしれないし」
なんて事を言ってきた。
……いやまあ、たしかにそうかもしれないが……
「この辺りが浮き上がったあとも結構雪が降ったようじゃな」
エステルがそんな風に言いつつ周囲を見回す。
たしかに雪が結構積もってるな。
「あ、うん。ここの所天気があまり良くなかったというか……雪続きで吹雪いていた時もあったくらいだからね」
「なるほどな。だが、施設のある所はまったく雪がないのは一体……」
カエデの発言に対して俺がクレアボヤンスで施設全体を見ながらそう言うと、
「あの古代アウリア文明の建材、融雪効果があるみたいなんだよね」
と、そんな風に返してきた。って、そうだったのか。
「なるほどのぅ……。古代アウリア文明の遺跡が地表に露出している事は珍しいゆえ、あの建材がそういう性質を有しているなどとは、今まで思ってもいなかったわい」
俺の代わりに顎に手を当てながらそう返すエステル。
そのエステルの言葉に俺は――
言われてみると、古代アウリア文明の遺跡って、大体地中に埋もれてるな……
ここが惑星であれば、大規模な地殻変動とかがあったのかもしれないと考える所なんだが、ここってコロニーだからなぁ……。まさか、人工的に地殻変動まで再現していたりするんだろうか?
ルクストリアの地下の事を考えると、あり得ないとも言い切れないが……竜の座のデータベースには、そういった情報はなかったはずだし……。いや、単に竜の座のデータベースに存在していない、あるいは抹消されているという可能性もあるか。
もっとも……もしそういった理由で情報がないのだとしたら、どうしてそんな状態になっているのかという疑問が増えるだけだったりはするが……
と、そんな事を思ったのだった。
紆余曲折ありましたが、よくやくディガルタの遺跡の探索に入れました……
まあもっとも……灯もユーコも不在だったりするのですが……
(無論、このままずっと不在というような事にはなりませんが)
とまあそんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなります、5月27日(月)の想定です!




