第121話異伝3[表] 異形の群れの掃討
<Side:Yuko>
「なっ!? 次々と向かってきているだと!? おいおい、マジかよ!?」
「ええ。冗談だったら良かったのですが、残念ながらマジです」
秋原さんの驚きの声に対して私は、腰に手を当てて首を横に振りながら、ため息混じりにそう答えます。
そしてそのまま、
「応援の到着まで、どのくらいかかるのですか?」
と、問いかけました。
「場所が場所だからな……。急いでも1時間以上はかかるはずだ」
「だとしたら、やはりそれを待つのは難しいですね。ここで倒すしかありません」
「倒すって……。おま、監視要員を惨殺するようなバケモノの群れだろ? 纏めて相手に出来るモンなのか?」
「1体1体は弱いので大丈夫ですよ。私が踏み込むので、援護をお願いします」
私は秋原さんにそう告げて再び扉を開けます。
未改造のPACブラスターだと、接近戦を仕掛けるのは厳しいので、私が前衛を務めるのが妥当ですからね。
「あ、ああ。分かった。この状況じゃやるしかねぇか……。地上に出したらマズいしな」
と、そんな風に言いつつ、私の斜め後ろに立つ秋原さん。
それと同時に、
「……なるほど。俺の眼でも視えたぜ」
なんて事を言ってきました。
「もしかして、クレアボヤンスですか?」
「ああ。もっともこれしか使えねぇから、戦闘の役には立たねぇけどな」
私の問いかけに対し、秋原さんはそう言って肩をすくめた後、
「その聞き方だと、そっちも何か使えるのか? いや、使えるのが普通か……」
と、ある意味当然な疑問を口にしてきました。
「あ……えっと、壁をすり抜けるのと、ある程度浮遊して移動出来ます。それと……ちょっとだけですが、念動で物を動かしたりも出来ますね」
「トリプルホルダー!? しかも、何気に強力だな!?」
私の発言に驚愕する秋原さん。
「……そうでしょうか? ひとつひとつは大した事ないと思いますが」
「大した事あるっつーの! ……おそらくだが、お前の周囲にとんでもないのが多すぎるせいで、感覚と思考が麻痺してるんだと思うぞ……」
私の返事に、秋原さんがそんな事を言って返してくる。
そ、そう言われてみると……
「……なるほど……。言われてみるとたしかにそうかもしれませんね……」
私は『黄金守りの不死竜』の皆さんの事を思い出しながらそう呟きます。
「まあ……そんな感覚なら、バケモノどもの群れもたしかにどうにか出来そうだな……」
秋原さんはため息混じりかつ少し呆れ気味にそう口にすると、そこで一度言葉を切り、PACブラスターを構えてから、
「っと、そろそろクレアボヤンスなしでも視界に入りそうだ」
という続きの言葉を紡ぎました。
「ですね」
私もまたそう短く返事をしてアストラルの刃を発生させます。
「ああ、そういう武装なのか。良く分からんがABSFの技術はすげぇな……」
「いえ、これはABSF製ではなく『とある工房』で作られたプロトタイプです。ABSFも基本はPACブラスターですよ」
秋原さんに対して『とある工房』の所を強調しながらそう告げます。
異世界とか言うと説明に時間がかかるので、今はこう説明しておく事にしました。
「どっちにしてもすげぇ技術で作られてるってのは間違いねぇな。……兄貴が居たら、うちらもこういったモンを使えるようになってたかもしれねぇなぁ……」
秋原さんは盛大にため息をついてそんな事を言うと、首を横に振ります。
……兄貴?
「あの……お兄さんがいるのですか?」
「ああ。まあ……まさに『居た』というのが正しいんだけどな。が、その話は後にするとしよう」
私の問いかけに対してそう返してくる秋原さん。
おっとっと、たしかに話をしている間に、キメラもどきの異形――面倒なので魔物と呼びましょう――の群れが間近に来ていますね。
1……2……3……4……5……
第1波は5体ですか。まあ、このくらいなら一瞬ですね。
「では――」
私はそれだけ言葉を発すると、一気に魔物たちへと接近します。
「ギゲェッ!?」
突っ込んでくるとは思っていなかったのか、少し慌てた様子の魔物たち。
そんな魔物たちに対して私は、
「反応が遅いですね」
と告げながら刃を振るいます。
まずは纏めて2体撃破。
続けて更に1体。2体。
残り1体。――攻撃を仕掛けてきますか。でも、遅すぎでしたね。
最後の1体が私に向かってナタのようなものを振りまわしながら突っ込んできますが、その程度では無意味というものです。
私は両手を交差させるようにして重ねた状態でその場に留まり……射程に入った所で手を大きく振るいます。
アストラルの刃がX字の軌跡を描き、あっさりと迫っていた最後の1体を斬り裂きました。
「マジで一瞬だな……。そのビームの剣みたいなの切れ味抜群すぎだろ」
なんて声が後ろから聞こえてきます。
ビームではないのですが、まあ……見た目的にはそう見えなくもないですよね。これって。
それはそれとして……
「――最低でもあと3波は来ますね。全て一撃で斬り倒せるとは限らないので、倒し損ねたものや、そもそも一撃で仕留めるのが難しいような相手が来ましたら、お任せします」
「ああ、任せておけ。きっちり援護してやるさ」
私の言葉に頷きつつ、そう答える秋原さん。
と、その直後、第2波が迫ってくるのが視界に入ります。
数的には大差ないですね。これなら第2波もすぐに片付きそうです。
……
…………
………………
「もう迫ってくる気配はありませんね。どうやら掃討出来たようです」
「そうだな。……まあ、俺が倒したのは3体だけだがな」
秋原さんが私に対して頷きながらそんな風に言い、肩をすくめてみせます。
「いえ。私があのように立ち回れたのは、秋原さんに妨害とか追撃とかもしっかりしていただけたお陰ですよ。細かい事を気にせずに振り回せましたから」
「そりゃま、援護を任された以上は、せめてあのくらいやってみせねぇとな」
秋原さんが私に対してサラッとそう返しつつ肩をすくめてみせますが、それは普通ではないような……
「初対面の相手の動きに合わせて、的確な援護を当然のようにやってのける……というのは、かなりの技量だと思いますが……」
「そうか? 動きを見てりゃ、そのくらい出来て当然だと思うんだがな? 副室長なんだしよ」
私の言葉に、首を傾げながらそんな風に言ってくる秋原さん。
……秋原さんも十分『普通ではない』ような気がしますが、というか……そもそも副室長だからそのくらい出来て当然というのが、なにかおかしいような……いえ、まあ、別にいいですが……
「それはそれとして、こうも一斉に襲いかかってくるとはな。一体何がこいつらを刺激したんだ……?」
「私がいきなり転移で『巣穴』に飛び込んだからですかね……?」
「あー……なるほど。その可能性は、ないとは言い切れねぇな」
「ところで、一応襲いかかってきたのは掃討はしましたけど、まだ奥に潜んでいるのがいるかもしれません。……どうしましょう?」
「んー、そこは応援――制圧部隊に任せるとしようぜ。仕事を全て奪うのは忍びねぇしな」
「た、たしかにそうですね……。それでは、外に出て到着を待つといたしましょうか」
「ああ、そうするとしよう。……しっかし、この光景を見たら、制圧部隊は驚くだろうなぁ……」
私に対して頷きながらそう言って、周囲に転がっている魔物の屍を眺める秋原さん。
「たしかに、まだこんなに残っていたとは思いませんでした。驚きです」
「いや、そういう意味じゃねぇんだが……。まあ……いいか」
私の発言に、秋原さんは何故かため息混じりに、呆れ顔でそんな風に返してきます。
……あれ?
もしかしてこれは、『やり過ぎ』という話……なんですかね?
結構な長さになってしまいましたが、区切れる所がないのでここまで一気に行ってしまいました……
とまあそんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなります、5月17日(金)の想定です!




