第121話異伝2[表] 始まりの場所
<Side:Yuko>
「あー……なんだ? よくわからんが……とりあえずその武装からして、『広捜隊』っつーモンは、俺と同業者って事でいいのか? しかも『直接交戦するタイプ』の」
「同業者?」
問いかけに対し首を傾げながら男性を良く見てみます。
……手に持っている杖、これは……
「PACブラスター?」
「ふむ、これを知ってるっつー事は、やっぱり『こっち』の人間か。っと、名乗るのが遅くなっちまったな。――俺は超常現象調査室で副室長をしている秋原勇。ああ、秋原は春夏秋冬の秋に原っぱの原な。んで、勇は勇気の勇だ」
男性はそんな風に名乗ってきました。
……え? ちょうじょうげんしょうちょうさしつ? ふくしつちょう?
それに、PACブラスター……
「……あの、ここって地球……の日本なんですか?」
「おかしな事を聞く奴だな。当然だろう」
男性――秋原さんが『何を言っているんだ?』と言わんばかりの表情で、私の問いかけに対して返事をしてきます。
……えっと、その……正直言うと、えええええええええっ!? と叫びたい所です。
ですがまあ、それは心の中でだけにしておきましょう。今は。
「い、いえ、その……信じて貰えるか怪しいですが、ここにはある種の転移でやってきた感じでして……」
とりあえず、そんな風に言う私に、
「転移してきた? なるほど……そう考えると合点がいくと言えば合点がいくな……。だが、『広捜隊』……?」
と、そんな事を呟きながら考え込む秋原さん。
「あ、えっと、『ABSF』の『冥賀ゆうこ』と言った方が通じるかもしれませんね。可能でしたら、ABSFに繋いでいただけると……。実は転移の際に連絡用の端末を失ってしまったもので……」
「ABSFかよ! だが、それならまあ……なんとかなるか? ちょいと聞いてみるから、周囲の警戒だけしておいてくれねぇか?」
私の発言にそう返しつつ、携帯通信機……ではなく、スマホを取り出して電話する秋原さん。
というかここ、普通に使えるんですね……
なんて事を思いつつ、私が言われた通り周囲を警戒していると、
「おう美香、今いいか?」
という秋原さんの声が聞こえてきました。
美香さんという人に電話したようですが……どういう方なんでしょう?
と、そんな風に思っていると、
「んあ? 室長と呼べ? 別にいいじゃねぇか、どっちでも。……へいへいわーったよ、室長殿」
なんて声が更に聞こえてきました。
……室長さんなんですね……。電話相手の美香さんという人は……
「――ああ、実は例の廃墟でABSFの人間と接触したんだがよ、なんか別の場所から転移してきたとか言っててな。悪いんだが、ABSFに伝えてくれねぇか? メイガユーコっていう少女だ」
なんていう秋原さんの声が聞こえてくる。
今更ですが……ここ、実は限りなく似ているだけの『並行世界』とかではないですよね……?
まあ、ABSFで通じたので大丈夫だとは思いますが……
などという事を考えていると、
「わかった。ここを片付けたら一旦そっちに連れて行くぜ。んじゃ、また後でな」
と美香さんに告げ、電話を切る秋原さん。
「――聞こえていたかもしれんが、とりあえず一度、超常現象調査室に来てくれないか? あちらさんに伝えるのも、あちらさんから返答が来るのも、どちらも少し時間かかりそうな感じなんでな」
「あ、はい。それはもちろん構いませんよ」
私は秋原さんに対してそう返すと、非常口の方を一瞥してから、
「それと、ここを片付けたら……と言っていましたが、もしかして秋原さんは、私が先程遭遇したキメラもどき……とでも言うのがしっくりくるような、地の色が赤くない異形のバケモノ。アレを始末しに来た感じですか?」
という問いの言葉を続けます。
「そう言うって事は、やっぱりバケモンが潜んでいやがったか。やれやれ……マジでどっから湧いて来やがったんだ……?」
「といいますと?」
「ああ、ここはかなり前に、ウチ――と言っても今とは違うメンツだが――が、犠牲者を出しながらどうにか制圧した場所でな、バケモノどもはその時に一掃してるし、何度も調査してるから、出るはずがねぇんだよ」
小首を傾げる私に対し、そう説明してくる秋原さん。
超常現象調査室、犠牲、制圧……
うーん……。もしかしてその犠牲者って蒼夜さんの事だったりするんですかね?
前に研究所の制圧作戦で死にかけて、それでグラスティアに転移したと言っていましたし。
なんて事を考えながら、
「なるほど……。でも、実際に数体見かけましたよ。全て倒してしまいましたが」
と、そう告げる私。
「さすがはABSFって所か? いや実はよ、ここは監視要員を複数人配置して、しっかりと監視してるんだが……少し前にその監視要員たちからの連絡が途絶えてよ、なにかあったんじゃねぇかと思って、様子を見に来てみたら……惨殺されたそいつらの遺体を見つけちまったんだわ」
「そのような状況だったのですか……」
「ああ。……あいつらを殺ったのはお前さんが遭遇した奴か、あるいはまだいるであろう仲間だろうな。――ともかく、殲滅しなければ危険だな……。よし、すぐに応援を呼ぶとしよう」
秋原さんはそう言うと、即座にスマホを使って応援要請をしました。
そして、
「応援が到着し次第すぐに制圧すっから、すまんがそれまで待っててくれ」
と、秋原さんがそんな風に言ってきます。
ですが……どうやら、気楽に待っているだけ……とはいかないようですね。
私は先程まで居た通路を一瞥しつつ、
「いえ……残念ですが、ただ単に待つだけというのは難しそうです。なぜなら『殺気立った気配』が、こちらに次々と向かってきていますから」
と、そう秋原さんに対して告げます。
仲間を殺された事に気づいて、私を追ってきたのでしょうか?
それとも、こうして会話している事で、ここに獲物がいると判断したのでしょうか?
まあ……なんにせよ、応援を待っている余裕などない状況だというのは、間違いないですね。
遂にこの物語の冒頭と繋がる所まで来ました……
とまあそんな所でまた次回!
次の更新は予定通りとなりまして、5月13日(月)の想定です!




