第117話[表] 光の球と黒い球
<Side:Yuko>
私の手持ちの攻撃手段だけでは、クリティカルなダメージを与えるのは、なかなか難しいというものです。
接近戦で斬りまくるのが一番効果的だとは思いますが、それでも大ダメージとはいきませんし……
というか、既にかなり斬っているのに弱っている素振りすらありませんからね……
普通に倒すのが難しいのであれば、何らかの方法で穴の中に押し返すという手もありますが……そもそもどうやって押し返せばいいのか、押し返した所で穴が開いたままでは駄目なのではないか、という問題がありますね……
あれこれと考えつつ、魔物の放ってくる衝撃波を掻い潜りながら魔弾を撃ち続けていく私。
「ヲヲヲヲヲヲンンンンンッ!!」
攻撃が当たらない事に業を煮やしたのか、魔物が咆哮。
すると、口の先に火球――いえ、紅蓮に輝く光球が生じました。
そして、6本の腕をその光球を包み込むように動かします。
上手く相殺出来ないかと思い、光球に魔弾を撃ち込んでみるも、魔弾は光球に当たっていますが、吸収されているというか、かき消されているというか、一向に相殺される様子はありませんでした。
……となると、魔法――というか、魔煌波に干渉する攻撃ではない?
未来視がないのは危険度が低いからなのか、それともそもそもさっきの発動が偶然だったのか、どっちなのかよく分かりませんね……
とりあえず……光球に力をチャージしているのか、完全に無防備っぽいので、ここは接近戦を仕掛けてみるとしましょうか。
思考の結論を出した私は、腕を狙って一気に踏み込んで斬りつけます。
しかし――
「えっ!?」
キィンという甲高い音と共に、弾かれました。
……ど、どうしてアストラルエッジが……!?
驚きつつも光球を包み込むかのような格好のその腕を良く見てみると、薄っすらと白い靄のようなものが纏われていました。……これは、間近までこないと見えませんね……
この靄のようなものが、アストラルエッジを弾いたという事なのでしょう。
と、そこで唐突に頭に痛みが走り、再び未来視。
映し出されたのは、光球が炸裂し、そこを起点に周囲に大量の光弾が放射される光景。
光弾は床に触れるなり次々に爆発し、その爆発に飲み込まれる私の姿。
簡単に言うと、『回避不可能な弾幕』という奴ですね。弾幕シューティングでこれが来たらバグですね。弾幕とは回避可能な場所があってこそなのですから。
……って、それはいいとして、これはインタラプト――阻止しなければ駄目という事なのでしょうか……
完全に攻撃が停止しているのは、放てば私を消し飛ばせると分かっているからなのでしょう。
どうすれば止められるのかと考え、まずはその白い靄のようなものを凝視してみます。
すると、僅かに光球の方へ向かって『流れて』いるのが分かりました。
これはつまり……何らかの力が腕を介して光球へとチャージされていっている所……なのでしょうか?
アストラルエッジを弾いたという事は、これはアストラルエッジと同じような性質を持っている……と、そう考える事が出来ますね……
要するに磁石の同極同士がぶつかりあった時のような『反発』が生じたのでしょう。
アストラルエッジがその性質によって通じないのであれば、もっと物理的な攻撃なら?
私はそう考え、「せいっ!」と声を発しつつ、即座にその場でクルリと縦に回転しつつ蹴りを叩き込みます。
更に一回転し終わると同時に、「やあっ!」と声を発して素早くもう一回転。
要するに、2連続でサマーソルトキックを叩き込んだ感じです。
浮いているのでバク転とかしなくていいですし、やりやすいんですよね、これ。
……ですが、残念ながらびくともしません。
物理的な衝撃でズラそうにも、さすがに力が足りませんか……
ならば次は……
私はエステルさんのお店で以前購入した霊幻鋼製の短剣を構え、「はっ!」という掛け声と共に勢いよく振るいます。
すると、僅かに赤紫色の結晶が飛び散りました。
それを確認するなり、無言で腕に短剣を突き刺す私。
先程よりも多くの赤紫色の結晶が飛び散り、白い靄の流れが僅かに揺らめきます。
さすがに霊幻鋼だけあって、それなりに効いているというか、僅かに妨害出来た気がします。
ただ……流れの方が強くて、あまり効果があるようには感じませんね……これ。魔物も怯む素振りすらみせませんし……
もっと、流れの根幹となっている場所に突き刺せば、効果があるかもしれませんが、それが一体どこなのか……
魔物はチャージに集中している事もあって無防備状態なので、白い靄の流れを探りやすいですが……
頭……は、白い靄が少し濃いというか、厚いですが口に向かって流れて行っていますね。
となると……
私は露出状態の上半身へと視線を向けます。
こちらも口と同じように厚いですね……
……? 白い靄の流れが、胸の辺りから発せられて、腕へ向かっている……?
……あそこが起点でしょうか? であれば――
私はその一点に向かって一気に踏み込みます。
と、その直後、魔物がニヤリとしたように感じました。
「っ!?」
再び未来視。
今度は、どこから湧いてきたのか良く分からない大量の赤錆色の鎖に巻き付かれて動けなくなった私に、光弾が降り注ぐ光景。
その場で急停止した次の瞬間、胸の部分に魔法陣のようなものが出現。そこから赤錆色の鎖が大量に伸びてきて、私に絡みついてこようとします。
「くっ!」
私はそれを斬り払いつつ後退――
――しようとするも、絡みつかれて失敗。
絡みついてきたそれを斬るも、また絡みつかれ……
更に斬る。しかし絡みつかれる。
更に斬る。絡みつかれる。斬る。絡みつかれる。
こ、これはまずいですね……っ! この鎖、四方八方から次々に迫ってくるせいで、少し斬ったくらいではどうにもなりません……っ!
い、一体どうすれば……っ!?
想定よりもあまり進めませんでした……。次はもうちょっと一気に進めたい所です。
とまあそんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなります、4月19日(金)の想定です!




