第114話[表] 地の底の歪み
<Side:Yuko>
私は地面に空いた深い穴の底を目指して、降下し続けていきます。
うーん……。これは思った以上に深いですね……
まったく底が見えません……
一応、エステルさん製の照明魔煌具を使っているので、十分な明るさは確保出来てはいますが、一体どこまで続いているのでしょう。
さすがに、この世界の果て――コロニーの外壁まで続いている……などという事はないと思いますが……
と、そんな事を考えながら、更に降下していく事しばし……
地上からの光がほとんど届かない程の深さになった所で、底が見えてきました。
というか……金属? 地面ではなく、床?
そう……。見えてきた底は、土の地面ではなく金属の床だったのです。
こんな深くに、人工的に作られた何かがあるとは想定外ですね……
もしや、この世界……というか、このコロニーを建設する際に工事用、あるいはメンテナンス用として作られたもの……とかだったりするのでしょうか?
そんな事を考えながら『底』に向かって降下していく私。
するとその直後、身体が自然にゆっくりと、縦に回転しそうになります。
訳が分からないものの、とりあえず姿勢を元に戻します。
このまま回転したら頭をぶつけてしまいますし。
ですが――
う、うーん……。元の姿勢に戻したのに、気をつけていないと身体が勝手に回ってしまいそうですね……
なんというかこう……まるで水の上に浮いているボールのように、同じ場所に留まるのが何故か難しいというか……
と、そこまで思考した所で、私はふと思った事があり、次元鞄からガントレットの予備を取り出し、それを軽く放ってみました。
すると、ガントレットは落下する事なく宙に留まったまま、ゆっくりと回転し始めます。
……ここ、どうやら無重力状態になっているみたいですね……
この世界が巨大なコロニーである事を考えれば、重力も何らかのシステムで人工的に作り出されているものである事は間違いないですし、そのシステムがこの辺りだけ異常化している……とかなのかもしれませんね。
もっとも……何故そんな状況になっているのか、そしてどうしてこんな穴が空いたのか、その辺はさっぱりですが……
……とりあえず、底まで下りてみれば何か分かるかもしれませんし、このまま慎重に下りてみるとしましょうか。
私は心の中でそう結論を出し、宙に留まったままのガントレットを回収すると、回転してしまわないように注意しつつ更に降下。
どうにか、底――金属の床の上に着地する。
……正確に言うと私は浮遊状態なので、『着地』はしていませんが……
まあそれはともかく……ここは一体なんなのでしょう?
兎にも角にも何か情報はないかと思い、私は周囲を見回してみます。
うーん……。端の壁が見えない程の広い空間に、天井の低い建物が建ち並んでいますね。
というか……この着地した場所も、その建物の上――屋根の上だったようですね……
どうしてわざわざ地下にこんな空間を設けて、屋根のある建物を……?
それとも、建物に見えるだけで、実は全然違うとかなのでしょうか?
ちょっとすり抜けてみましょうか。
私はそんな風に考え、足元をすり抜け――
「いぎぃっ!?!?」
――られず、身体の1/3程度が屋根を抜けた所で、電撃を浴びたかのような激痛が全身に走り、勢いよく弾かれました。
「う……ぐぅ……」
ア、アストラル体にダメージ……?
アストラルにも干渉するバリアのようなものが張られている……?
いえ……身体の1/3程度が屋根を抜けられたという事は、屋根自体には何もないという事です。
何かあるのは、屋根の下――つまり、この建物の中……
ならば、頭から突っ込めば何があるのか見る事は出来る……?
そう考え、今度は頭を下にして屋根をすり抜けてみます。
すると……
「こ、これは一体……」
そんな言葉が口を衝いて出てしまう私。
視界に広がるのは黒い球体と、その球体の表面を白と紫の靄……あるいは電流のような物が渦巻いている、そんな光景でした。
綺麗でありながら不気味さもある。なんとも言い難いそれがなんであるのかは、当然分かりません。
ただ……これに触れれば、このアストラルの身体でもダメージが生じて弾き飛ばされるという事だけは間違いありません。
……もしかして、これと同じようなものが、建ち並ぶ建物の中全てにあるのでしょうか……?
そんな疑問がふと湧いてきた私は、屋根の上に戻ると、近くの別の建物へ向かって移動し始めます。
と、建物と建物の間まで来た所で、ピシッという薄氷にヒビが入ったかのような音が下から響きます。
何の音なのかと思い、下へと顔を向けると『何もない空間』にヒビが入っていました。
これは……まさか、前に蒼夜さんから聞いた『空間の歪み』――『世界を浸食する歪み』……でしょうか?
何が起きているのか、何が起きるのかさっぱり分からない以上、この場から離脱した方がいいのは間違いありません。
しかし、どうしてもそのヒビから目が離せずそのまま眺めていると、遂にパリィィンという激しい破砕音が響き渡り、『砕けた空間の裂け目』から、『腕』が私の方へと伸びてきます。
「っ!?」
直後、アレに掴まれたらアストラル体の私でも抜け出せないと『直感的に理解した』私は、一気に後退。腕の届く範囲外へと離脱します。
……アレを放って置くわけにはいきませんが、一体どうすればいいのでしょう……
ええっと……。蒼夜さんは前になんと言っていましたっけ……
なんとも久しぶりすぎる登場ですね……
とまあ、そんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなります、4月8日(月)の想定です!




