第113話[表] 鉄路を塞ぐのは……
<Side:Akari>
まあ、蒼夜のギルドランクはさておき……
車掌さんが私たちを見て、『討獣士』あるいは『傭兵』なのかと問いかけてきたって事は、ちょっとばかし厄介な事態になっているって事よねぇ……多分。
というわけで、問いかける私。
「それで……改めてお聞きしますけど、一体何が起きているんですか?」
「あ、はい。運転士からの通信によると、線路が土砂で埋まってしまっているそうです」
「土砂……ですか? この辺りは荒野で、土砂が線路を覆うような状況になるとは思えないのですが……」
「――盗賊が土砂で足止めして襲撃……というのも少し考えたけれど、それなら止まった時点で襲ってくるわよねぇ……普通」
私の発言に続くように、そんな事を口にするシャル。
「たしかにそうね」
「ああ。いまだに何も襲ってきていない事を考えると、盗賊の類ではなさそうだ」
私とロディがそう口にすると、
「はい。私もそう判断して、こうして外に出て直接確認しに行く所でして……」
と、そんな風に言ってくる車掌さん。
そしてそこで一度言葉を切ると、顎に手を持っていきながら、
「運転士からは、『線路脇に深い穴も空いている』という妙な通信が続けてありましたし……」
という続きの言葉を紡いだ。
「深い穴……ですか。それは気になりますね……。まあ、とにかく見に行ってみましょうか」
蒼夜がそう促すと、車掌さんはそれに頷いて再び歩き出す。
その車掌さんに続くようにして、私たちも列車の前方へと移動。
すると、先頭の機関車の脇を抜けた所で、『それ』が見えてきた。
「あ、たしかに穴が空いていますね。しかも、ここから見てもかなり深そうなのが分かります」
列車の上――車掌さんには『浮遊魔法』を使った事にした――にいるユーコが、そんな風に告げてくる。
蒼夜はそれに頷きつつ、推測の言葉を口にする。
「ふーむ……ざっと『視た』感じではあるが、これはまた結構深そうな穴だな。しかも穴の周囲に土砂が積もっている……か。という事はつまり、あの穴は下から勢いよく飛び出してきた何かによって開けられた……と考えるのが妥当だろう」
……今の蒼夜の言い回し、『クレアボヤンス』を使ったって意味よね。間違いなく。
だって、ここから普通に見ただけだと、『穴が空いているっぽいのが分かる程度』だし。
「要するに……下から何かが飛び出してきた際に、土砂が大量に噴き出して、それが運悪く線路を埋めてしまった……と?」
ロディがそんな風に言うと、蒼夜は再び頷き、
「ああ。そういう事だと思う」
と返した。
「でも、一体なにが飛び出してきたのかしらね?」
私がそう言って首を傾げて見せると、シャルはそれに対して、
「そうね。地中から飛び出してくるのっていうと、ワイズアンブッシャーとかがいるけど、あいつはそんな深い穴を開けられるような奴じゃないし……」
なんて返事をしてきて、うーん……と唸る。
「そもそも、穴の底がどうなっているのか気になりますね……」
ユーコがそう口にした所で、
「お、ミリィか。――その一緒に来た方々は?」
という声が響く。
声のした方を見ると、そこには機関車の窓から顔を覗かせているカヌーク族の男性の姿があった。運転士の方……かしらね?
「ライル、こちらの皆さんは討獣士の方よ。……それも、かなり高ランクの」
「なるほどな。うーむ……高ランクの討獣士の方々が乗車していたのは、不幸中の幸いだと喜ぶべきなのだろうか……」
車掌さん――ミリィさんの説明を聞いたライルさんがそんな風に呟くように言った後、私たちの方を見て、
「おっと、失礼しました。――自分はこの赤金8号の運転士をしています、ライルと言います」
と、そんな風に告げてきた。
アカガネハチゴウって言うのは、この列車の名前……よね? きっと。
なんていうどうでもいい事を考えていると、ライルさんがドアを開け、大きなスコップ――日本だと、この大きい方をシャベルと言ったりもするわね――を持って下りてきた。
そしてそのまま、私たちに対して言葉を紡ぐ。
「とりあえず、あの土砂をどかさないと列車を動かせないのですが、あの深い穴の底が気になっていまして……あそこから害獣などが飛び出してきたりすると怖いですし、護衛していただけると助かります」
「それはもちろんです。というか……あの土砂も、こちらでどかしてしまいますね。……魔法で。その方が手っ取り早いですし」
蒼夜がそんな風に答える。
今なんか、魔法って言う前に間があったわね……
もしかして、サイコキネシス、あるいはアポートかアスポートで飛ばすつもりなのかしら……
と、思っていると、
「ああ、『その魔法』なら俺も少し使えるから手伝おう」
なんて事をロディが口にした。その魔法という所を少し強めにしつつ。
……どうやら、サイコキネシスの方っぽいわね。
「そ、そのような魔法が存在しているのですか?」
「はい。かなり特殊なものなので、使える人間は限られていますが……」
ライルさんの問いかけにそう答えつつ、線路上に積もっている土砂の方へと歩み寄る蒼夜。そして、それに続くロディ。
「でしたら、その間に私はちょっと穴の底を見てきますね。『浮遊魔法』がありますし」
ユーコがそう言いながら、穴へと潜っていく。
実際には浮遊魔法なんて使ってないけど、ミリィさんとライルさんがいるこの場では、そう言っておいた方が、色々と都合がいいというものよね。
「さて……ユーコが戻ってくる前に、こちらもどかしてしまうとしよう」
ロディはそう告げると、「ああ」と返事をした蒼夜と共に、土砂を『浮かせ』た。
うーん……。これはまた、なかなかに凄い光景ねぇ……
まさか、こんなのまで『浮かせ』られるだなんて思いもしなかったわ。
久しぶりにワイズアンブッシャーという名前が出てきましたが、こいつの出番はありません(何)
とまあそんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなります、4月5日(金)の想定です!




