第110話[表] 冥界・書物と機巧竜
<Side:Akari>
「これは……。まったくもって驚きじゃのぅ……。まさかこれほどの書物が冥界に現存しているなんぞ、思いもしなかったわい」
「そうだな。想像以上の物量だ……。俺の次元鞄でも全部入るか怪しいくらいあるぞ」
クレリテと蒼夜が、とんでもないものを見たと言わんばかりの表情で、並ぶ本棚を眺めながら、そんな事を口にする。
シャルやクーさんも、言葉こそ発さないものの似たような感じだった。
というか、驚きで開いた口が塞がらないといった感じかしらね。
それにしても、蒼夜の次元鞄にも限界ってあったのね……
無限に入るんじゃないかとか、ちょっと思っていたわ。女神様製らしいし。
なんて事を考えていると、
「たしかにこれを失うのは大損害じゃわい。急いで運び出すとしようぞ」
「ああ。片っ端から次元鞄に詰め込んでディアーナの所まで持っていくとするか」
「はいです。とりあえずどんどん詰めていくのです!」
「何も考えずに詰めるだけなら簡単ね」
などと言いながら、皆が動き始める。
というか、手前の本棚から順に書物を自分たちの次元鞄へと放り込んでいく。
それを眺めながら、ふと私の脳裏に何かが浮かぶ。
それは、多くの人間で本棚の書物をあれこれと出し入れしている光景だった。
これは……どこかで見た……? 以前の……? 懐かしい……?
「灯? ぼさっとしていないで、私たちも次元鞄に入れていきますよ?」
「え? あ、うん、そうね」
怪訝そうな表情で声をかけてきたユーコにそう返事をして、私も皆と同じように書物を片っ端から次元鞄へと放り込み始める。
うーん……。一瞬、何か思い出したというか、『過去の記憶』が垣間見えた気がしたけど……あれは一体なんだったのかしら……?
……
…………
………………
――結局、垣間見えたものが何だったのかは全く思い出せないまま、全ての本棚の書物を次元鞄へと詰め込み終えた。
と、その直後、急に爆発音のようなものと共に部屋全体が揺れた。
「こ、これって……っ!?」
「なにか来たみたいですね……っ!」
私とユーコがそう口にした所で、リリアが駆け込んできて、
「重武装型の機巧竜が現れましたわ!」
なんて事を声を大にして告げてくる。
それを聞いたシャルが、やれやれと言わんばかりの表情で、
「そんなものを持ち出してくるなんてね。ギリギリセーフって感じだわ」
と、ため息交じりに呟きつつ肩をすくめてみせた。
「魔物では制せぬと踏んで機巧竜を出してきた……と言った所じゃろうかのぅ」
「ま、そんな所だろうな。奴らがこの冥界に機巧竜を持ち込んでいたのは、少し驚きだが」
クレリテの推測に対し、頷きながらそう返す蒼夜。
たしかに、あんなロボット兵器みたいな代物、どうやって持ち込んだのかしらねぇ……
まあ……『銀の王』たちは、私たちの知らない独自の方法で冥界に来ているようだから、その何らかの方法であれば、持ち込むのも容易なんだろうとは思うけど。
「とにかく一度、ディアーナの所まで戻るとしよう」
蒼夜のその言葉に私たちは頷き、急いでその場を後にする。
中庭へ出ると、更に爆発音が連続して響き渡り、建材の破片が飛んできた。
そちらへと視線を向けると、屋敷の一部が破壊されていた。
「なかなかの高火力なのです……。確実かつ完全に破壊しにきているですね」
「私たちがここにいるのが、よっぽど都合が悪いって事なのかしらね?」
クーさんの呟きに対して私がそう疑問を返すと、
「そういう事だと思いますわよ。この屋敷そのものに都合の悪い物があるのか、これ以上嗅ぎ回られるのを防ぎたいのか、どっちなのかは分からないですけれどね」
と、リリアがそんな風に言ってくる。
「案外、今回収した書物の山かもしれないのぅ」
そう言って肩をすくめるクレリテに対し、腕を組みながら返事をする蒼夜。
「その可能性も否定は出来ない……というか、機巧竜の前に魔物の大群を仕向けてきている事を考えると、大いにあり得るかもしれん」
「もしそうなら、回収出来て良かったというものなのです」
「まったくだわ。……ところで、攻撃してきている機巧竜はどうするの? 壊す?」
シャルがクーさんに同意しつつ、蒼夜の方を見て問いかける。
なんだか簡単に壊せるけど? みたいな顔をしているわねぇ。
いやまあ、多分簡単に壊せるんだろうけど……
そもそも、シャルだけじゃなく、アーヴィングさんやエメラダさんもいるわけだし……
そんなシャルの問いかけに、蒼夜は少し思案してから、
「そうだな……。敢えて倒さず、ここを破壊させてやればいいんじゃないか? 迎撃出来たと思ってくれれば、隙が生まれるかもしれないしな」
と告げた後、私たちの方を向き、
「……と、そう考えているんだが、どうだろうか? ここにはもう何もなさそうか?」
という問いの言葉を続けてきた。
「あ、うん、そうね。これ以上は何もないと思うわよ」
「そうですね、大丈夫だと思います。まあ……『かつての私たちの家』が壊されるのは、ちょっとあれですけどね」
私の発言に頷きながらそう言ってくるユーコ。
「あー……たしかにそれはあるわね。なんとなく、ちょっとだけ『懐かしい』感じもするしねぇ……ここ」
私がそんな同意の言葉を口にすると蒼夜は、
「なるほど……。まあ、それなら機巧竜を倒してしまうか」
と口にして、真上に信号弾を発射した。
通信の代わりって所かしら? っと、それより――
「あ、別に気にしなくても良い――」
――私がその言葉を紡ぎ終えるよりも先に、派手な爆発音が外から響いてきた。
……どう考えても、機巧竜が倒された音よねぇ……あれ。
ずっと聞こえてきていた攻撃音が完全に止んだし。
おそらく信号弾を見て、外にいるであろうアーヴィングさんたちが倒したんだと思うけど、早すぎよ……
まあ、あの面々なら当然と言えなくもないけれど……
などと、そんな事を思う私だった。
久しぶりに登場した機巧竜ですが、姿すら見る事なく葬り去られるという……
とまあそんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなります、3月25日(月)の想定です!




