第107話[表] 冥界・隠されし部屋
<Side:Akari>
東屋から聞こえてきた地響きは、地下への階段が出現する音だった。
まあ、定番といえば定番な仕掛けよねぇ……
なんて事を思いながら階段を下りると、いたって普通の通路がそこにはあった。
「地下という割には普通というか……屋敷の1階や2階の通路と同じ造りね」
「そうですね。……それゆえ……なんでしょうか? 微かに記憶にないはずの記憶――魂の記憶が『屋敷の中には隠された部屋がある』と感じたのは」
「あー……たしかにそうかも。実際には屋敷の中じゃなくて、中庭に入口があったわけだし。……まあ、これが隠された部屋に繋がっているのかは分からないけれど」
「ここまでの大仕掛けですし、さすがに何かあると思いますよ。……もっとも、追加の謎解きとかはお断りしたいですが……」
「あ、それは私も思ったわ。……でも、ふたりしてそんな事を考えるって、なんだかちょっと嫌な予感がしない……?」
「……そ、そうですね……。少し怖いですね……」
私とユーコがそんな事を話しながらしばらく進んでいくと、大きな扉が見えてきた。
「あの扉の先、部屋になっていそうな感じですね」
「そうね。……ただ、その……肝心のその扉なんだけど――」
「――何か妙なプレートがありますね……。あって欲しくはない感じの……」
言い淀んだ私から引き継ぐ形で、微妙に顔をしかめながら、そう口にするユーコ。
「そうよねぇ……。どう考えてもあれって、『扉を開ける為の仕掛け』よねぇ……」
私はため息混じりにそんな事を口にしつつ、扉へと歩み寄る。
そして、
「……うん。やっぱり仕掛けだわ……」
と、告げた。
「これ……どうやって開けるのか、さっぱりわかりませんね……」
「屋敷の中にヒントがあるのかもしれないけど……戻るの、面倒よね」
「そうですね。……ここはもう、ちょっとインチキしましょう」
ユーコはそう私に返事をしつつ扉へと視線を向け……そのまま扉をすり抜けた。
まあ、扉ひとつくらいなら、この方が手っ取り早いわよねぇ……
なんて事を思いながらそこで待っていると、目の前の扉が開き始める。
「部屋の中からなら、簡単にロックを解除出来ました」
ユーコがそんな事を言いながら顔を見せる。
それに対して私は、グッとサムズアップしてみせながら、
「グッジョブだわ! ユーコ!」
と口にして、部屋の中へと足を踏み入れた。
「……これはまた凄いわね……」
「ええ……。これほどの本が、当時のまま残っているとは驚きです……」
私とユーコはそんな感嘆の声を口にする。
だけど、それは仕方がないというもの。
なにしろ、部屋の中には多数の本棚が並んでおり、どの本棚も本で埋め尽くされていたのだから。
「これ……見つけたは良いけれど、全部調べるの大変過ぎじゃないかしら……」
私は部屋の中を見回しながら、ため息混じりにそう言ってやれやれと首を横に振る。
「そう……ですね。さすがにこれを私たちだけで調べるのは、厳しいと思います」
「女神様の所を通じて、全て移すとかしないと駄目そうね。……まあ、蒼夜がいないから、今すぐには出来ないけど……」
ユーコに対してそう返して肩をすくめてみせると、
「クレリテさんが、蒼夜さんと連絡する為の手段を持っているとかなんとか、道中のキャンプで見張り番をしていた時に言っていた気がします。それを使って連絡して、ここの『座標』を伝えれば、テレポータルで繋げられる……かもしれませんね」
と、ユーコが言ってきた。
見張り番の時に、そんな話してたのね……
でもまあ、たしかにこういう場所に来る以上は、何らかの連絡手段を用意してくるわよね、普通。
私はそんな事を心の中で呟きながら、ユーコに対して返事をする。
「あー……なるほど。たしかにそれが出来るんなら、色々と問題が解決するわね」
「はい。もっとも……その為には、まず上に来ている魔物の群れをどうにかしないといけませんが……」
「そうね。隠されていた部屋は見つけた事だし、次はそっちをどうにかしてしまいましょうか。……まあ、戻ったら全部片付いている可能性もなくはないけれど」
「さ、さすがにそれはないのでは……」
――なんて事を話していたら……
「あれ? なんだか静かじゃない?」
中庭へ戻ってくると、外から聞こえていた戦闘音がしなくなっていた。
「まさか、本当に全部片付いた……?」
そう私が言葉を続けた所で、
「む、ここにおったか。――ふむ。その感じじゃと、そこが隠された部屋の入口じゃな?」
なんていうクレリテの声が聞こえてきた。
「あ、はい。その通りです。……ところで、外の魔物は片付いたのですか?」
「うむ。あまりにもこちらが一方的に撃滅し続けたからか、あちらが途中で退いていったわい」
ユーコの問いかけにサラッとそう答えるクレリテ。
さ、さすがとしか言いようがないわね……
「そ、そうなんですか……さすがですね」
頬を掻きながらそう口にしたユーコに対して、
「ま、あの程度ではアルヴィンスやエメラダの敵ではないしのぅ。……いや……まあ、今回に限って言えば、一番魔物を倒したのはカリンカじゃったりするんじゃがのぅ……」
などと返事をしながら、やれやれと言わんばかりの表情で、首を横に振ってみせるクレリテ。
え、ええ……っ?
さすがにそれは想定外すぎたので、
「カリンカさんが……ですか? たしかに融合魔法は強力ですが……」
「そう……ね。純粋に更に強いふたりがいる事を考えると、さすがにそれは驚きを禁じえないわね……」
という声が、ユーコと私の口から自然と発せられたのだった。
最後は若干インチキくさい方法で突破するという……
ま、まあ、そんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなります、3月15日(金)の想定です!




