第6話 エステルの居場所は?
「ふんふんなるほどねぇ……。だから娘としての私に用があるって言ったんだ」
「ええ、そういう事ですわ」
カリンカの言葉に対してサギリナ本部長が頷き、そう返す。
「うん、わかった。うーん……そうすると、用意した方がいい物がいくつかあるけど、支払いはギルド持ちって事でいいのかな?」
「そうですわね、ギルドの支援費の枠内で上手くお願いしますわ」
「了解!」
と、そんな事を話すふたり。
ちなみに支援費というのは、討獣士に対する何らかの支援――例えば、魔獣相手に有効な武器を、討獣士に提供したりする際に使う事が出来るお金だと、エミリエルが小声で教えてくれた。
なお、アルミナでは先日の魔獣出没騒動の際に、呪紋鋼製の武器を買い取るのに結構そのお金を使ってしまったらしい。いったい、どのくらい買ったのだろうか……
と、そんな事を考えていると、
「――それでは皆さん、よろしくお願いします。あと、ソウヤさんは討獣士になられたばかりだとの事ですので、別途ギルドのお仕事の方でもサポートさせていただきますので、私がいる時は、私のカウンターまで来ていただけますと幸いです」
カリンカが受付嬢の時の口調でそう言って、こちらに頭を下げてきた。
「あ、はい、よろしくお願いします」
俺はそう言葉を返し、頭を下げる。
「……さて、シャルロッテの件はこれで良いとして、次はソウヤさん、貴方の番ですわね」
と、そんな事を告げてくるサギリナ本部長。
……そう言えば、元々用事があったのは俺とエミリエルの方だったっけな。なんだかすっかり忘れていたぞ。
――そんなわけで、俺は例の遺跡での出来事をサギリナ本部長に話す。
……
…………
………………
「……また、とんでもない事をしていますわねぇ。ロイドから聞いた話以上ですわ」
「1日で一気に1から138……。あの報告書、本当だったんですね……」
「そんな化け物が遺跡に封印されていた……? どういう事なのかしら?」
サギリナ本部長、カリンカ、シャルロッテが、それぞれにそんな感想を述べる。
「今の所、ルクストリアとその近辺で魔獣が出没したという報告はないですけれど、もし魔獣が出没したという報告があった場合は、近くにある遺跡が原因である可能性もある、というのはわかりましたわ」
「正確には魔獣が多数出現した時、ですね。魔獣自体は、何らかの影響で魔煌波が異常化し、それが生物や植物に作用してしまった場合や、残滓魔力濃度が高い場合などにも姿を現しますから」
サギリナ本部長の言葉に付け加えるようにして、そう語るシャルロッテ。
「そうですね。特に後者が原因の魔獣出現は、ルクストリアでも時々ありますね」
シャルロッテの言葉を聞き、そんな事を言うカリンカ。
ルクストリアでは、時々魔獣が出現するのか……
「都市部は、どうしても魔煌具や魔法の使用によって生じる残滓魔力が多くなりがちですもの、仕方ありませんわ。特にこのルクストリアは、常時稼働している魔煌具や魔煌機関の数が世界一とまで言われているんですもの、むしろ出現しない方がおかしいというものですわ」
サギリナ本部長が、そう言って肩をすくめる。
ふーむ、なんだか都市ならではの問題って感じだな。
しかし……これって地球に置き換えて言うと、電気を使いすぎるとモンスターが出現する可能性がある、みたいなもんだよなぁ……
ファンタジー世界らしいっちゃファンタジー世界らしいけど、なかなか物騒なリスクだな。
まあもっとも、電気を遥かに上回る恩恵を得られるのだから、そのくらいのリスクがあるのは仕方がない事なのかもしれないが……
っと、それはそうと――
「今話したような化け物とか遺跡とかの情報って、何かあったりしませんか? そういった場所を調査してみようと考えているので……」
と、俺はそんな感じで問いかけてみる。
「化け物に関しては聞いた事すらありませんけど、魔法が使えなくなったり異界の魔物が出現するような遺跡の話なら、何度か聞いた事がありますわね。たしか、世界各地にそれなりの数が存在しているはずですわよ。カリンカ――」
サギリナ本部長がカリンカの方を見る。
カリンカはそれに対し、
「はい、ギルドで危険度最大と判定した遺跡について書かれている資料を、用意しておけば良いのですね。後で管理部門へ連絡して、こちらにコピーした物を届けて貰うよう伝えておきます」
そう言葉を返しつつ、エミリエルが持っていたメモ帳とまったく同じ物を、胸ポケットから取り出し、ペンを走らせた。
どうやらあのメモ帳は、ギルドから支給されている物のようだ。まあ、受付なら必需品と言えるだろうしな。
「ソウヤさん、コピーした資料が用意出来ましたら、ご連絡いたしますね」
「あ、はい。ありがとうございます、助かります」
カリンカに対し、そうお礼を述べておじぎをする俺。
それにしても、コピーって……。
まあ、この世界の技術力的には出来てもおかしくはないんだけど、不思議な感じだな。
◆
「ソウヤは、これからどうするのかしら?」
ギルドでの話を終え、外へ出た所でそう問いかけてくるシャルロッテ。
「うーん、特に考えていなかったな……。ああでも、例のミラージュキューブの解析がどうなったのか気になるな」
「ミラージュキューブっていうと……この間、アリーセから聞かされた話に出て来た古代遺物の事だったかしら? うーん、ちょっと私も気になるわね、それ」
俺の話に興味を持ったらしいシャルロッテが、顎に手を当てながら、そんな風に言ってきた。
「なら、大工房って所に一緒に行くか? エステルがそこで解析するとか言っていたからな」
「ええそうね、折角だからついていくわ」
シャルロッテが頷き、そう返してきた。
「でしたら、大工房までご案内しますね。ここからだとトラムを使わないとかなり距離がありますし、トラムも一本では行けずに乗り換えが必要となるので、結構ややこしいですし……」
と、本来ならアルミナへ戻る予定だったエミリエルがそう言ってくる。
アルミナに戻らなくていいのか尋ねると、今日中に戻れば問題ないらしいので、お言葉に甘える事にした。
……その後、停留所の路線図を見て、案内を頼んで良かったと思ったのは秘密だ。なんなんだ、あの複雑な路線図は……
◆
「この街も久しぶりだけど、相変わらずトラムは複雑よね……」
大工房の門をくぐりながら、そんな事を言うシャルロッテ。
久しぶりではないが、その感想には同感だ。
「そうですねぇ……。慣れるまでは大変ですよね、これ。――何故かお姉ちゃんは、徒歩だと迷うのに、トラムの乗り換えでの移動では迷う事がなかったりするんですけどね」
「へぇ、それはなんとも不思議だな……」
エミリエルの話にそう返しつつ、思う。もしかしたら、自分の足で歩かなければ良いという事なのかもしれない、と。
……まあそれはそうと、大工房ってどんな所なのかと思っていたけど、なんとなく雰囲気は日本にある大工場に似ているな。良くわからない巨大な配管が縦横無尽に走り回っているあたりも、なんとなくそれっぽい。
と、そんな感想を懐きながら周囲を見回していると、一番大きな白い建物の前に立つディアルフ族の初老の男性が、こちらへと近づいてきた。
「大工房へようこそ。ご見学ですか?」
と、そう問いかけてきた初老の男性に対し、エミリエルが、
「いえ、姉――エステル・クレイベルに会いに来ました。こちらの研究開発室に滞在していると思うのですが……」
と、返す。
初老の男性は、どこからともなく台帳のようなものを取り出し、それをめくると、
「――エステル・クレイベルさんは、たしかに一昨日までこちらに滞在しておられたようですが、今は滞在先の研究開発室の方と共に、魔煌技術学院エクスクリスの実験棟に移っておられるようですね」
指でなぞりながらそう告げてきた。
ふむ、どうやらエステルはここにはいないようだな。
「あ、そうだったのですか……。では、そちらに行ってみます。わざわざ教えていただき、ありがとうございました」
エミリエルはそう礼を述べて頭を下げた後、こちらに向き直り、
「エクスクリスにいるようですね。そちらへ向かいましょう」
と、言葉を続けた。
エクスクリスっていうと、アリーセとロゼが通っている学校だよなぁ……たしか。
ファンタジー世界の学校っていうのが、どんな感じなのかちょっと楽しみだ。
申し訳ありません、お盆の都合で14~16日は投稿をお休みします。
次は17日土曜日の予定です。
アリーセとロゼの学校(学院)に行きますよっ!




