第79話[表] 鬼哭界・重力反転エレベーター
<Side:Akari>
「皆様、第7エレベーターへとお進みください」
建物内に入った所で係員らしき女性からそんな風に誘導され、第7エレベーターと書かれているドアの前へと移動する。
なお、先に建物内に入ったロゼとマーシャちゃんは、既に他の利用者と共に別のエレベーターへ誘導された後らしく、一緒にはいない。
どうやら、あのふたりと私たちは別の組だと思われたらしい。
まあ、あのふたりから少し離れていたし、そう思われてもおかしくはないわよね。
なんて事を思いながら数分待った所で、
「皆様、起動準備が整いました。エレベーター内へお進みください」
という係員の声と共に『第7エレベーター』と表示されているドアが開かれた。
ドアの中――重力反転エレベーター内へと足を踏み入れる私たち。
エレベーター内には私たち以外に誰も入ってくる気配はない。
どうやら、今回は私たちしか利用者がいなかったみたいね。
「これ、完全に吹き抜けになっているわね。エレベーターっていうより、リフト?」
ドアが閉じられた所で、私は上を見ながらそう呟く。
するとそれに対して、
「その割にはこの床、動くようには見えませんが……」
と、ユーコがそんな風に返してきた。
あー……たしかに言われてみると、『隙間』とかが一切ないわね、この床。
ううーん? どういう風に上昇するのかしら……これ。
と思っていると、『上昇を開始します』という機械音声が響いた。
そして、身体がフワリと浮き上がったかと思うと、まるで上に引っ張られるような感じで、身体自体が上昇を始めた。
「なるほど、こういう仕組みか」
「まさか、人間自体を浮かせて動かすとはのぅ」
蒼夜とクレリテがそんな感想を呟きながら周囲を見回す。
「なんというか……見えない力で抑えられているような、そんな感覚がありますね」
「そうねぇ、どれだけ足を動かしてもこの場所から一歩先にすら移動出来ないし」
ユーコに対してそう返事をしながら、私は前へ移動しようと思い、足を動かす。
しかし、どれだけ前へ行こうと意識しても、足はその場で足踏みをしてしまう。
「こう……泥濘に足を突っ込んで動けなくなった時の感覚に、少し似ていますわね」
「ルームランナーの上を走っている時のあの感覚に、どことなく似ている気がするな」
リリアとロディが同時にそんな感想を口にする。
うーん……。それぞれ随分と感じ方が違うわね。
まあ、どっちの感想も納得は出来るけれど。
そんな感じであれこれ感想を口にしたり考えたりしていると、青い光を発するパネルと赤い光を発するパネルが壁に埋め込まれている場所で身体の上昇が停止した。
うん? と思ったその直後、
『中央地点に到達しました。これより反転を開始します』
という機械音声が響き、周囲の景色がゆっくりと回転し始める。
「……これ、私たちの方が回転しているんだろうけど、そうは感じないわね」
「そうですね。まるで周囲が回転しているような、そんな感じですね」
「まあ、いきなりクルッと身体がひっくり返っても困るけど」
「いきなり反転したら持ち物とかが大変な事になってしまいそうですし、少しずつ重力のかかる方向を変えていっているんでしょうね」
「なるほど……。身体そのものが反転している事をあまり感じさせないっていうのは、よく出来ているわね」
「ですね。ここらへんはさすがの技術力という感じです」
私とユーコがそんな事を話している間にも回転は続き……
『反転が終了しました。これより下降を開始します』
という機械音声と共に回転が終了。今度は身体が下降し始めた。
「落下している……という感覚はないな」
「そうじゃな。浮遊魔法でゆっくりと降下していっている時のような、そんな感じじゃのぅ」
なんて事を蒼夜とクレリテが口にした通り、下に引っ張られている感覚はあるものの、落下しているような感覚はない。
「そう言えば、霊的な力の方はどうなのじゃ?」
「おっといかん、忘れてた」
クレリテに問われた蒼夜は、そんな風に答えてオーブを次元鞄から取り出し、
「お、ちゃんと使えそうだ。向こうに着いたら、どこか人目の付かない場所でディアーナを呼び出してみるとしよう」
と、言った。
グラスティアから離れた場所でも、霊的な力に満ちた場所なら使えるって、よく考えたら凄いわね……
なんて事を思っていると、徐々に床が見えてきた。
う、うーん……。なんだか上に昇った後、また降りて同じ場所に戻ってきたかのような気分ね……これ。
『降下が終了しました』
私の足が床にしっかり付くと同時に、そんな機械音声が響いた。
そしてその直後、抑えられている感覚がなくなる。
試しに足を前に出してみると、普通に前に一歩踏み出せた。
「あ、動けるようになったわ」
という私の発言に、リリアが頷きながら、
「ええ。無事到着しましたわね」
と返してくる。
「とりあえず、ふたりと合流しないとな」
開かれていくドアの前に立ちながらそう言ってくる蒼夜。
ふたりというのは、当然ロゼとマーシャちゃんの事。
しかしドアが開かれた所で、
「今の親子、なんで拘束されていったんだろうな?」
「さあ……。なにかしでかしたんだろうけど、想像が付かないな」
なんていう声が聞こえてきた。
……え? 親子? 拘束?
ま、まさか……ロゼとマーシャちゃん……!?
2話前の後書きで書いた通り、すんなりとは終わらない鬼哭界編です。
とまあそんな所で、また次回!
次の更新も予定通りとなりまして、12月1日(金)を想定しています!




