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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第2章 ルクストリア編
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第4話 ソウヤの策

 樽の位置を調整して、外からこちらが見えないようにしつつ、その物陰に隠れて『敵』を待つ俺たち。


 ――しばらくすると、パチャパチャ、という地面の雨水が跳ねる音と共に、スーツの男が路地裏の道を歩いてくる。どうやら予想通り『敵』が様子を見に来たようだ。

 人形は当然ながら光学迷彩を使っていない……というより使う事が出来ないため、その姿は丸見えである。


 それにしてもこの世界、スーツなんてあったんだな。

 ああでも……アルミナと違って、このルクストリアはだいぶ近代……いや、現代に近い雰囲気を持つ都市だからなぁ……スーツの類があっても別に不自然ではない……のか?

 

 などというどうでもいい事を考えていると、

『人形、情報送信中』

 俺の右横で、簡易魔煌波解析鏡を使いながら人形を観察していたエミリエルが、メモ帳に記した短い文章を、俺と俺の左横にいるシャルロッテに見せてきた。


 その文章の正確な意味は、スーツの男は魔法生物――人形であり、収集した音声情報や映像情報をどこかに送信している、といった所だろうか。まあ、情報収集の為にもそうしてくるだろうな。

 

 ――さて、ここからだ。

 俺とシャルロッテが互いに相手の顔を見て、そして頷き合う。

 

「さあ、仕掛けるわよ! 準備をして!」

 立ち上がり、あえて大声を発しながら、廃墟から飛び出して行くシャルロッテ。

 

 当然の如く、その声に反応を見せるスーツ姿の人形。

 シャルロッテの姿を捉えた人形の手の爪が、鋭く伸びる。どうやらあれが奴の武器のようだ。

 もっとも……それを振るう事は出来ないだろうがな。

 

 シャルロッテが刀を抜き放ち、それを天高く掲げ……叫ぶ。

「今よ! 総攻撃っ!」


 それと同時に、俺は全ての連射魔法杖を人形の頭上に転送。それをリング状に連ね……一斉掃射。

 火球、氷柱、雷撃、石礫、光の矢、闇の槍……などなど、ありったけの魔法が乱舞して人形へと襲いかかる。

 

 人形は回避行動を取るが、その程度で回避出来るような数ではない。

 瞬く間に幾つもの魔法に貫かれ、一瞬にして黒焦げの残骸と化した。


 ……ちょっとオーバーキル気味な気もするが……まあいいか。


「通信機能が沈黙しました。もう送信は行われていませんね」

 声に出して告げてくるエミリエル。

 どうやらここまでは上手くいったようだ。

 

「なんなのよ、あの火力は……」

 シャルロッテが呆れた声でそんな事を言いながら、廃墟の中へと戻ってくる。

 

「なかなか良い演技だったぞ。――俺もちょっとやりすぎたかもしれないとは思ったけど、あれだけの魔法攻撃を一度に受ければ、大集団で待ち伏せしていたと敵は考えるだろ?」

「それはまあ……そうね。これでおそらく奴らは、攻めから守りに転じるわね」

 腕を組みながら、そう返してくるシャルロッテ。


「ああ。単独だと思っていたら、実は大集団だった……となれば、やり方を変える必要があるからな。そして、守りに転じている間は、大した動きは出来ない。もし、俺やエミリエルの存在に気づいたとしても、簡単には動いてこないだろう」

 と、そこまで言った所で、俺は顎に手を当て一呼吸置いてから、

「ただ……守りが固くなると、どうしても敵の事を調べにくくなってしまうと思うが……そこは良かったのか?」 

 という懸念点を口にした。まあ、やってしまってから口にする事ではないが。

 

「問題ないわね。動かない方が邪魔されない分、私はやりやすいもの。というか、貴方たちの存在を隠蔽するだけじゃなくて、私にも都合がいいと思ったからこそ、私はソウヤの策に乗っかったんだし」

 そう言って肩をすくめるシャルロッテ。……なるほど、たしかにもっともな話だ。


 それはともかく、とりあえずこれで仕込みは完了だな。あとは上手くいってくれる事を願うしかない。てなわけで、さっさと撤収……する前に、っと――

 

「あっちの残骸はわざと残しておくとして、こっちは回収してしまって構わないよな? 知り合いの魔煌技師に調べてもらいたいんでな」

「それは別に構わないけど……どうやって持ち運ぶのよ? 次元鞄を持っているみたいだけど、さすがに大きすぎて入らないわよ? 砕いて持っていく気?」

 俺の言葉に対し、シャルロッテがそんな事を言ってくる。なんか同じようなセリフをこの前も聞いた気がするぞ……


「あ、そういえば凄い今更な話だけど……俺が魔法で倒したこっちの奴は、コアを砕かなくても大丈夫なのか?」

 ピエロ人形に近づき、ふと気になった事をエミリエルに問いかける。

 すると、エミリエルからは、

「そうですね……そっちはソウヤさんの魔法攻撃によって完全に壊れているようなので、砕く必要は特にないかと思いますよ」

 そんな答えが返ってきた。


 どうやら問題ないようなので、俺は「了解」とエミリエルに言いながら、ちゃっちゃと残骸を次元鞄に収納していく。

 

「は、入るのね……。一体どうなっているのよ、あれ……」

 というシャルロッテの言葉が、ため息と共に聞こえて来たが気にしないでおこう。


「それは簡単な話ですよ、ソウヤさんの持っている次元鞄なんですから」

「え? それはどういう……って、ああなるほど……そういう事ね。要するにあの次元鞄には、霊具の技術が使われている、と」

「はい、おそらくそういう事かと」

 冷静に話すエミリエルの言葉によって納得するシャルロッテ。

 

 実際には違うのだが、まあ訂正する必要もないだろう。……面倒だし。


「よし、それじゃ急いで撤収するとしよう。次の奴が来る前にな」

 俺は残骸を全て収納すると、ふたりに向かってそう告げる。

 

 シャルロッテは頷くと、外に出て周囲に気配がない事を確認。

 俺とエミリエルもまた、傘をさして外へと出る。

 

 その場から立ち去ろうとした所で、エミリエルが、

「あ、ちょっと待ってください。私たちの靴跡を消しておきましょう。雨のせいで残っていしまっていますので」

 そう言ってペンダント――エステルの持っていた物と同じペンダント――を取り出すと、「蒼水の泡沫!」という言葉と共に、魔法を発動させた。

 どうやらエミリエルは、魔法発動時に言葉を発するタイプらしい。


 魔法によって生み出された巨大な水泡が廃墟内へと飛び、そして炸裂。

 廃墟の床一面に水が撒き散らされた。


「これで大丈夫だと思います」

 と、言うエミリエル。

 改めて廃墟内を見回してみると、床は完全に水浸しになっており、先程まであった俺達の靴跡はその水によって消し去られていた。

 

「完璧ね。それじゃ急いで離脱しましょ」

 同じく覗き込んできたシャルロッテが言う。

 

 俺とエミリエルはそれに頷くと、足早にその場を後にするのだった。

本日は外伝も投稿してありますが、今回の外伝はかなり短いです。

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