第73話[表] 鬼哭界・ミニマムストレージ
<Side:Akari>
「なるほど……『銀の王』が相手にしている勢力というのは、貴殿らの事であったか」
「ま、そういう事だ。ああ、俺たちも偽装を解除しておくか。もっとも、俺はクレリテやリリアと違って、あまり差はないんだけどな」
ギルに対してそう返しながら、偽装を解除する蒼夜。
それに続くようにして私も、
「そうね。私も大差ないわね」
と言いながら、偽装を解除した。
更に――
「ん、私はちょっとだけ違う。うん」
ロゼがそう言って偽装を解除すると、マーシャちゃん、ロディ、ユーコも続いて偽装を解除。
うん、これで全員解除したわね。
と、そう思っていると、
「な、なるほど、あ、貴方たちは、シ、シアたちに近い見た目だけど、で、でも、肌の色が全然違う……わ」
なんて事を私たちを見回しながら言ってくるシア。
「しかし……こうも簡単に、この世界で『銀の王』と相対する組織と接触出来るとはなぁ……」
「たしかにそうね。まるで仕組まれていたんじゃないかって思えるくらいよね」
ロディの呟きに同意し、そう口にする私。
すると、
「……ある程度は仕組まれていた――というか、『アジュール・ブリンガー』の活動を最初に始めた者たちは、『このセクター』に他の世界の者が訪れる可能性がある事を想定していたのやもしれぬな。我ら『アジュール・ブリンガー』は、基本的に『このセクター』を活動の拠点としてきた故に、な」
と、ギルが腕を組みながらそんな風に言ってきた。
「ふむ……。それはたしかにあり得る話じゃのぅ。なにせ、この世界と別の世界――移民船団内の別のコロニーや船同士――を繋ぐゲートは、このセクターに存在しておるわけじゃからのぅ」
「なるほど……たしかにそうですね。もしかしたら、あの施設を最後に封鎖した人たちの中に『アジュール・ブリンガー』の始まりに関わった人がいたのかもしれませんね」
クレリテの発言に続くようにして、納得顔でそう口にするユーコ。
「ま、そのお陰でこうして接触出来たのわけですし? 万々歳というものですわね」
「そうだな。俺たちも奴らに――『銀の王』の手下どもに捕まらずに済んだしな」
リリアに対して頷きながら、そんな風に言うレン。
それを聞いて、
「そう言えば、どうしてレンとシアがあいつらに追われていたのか、その理由を聞いていなかったわね?」
という事をふと思い出し、問う私。
「ああ、このセクターのアンダーゾーンとアッパーゾーンとを繋ぐ『重力反転エレベーター』の基部に酒場があってな。俺たちはそこで『銀の王』の動向について、エレベーターを行き来する役人や商人たちから色々と情報を収集する役割を担っていたんだが……」
「す、少し前に『銀の王』が、か、かつての『研究所』を復活させようとしているという話を、あ、ある役人から聞き出した……わ。で、でも、そ、その役人が昨日、急に『事故死』したらしい……のよ。そ、そしてそれを、シ、シアたちが知ったのとほぼ同時に、や、奴らが酒場に現れた……わ」
レンとシアがそんな風に説明してくる。
えっと、つまり……
「――『かつての研究所』とやらを復活させようとしているという『情報』を得たはいいが、その『情報源』であった役人は、あの連中に秘密裏に抹殺された……と。そして、おそらくその役人から連中はレンとシアが情報を得ている事を知り、ふたりを抹殺しようとした……と、そういう事か?」
と、私が状況を頭の中でまとめるよりも先に、ロディがそう口にした。
「お、概ねその通り……よ」
「概ね? 違う所があるって事ー?」
シアの言葉に、珍しくマーシャちゃんが首を傾げながら問いかける。
すると、レンは少しだけ驚いた表情をしつつ、
「あ、ああ。実はその役人から預かってくれと言われて預かっていた物――ミニマムストレージがあってな……。おそらくだが、奴らは俺たちを抹殺するだけじゃなく、そっちの回収、あるいは破壊も考えているんじゃないかと思う」
と、そんな風に言ってきた。
ミニマムストレージ……?
良くわからないけど、この世界におけるメモリーカード――小型の記憶媒体って所かしらね?
「それは今どこにあるんだ? 酒場に隠してある感じか?」
「いや、ここにある。さっきレンから受け取ったばかりで、まだ中身を確認していないがな」
蒼夜の問いかけに対し、ギルがそんな風に言いながら、胸ポケットから小型の青いカードを取り出してみせる。
……あれがミニマムストレージってわけね。
私の知っているメモリーカードと比べると物凄く薄いけど、その分幅があるわね。
あの薄さと大きさは……うーん、一回り小さいトランプ……といった所かしらね?
ってまあ、それはともかく……
あの中には一体どんな情報があるというのかしら……
なにやら出てきましたが、一体……?
とまあ、そんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなりまして、11月10日(金)を想定しています!




