第71話[裏] 鬼哭界・ユーコと黒服と幽霊と
「あちらの扉の先――というか、クレアボヤンスでは上手く視えないと仰っていた所から先ですが、倉庫として使われている小部屋が並んでいる感じで、住人がこの数で立ち入るような感じではなかったです。黒服もいましたし、進まない方が安全だと思います」
分岐の先――俺のクレアボヤンスではイマイチ分からなかった場所を実際に見てきたユーコが、そんな風に言ってくる。
それに対して俺は、クレアボヤンスで別のルート――少しだけ照明の多い通路――を覗き見ながら、
「なら、こっちの部屋が並んでいる通路を進むか。こっちも黒服がいるが、居住区みたいな感じだし、普通に歩いていけば大丈夫だろう」
と告げた。
「私はちょっと『下』に潜っておきますね。幸い、『下』のフロアには黒服がいませんし、アウターウォールの方へ続く通路がないか見てきます」
なんて事を言いながら、床へと沈んでいくユーコ。
……すり抜けられると分かっているとはいえ、なんとも妙な光景だな……
などと、そんな事を思いつつ通路を進んでいくと、黒服の姿が見えてくる。
しかし、黒服は既にこの辺りには例のふたりがいないと判断したのか、奥にある階段を降りていく所だった。
って、待て……下だとユーコの姿が見えてしまうんじゃ……
そう思ったものの、ユーコにそれを伝える手段がない。
一応、状況を『視る』事は出来るが。
「……ユーコが見つかったりせんかのぅ?」
俺と同じ事を考えたらしいクレリテがそんな風に言うと、
「ん、もし見つかっても、幽霊だと思われる気がする。うん。場所が場所だし」
なんて答えるロゼ。
「まあたしかにグラスティアであれば、こういった場所はアンデッド化が発生しやすい――つまり、幽霊の類が現れやすいものじゃが、ここは鬼哭界じゃからのぅ……。その法則が当てはまるかどうかは何とも言い難い所じゃな」
クレリテがそう返事をして肩をすくめてみせるのを横目に、俺はクレアボヤンスで下を覗いてみる。
……真下にはいないか。
そう思いながらユーコを探していくと、壁をすり抜けてようとしているユーコの姿を見つけた。
……って、そこをすり抜けたら連中と……!
制止したい所だが、俺に制止する術はないので、そのまま視ているしかなかった。
そして当然のようにその直後、壁をすり抜けたユーコと、黒服の連中が互いに視線を合わせるような形で接触する。
まあ、距離が離れているのが幸いだろうか。
黒服の連中は、突然壁の中から現れたユーコに対し、驚きと困惑のせいかしばし硬直したままだった。
もっとも、ユーコの方も同じく硬直しているのだが……
程なくして、我に返ったらしい黒服の連中たちが何かを叫び始める。
さすがに何を言っているのかまではわからないが、少し恐怖を感じているらしい事は、見て取れた。
そして、黒服の連中は慌てて懐から銃を取り出し、発砲。
その音は俺たちの所にまで響いてくる。
「わわっ!? 銃の音がする!」
「下の階で、黒服たちとユーコがバッタリ遭遇してしまったんだ。まあ、既にユーコは壁をすり抜けて逃げたから問題はなさそうだけどな」
俺は銃声に驚くマーシャに対してそう告げながら、クレアボヤンスで状況を追う。
ユーコが消えていった壁に黒服の連中が恐る恐る近づいていき、壁を調べる。
何か仕掛けがあるのかもしれないと考えたのだろうが、無論そんなものはない。
銃声に気づいたであろう仲間がその場にやってきて何かを話し始める。
……読唇術の心得のない俺には何を言っているのかさっぱりわからないが、まあ話の雰囲気からすると、おそらく『幽霊を見た』的な感じじゃなかろうか。
そしてユーコはというと、そのまま少し聞き耳を立てた後、遠回りをするような動きをしつつ、俺たちの方へと戻ってきて、
「あ、まだこちらにいましたか。――すいません、まさか黒服たちが下に来ているとは思わず、偶然バッタリと出くわしてしまいました……」
と、そんな風に言ってきた。
「ああ、クレアボヤンスで視えていたが……あれはしょうがないと思うぞ。うん」
俺がそう言って首を縦に振ってみせると、ユーコは、
「幸いというべきか、普通に『幽霊』だと思ってくれたようですが……」
なんて言ってきた。……あ、やっぱり幽霊だと思われたか。
「それならまあ……とりあえず大丈夫なんじゃないか? それよりも、だ。今の騒動のお陰というべきか、アウターウォールの方へと続く通路にいた黒服の奴らが移動していなくなった。今のうちに急いで移動してしまうぞ」
俺はクレアボヤンスでルートを確認しながらそう告げると、そのまま足早に歩き始めるのだった。
なんとも妙なサブタイトルですが、他に思いつかなかったもので……
とまあそんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなりまして、11月3日(金)を予定しています!




