第70話[裏] 鬼哭界・黒服の反応
<Side:Souya>
俺たちが黒服の連中へと接近すると、黒服の連中のひとりがこちらへと顔を向ける。
しかし、俺たちを見回すとそこで興味を失ったのか、すぐに顔を別の方へと向けてしまった。
うん? 怪しまれてすらいない……のか?
そう考えた俺は、一旦予定を変更。
小さく皆にその合図をして、そのまま素通りする事にした。
黒服の連中の間をすり抜けるようにして進み、その先の角を曲がる俺たち。
そこまで進んでもなお、黒服の連中は何も反応を示さなかった。
「――仕掛けてくるどころか、話しかけてすら来なかったのぅ」
「だねぇ。思ったよりも何もなかった」
黒服たちに声が届かないくらいの距離まで来た所で、クレリテとマーシャがそんな感想を口にする。
「一瞬こっちを見たが、それで終わりだったからな」
「うん。想定外。でも、なんで? うん」
俺とロゼがそう口にして首を捻っていると、
「あの人たちの会話を壁越しに聞いてきたのですが、この区画に住むただの住人だと思われたようですね。ほら、蒼夜さんとロゼさんとマーシャちゃんでちょうど親子っぽく見えますし。ちなみにクレリテさんは、『あの両親の友人かなにかだろ』とか言われていましたね」
と、そんな事を言いながら、壁をすり抜けてユーコが姿を現す。
「なるほど……。この辺りは、一般人も住んでいる区画なのか」
「そうみたいですね。『不用意にここに住む一般人と接触するのは危険だ』とか言っていましたし」
俺に対し、ユーコがそう説明してきた所で、
「ううん? 不用意に接触するのは危険……? うん、一体どういう事?」
と、ロゼが首を傾げる。
「残念ながらそこまでは……」
そう答えるユーコに続くようにして、
「ふむ……。レグランス北方の不夜城都市もそうじゃが、こういった場所では住人による『自治』が基本となっておって、治安維持の為の『自警団』のようなものが存在しておる事が多いからのぅ。そういった者が出張ってくると面倒だ……と、そう考えたのではないかのぅ?」
という推測を口にするクレリテ。
「なるほどな。もしそういう理由だとするならば、あの黒服の連中は、この辺りの住人とは無関係であるという事になるな……。さしずめ、『アジュール・ブリンガー』の人間を捕まえるべく、外から来た……といった所か」
「そうじゃな。リリアたちからの連絡で、セクターごとに管理者となる『銀の王』がおるとか言っておったじゃろう? さしずめ、このセクターの管理者である『銀の王』の配下といった所ではないかの?」
「たしかにそう考えるのが妥当だな」
クレリテの推測に対して俺が納得顔で肯定の言葉を紡ぐと、ロゼもまた同じく納得顔――まあ、一見そうは見えない顔だが――で、
「ん、なるほど。それならたしかに納得出来る。うん」
と言って、首を縦に振ってみせた。そして一呼吸置いてから、
「うん、それで……このままスルーして進む? うん」
と、そう問いかけてくる。
「話を聞いてみたいという思いもなくはないのじゃが、余計な事をしてヤブヘビになっても面倒じゃからのぅ。話しかけられない限りはスルーで良いのではないかのぅ」
「まあ……たしかにそうだな」
「そうですね。なるべく、ここの住人のフリをした方が後々の事を考えても良いのではないかと思います」
クレリテに対し、俺とユーコがそんな風に肯定する。
ロゼとマーシャも言葉こそ発さなかったが頷いて肯定を示した。
「なら、ここの住人が『立ち入らなさそうな場所』は敢えて避け、ここの住人が普通に『立ち入ってもおかしくないであろう場所』を抜けていく感じで、アウターウォールの方へ向かうのが良さそうだな。出来れば黒服との接触は最小限にしつつ……な」
「ん、それで良いと私も思う。ただ……うん、入り組んでいてどこがどうなっているのか分かりづらい」
ロゼが俺に肯定しつつも懸念を口にする。
ああ、それはもっともだな……と思っていると、
「そこは、私が先行してすり抜けながら確認していきますよ。届いているマッピングでアウターウォールへ続くルートは分かっているので、そこへ繋がるように進んで行けば大丈夫だと思いますし」
と、そう提案してくるユーコ。
「ん、なるほど。たしかにそれはいい方法。うん。壁をすり抜けて確認出来るのがナイスすぎる。うん」
「そうだな。壁をすり抜けて視るだけなら俺のクレアボヤンスでも可能だが、それでは視えない場所――死角とかがあるからな。そこをユーコに見て来て貰うようにすれば、安心というものだ」
俺はロゼの言葉に続くような感じでそんな風に言うと、早速クレアボヤンスを発動するのだった。
あっさりと通り抜けられましたが……?
とまあそんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなりまして、10月30日(月)を予定しています!




