表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第1章 アルミナ編
6/764

第4話外伝1 ロゼとアリーセ <前編>

この話は、ロゼとアリーセ、2人の少女の視点となります。

――蒼夜がアルミナの森に降り立った、その少し前――


<Side:Rose>

「こっちはもう採れそうな物はないようです。ロゼ、そっちはどうですか?」

 ブレザーの上に、白いコートを羽織った少女――アリーセが、長い髪を結わえている白いリボンを縛り直しつつ、私に問いかけてくる。


「うん。こっちも、もうない」

 私は手に持った薬草を、地面に置いてあるリュックサック型の次元鞄に詰め……うん? 

 次元鞄に手を入れて薬草を収納しようと念じるも、薬草は一向に消えてくれない。


「ううん? ……次元鞄が既に限界っぽい、うん」

「あれ? もういっぱいですか?」

 アリーセが私にそう言葉を返しながら、こちらにやってきて私から薬草を受け取り、次元鞄に詰めようとする。……が、当然のように入らない。


「たしかにいっぱいのようですね。でもまあ、このくらいならコートのポケットにでも入れておきましょう」

 アリーセはそこで一旦言葉を区切り、周囲を見回した後、コートのポケットに薬草をしまい込みながら、再び言葉を紡ぐ。

「それにしても、無理して結界線を越えて探索したかいがありましたね。上質な薬草がいっぱい採れました」


「うん、さすがはアルミナの森。上質な物だけじゃなくてレアな物も多かった。うん」

 そう私が言葉を返すと、アリーセは笑みを浮かべながら、

「ですねぇ。これだけあれば学院に戻ってからも、しばらくは材料に困る事はなさそうです」

 と、私に言ってくる。


 それに対し、私は額の近くにある角の先端を触りながら、

「うん、確かに。いっぱい使えるから、うれしい」

 そう返す私に、アリーセは軽くため息をつき、言葉を発する。

「そんなに淡々と言われても、うれしそうに感じませんが……」


 声に感情がない……というか、抑揚がない喋り方なのは、うん……自分でもわかっているが、私の種族――ディアルフ族は、元々感情表現の希薄な者が多い為か、こういう淡々とした喋り方をする者もまた多い。うん。

 そして私も長年こういう喋り方をしてきた事もあり、感情を込めた喋り方というのがイマイチよく分からない。もっとも、私はあまりベラベラと言葉を口にするのが好きではないので、そういう喋り方が出来なくてもそんなに困らないけど。


「私はロゼとの付き合いが長い事もあって、なんとなく感情が読めるので構いませんが、普通の人でしたら誤解されてしまう事も普通にありえますよ?」

 と、ため息まじりに言ってくるアリーセ。

 

 ……たしかに、実際こういう喋り方をする者が多い為、私たちディアルフ族は、冷酷だとか冷淡だとか、他人に興味がない自分が全ての自己中心主義だとか、そんな事を言われていたりするのだけれど。

 まあうん、本当にそういう感じな者も多いのは否定できないけれど。


「そもそも――」

 更に話を続けようとするアリーセ。しかし、このまま話を続けると、いつものように私の方が不利になるのは間違いない。さっさと話を切り上げよう。うん。


 そう結論を出した私は、自分の角を指で軽くトントンと叩いた後、

「……うん、まあ、努力はする。それよりそろそろ町に戻らないと。日が落ちたら危険」

 と、アリーセに告げた。


「むっ、話を逸しましたね?」

 アリーセが腰に手をあて、不満そうな表情で私にそう言いながら、上を向く。

 つられて私も上を向くと、そこには茜色に染まった空が広がっていた。


「まあ、もうすぐ日が落ちるというのは、たしかですね……」

 私の方に顔を向け直すと、小さくため息をつきながら首を左右に軽く振るアリーセ。


「ロゼの言うとおり、いくら町の近くとはいえ、日が落ちたら危険なのは間違いありません。……仕方がありませんね、話の続きは町に戻ってからにしましょう」

 やれやれといった表情で薬草の入ったリュックサックを背負い、歩き始めるアリーセ。

 ……この流れ、町に戻ったらまた『練習しましょう』とか言い出す予感しかしない。うん、戻りながら何か手を考えておこう。

 

 ――そんな事を考えながら歩いていたせいで、注意力が散漫になっていたらしい。


「ううん、失敗した……」

「え? ロゼ、どうかしましたか?」

 私の呟きに問いかけてくるアリーセ。


「うん。獣の気配と殺気がこっちに向いている」

「……それは害獣ですか? それとも魔獣、ですか?」

「ううん、そこまではわからない。あくまでも長年の勘で、気配と殺気を察知しただけ」

「そうですか…… まあもっとも、私が町で聞いた話によると、ここ数年は魔獣の類は出現していないそうですけど」

「うん、私もそう聞いた。だから多分、害獣だと思う。だけど……ううん、面倒な事に気配と殺気は町の方角。つまり、進行方向から感じる」

 私はそう言って、気配と殺気を感じる方を指さす。


「それは……困りましたね。私はこのリュックサックを背負うのに邪魔になるからと、魔煌弓を置いてきてしまっていますし…… いっその事、迂回しますか?」

 その問いかけに対し、私は首を横に振る。


「ううん、もう気づかれてる。迂回しても無駄。押し通るしかない。……アリーセ、フラッシュボトルを用意しておいて。持ってきた、よね?」

「ええ。何かの時の為に、フラッシュボトルとフリージングボトルを2本ずつ持ってきていますよ。ちょっと待ってくださいね」

 そう言いながらリュックサックを地面に下ろすと、その中から、淡い光を放つ鈍色の液体が入っている小さいボトルを、2本取り出すアリーセ。


 その様子を見ながら、私もまた制服のスカートの左右に縫い付けてあるソードホルダーから短剣を抜くと、こう言い放った。

「魔法準備――《翠風の裂刃》」

 逆手に持った二振りの短剣、その両方に緑色に光る蛇の様にウネウネとしたラインが走り始める。


 それは、魔煌波生成回路が正常に作動した証。

 そして、数秒ほどで発動準備が完了。魔法を発動させずに、そのまま待機状態にする。


「うん。ただの害獣なら、これでやれる」

 私はそう言って、再びリュックサックを背負い直したアリーセと無言で頷き合い、そのまま歩を進める。

 

「――いた」

 ソレは、翼をはためかせながら飛び跳ねていた。


 ……うん? 飛び跳ねて……いる?

「ウィングラビットですね」

 アリーセが安堵の混ざった口調でそう告げてくる。

 まあ、アリーセが安堵するのもわからなくはない。アレは翼があるだけのウサギで、害獣の中でも弱い方に分類される、いわゆるザコだから。


「うん、さっさと狩る」

「フラッシュボトル、使いますか? コートのポケットに2本ほどありますけど……」

「ううん、いらない。あんなザコ相手にもったいない」

 もっともザコとはいえ、普通のウサギと違って、凶暴で好戦的、その足から繰り出される蹴りは肋骨を砕く程の威力がある為、武装していなければそれなりに脅威ではある。

 もちろん武装していなければの話なので、ニ振りの短剣を持ち、なおかつ《翠風の裂刃》の魔法をいつでも発動可能な状態にしている私にとっては、危険性は皆無に等しいのだけど。


「まあ大丈夫だとは思いますが、蹴りにだけは気をつけてくださいね」

「うん、問題ない。そこまで近づかせない」

 アリーセの忠告にそう言葉を返すと同時に、私はウィングラビットへ向かって走り出す。

 

「ギギィィィィィッ!」

 私の姿に気付いたウィングラビットが、普通のウサギからは絶対に聴く事がないであろう甲高い鳴き声と共に、その場で滞空。鋭く尖った牙を見せつけるように口を大きく開いて、こちらを威嚇してくる。

 ……見た目がウサギだとはいえ、殺る気満々すぎるその姿では、可愛さは欠片も感じなかった。

 ま、余計な事は考えずにサクッと狩ってしまおう。うん。


 ……さて、加速の魔法《翠迅の瞬歩》を使ってこちらから飛びかかるか、相手に飛びかからせて迎撃するか、この二択だけれど……

 ウィングラビットごときに、これ以上魔法を使う必要はない気もする。

 うん……というか、短剣は両方とも既に《翠風の裂刃》を発動待機状態にしている。重ねて別の魔法を使うのは、魔力消耗が通常よりも増すので、出来れば避けたい所。


「うん、ならば、さっさと撃つのが最良」

 私は結論を呟くと、その場で停止。腕を胸の少し上あたりで交差させ、逆手に持った短剣の切っ先を上に向ける様にして構える。

 ウィングラビットがその動きに反応するかのように、少しだけ高度を上げた後、勢い良く足を前に突き出し滑空してくる。うん、まさに予想通りの動き。


 それにしても、空中スライディングとか名付けるのが良いのではないかと思えるそのさまは、何度見ても滑稽だとしか言いようがない。

 とはいえ、あの一撃は脅威であり、食らってやるつもりはないけれど。


 私は垂直に跳躍し、空中スライディングをしてくるウィングラビットに向かって、Xを描く様に両手の短剣を振るう。

 と、同時に、その振るわれた短剣の2つの軌跡から、それぞれ緑色をした三日月状の衝撃波が放たれる。


 それは、《翠風の裂刃》の魔法によって生み出された風の刃。

 本来、風に色はないのだけれど、この魔法によって生み出されたそれは、どういうわけか緑色をしている。

 理由は誰も知らない。知っているとすれば、この魔法を生み出した本人――はるか古代の人間――くらいではないかと言われている。まあ、私にとってはどうでもいい事だけど。


 ともあれ、その緑色の風の刃は、Xの形を維持したままウィングラビットへと襲いかかっていく。


「ギギャギャ!?」

 ウィングラビットが風の刃に気づき、驚きの声を上げるも、時既に遅し。ウィングラビットは空中スライディング状態のまま風の刃へと突っ込んでいく形となった。


「グギュアアァアァァァッ!?」

 風の刃と激突したウィングラビットは、体を大きくのけぞらせながら鮮血を撒き散らす。

 そして、翼の動きが停止し、地面へと落下した。

「うん、手応え、あり」

 勝利を確信した私はそう呟きながら、短剣を軽く左右に振るう。

 ……魔法による遠距離攻撃なので、短剣に血糊とかが付着していたりするわけではないのだが、ついついやってしまう。……一種の癖、かな。うん。



<Side:Alice>

 地面に叩きつけられたウィングラビットは、しばらくピクピクと痙攣していたが、やがてその痙攣もなくなり、完全に動かなくなりました。


 それを確認した私は、ロゼに歩み寄りながら声をかけます。

「あっさり倒しましたね」

 その私の声に反応するようにこちらを向き、Vサインをするロゼ。


「うん、まあ、ウィングラビットだし」

 相変わらずというかなんというか、妙に『うん』と付けて喋るのが癖になっていますね……ロゼは。


「で、これ、どうしよう。持って帰る? うん」

 ウィングラビットの方に短剣の切っ先を向けながら、そう問いかけてきました。

 たしかに、ウィングラビットの肉は割と良い値段で売れますし、売らずに食べてもおいしいので、持って帰るのが妥当なのでしょうが……


「次元鞄がいっぱいなので、入りませんよ?」

「うん? あのくらいなら普通に持っていけばいい」

 短剣をソードホルダーに収め、ウィングラビットに近づいていくロゼ。

 と、その瞬間、何かが草むらから飛び出してきました。

 

 ……っ!?

 

「ロゼッ!!」

 飛び出してきた何かがロゼの方へ一直線に向かっていくのが見えた瞬間、私がとっさにそう叫びました。


 ロゼは素早く後方へ大きくバックステップ。それを回避します。

 ロゼに回避されたそれは、ロゼの事を無視するように、ウィングラビットへと喰らいつきました。


「……えっ? ……これは……もしかして、モータルホーン!?」

 姿が明らかになったそれに、私は驚きと焦りの入り混じった声を上げてしまいました。


 ウィングラビットに喰らいついているそれは、おそらく魔獣――害獣とは桁違いの強さと凶暴さ、そして並の攻撃ではかすり傷一つ負わせられない頑丈さを併せ持つ厄介な存在――の、モータルホーン・アビサルウルフでしょう。

 その姿は魔獣図鑑の挿絵でしかみた事がありませんでしたが、挿絵とそっくりです。


「くっ! こんな所に魔獣が出るなんて想定外っ! 《翠風の裂刃》!」

 ロゼがソードホルダーから短剣を抜き放ち、即座に攻撃魔法を放ちました。

 本来、魔法は口に出さなくても使えるのですが、口に出してしまうほどロゼもまた驚き、焦っているという事なのでしょう。


「疾ッ!」

 先手必勝とばかりに、ロゼは、ウィングラビットを貪り続けるモータルホーン目掛け、右手の短剣、左手の短剣と順に水平に振るいます。

 すると、その刃の動きに合わせるようにして、緑色の衝撃波――風の刃が二条生み出され、モータルホーンへと襲いかかりました。

 そして、ちょうどウィングラビットを平らげたばかりのモータルホーンに、その風の刃が激突。モータルホーンの肉体から黒い靄――魔瘴が噴出します。


「う、ううん? 魔法が……効いて……いない?」

 ロゼがそう呟いた直後、モータルホーンから噴出していた魔瘴は、あっという間に収まってしまいました。


 一応、効いていないわけではないようですが、あまり大きなダメージを与える事は出来ていないようですね。

 魔獣は害獣と比べて、何倍もの生命力や耐久力がある……つまり頑丈だと言うのは、私も情報としては知っていましたが、まさかウィングラビットを一撃で倒す事が出来る威力を持つ魔法ですらこれとは……想定外です。


「ガルルルルル……」

 モータルホーンが低い唸り声を上げ、ロゼの方に向き直りました。

 どうやら、モータルホーンはロゼに狙いを定めたようです。


 それに対し、ロゼもまた短剣を構え直します。

 直後、モータルホーンが地面を蹴り、凄まじい速度でロゼへと飛びかかりました。


 ロゼはそれをギリギリの所で真横へ回避しつつ体を捻り、完全に無防備となったモータルホーン目掛けて短剣を振るいます。

 しかし、その一撃は風の刃による攻撃の時よりも少ない瘴気を噴出させる程度でした。


「うん? 攻撃が……深く……入らない? さっきの風の魔法と……同じ? それにこれは……緑……のオーラ? ううん?」

 なにやらロゼが何かに疑問を持ったようです。……魔法と同じ? オーラ? いったいどういう事なのでしょう?

 

 と、そんな事を考えている間にも、ロゼとモータルホーンの攻防が繰り広げられていきます。

 

 斬る、避ける、斬る、避ける、斬る、避ける。

 

 ロゼが幾度となく、モータルホーンの攻撃を回避しつつ反撃を繰り出していきます。

 しかし、モータルホーンは一向に動きを止めません。


 攻撃が命中する度に、少量ではあるものの瘴気が噴出する為、風の刃同様、やはり攻撃自体は効いているようなのですが……致命的なダメージを与えるには程遠いようです。

「……うん、間違いない。……この緑色のオーラは……風膜っ!」

 スキを見て再び《翠風の裂刃》を放ったロゼが、そんな事を呟きます。感情表現の希薄なロゼですが、その声からは驚愕と焦燥が感じ取れました。


 風膜――風の防御障壁、ですね。

 モータルホーンをよーく見てみると、たしかにロゼの言う通り、薄っすらと緑色のオーラを纏っているのが分かりました。


 魔獣という存在は同じ種でも個体によって纏っている膜――防御障壁が異なるというのは知っていましたが、見たのは初めてですね……

 ともあれ、ようやく理解出来ました。あの風の防御障壁のせいで、ロゼの攻撃はその威力を減衰させられていた……というわけですね。


 となると、まずいですね……。ロゼは風の魔力を宿した短剣しか持っていません。

 当然ながら、同じ風の力――風の防御障壁を纏うモータルホーンに対しては、不利であると言わざるを得ません。


 ロゼの体力は、まだ十分にありそうですが、このまま戦い続けても徐々に疲弊していく一方なのは目に見えています。

 ここは、ロゼの余力があるうちに、どうにかして逃げるのが最良でしょう。

 幸いな事に、町の周囲に張られている結界線まではもうすぐのはずです。全力で走れば、おそらく10分とかからずに辿り着くでしょう。


 あの結界は、魔獣ですら侵入出来ないという事が過去に立証されているので、辿り着けさえすれば安心です。

 ですが、モータルホーンの脚力は凄まじく、その10分かからない距離ですら、逃げ切るのは困難。となると、何かで足止めをする必要があります。

 足止めの方法は……


 ――そう言えば、コートのポケットにフラッシュボトルがありましたね。


「ロゼ! フラッシュボトルを使います!」

 私はモータルホーンとの交戦を続けるロゼに対し、フラッシュボトルを取り出しながら、大声でそう呼びかけます。

 ロゼは私のその声でどうすれば良いのか理解したらしく、軽く頷いてきました。


 さあ……いきますよっ!

次の後編も、ロゼとアリーセの視点となります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ