第38話[表] 変化する台座
<Side:Akari>
「こ、これで最後ですね……」
そうユーコが口にした通り、残っている紋様はひとつ。そして浮遊甲冑の残りも3体だった。
ここまで3体ずつ消失していっているので、これが最後になる……はず。
というわけで、ユーコが紋様の上に浮遊甲冑を纏めるのを待ち――
「最後くらいは私が自分でふっとばします! ――延々と追いかけっこをさせられましたが、これで終わりですっ!」
という声と共に、ユーコが螺旋状のアストラルエッジを纏ったブーツで、目の前の浮遊甲冑に回し蹴りを叩き込んだ。
いや、追いかけっこって……などと心の中でちょっと呆れている間に、ユーコは流れるような動作で、残る2体のうちの1体に対しサーマソルトキックを繰り出していた。
更にそこから最後の1体に向け、サーマソルトキックの宙返り状態から勢い良く身体を回転させ、そいつの脳天――甲冑だから兜というべきかしら――に、踵落としを決める。
……相変わらず浮遊能力を最大限活用したような動きというか……武道の達人みたいな事するわねぇ……
というか、昨日大工房でチラッとアストラルエッジを螺旋状にしたいとかなんとか、エステルの部下――というか『黄金守りの不死竜』の研究者と話しているのを見かけたけど、まさか本当に螺旋状に出来るようになるだなんて……。驚きだわ。
「ん……。ユーコの格闘術の技量上がりすぎ……。うん」
「あの螺旋状のアストラルエッジが曲者じゃの。あれは普通のアストラルエッジと違い、力のかかる方向――つまり攻撃対象に向かって強い衝撃波を生み出しておるようじゃ」
なんて事をロゼとクレリテが言う通り、その螺旋状のアストラルエッジを纏ったブーツから繰り出された蹴り技はどれも衝撃力が大幅に向上しているらしく、凄まじい炸裂音が響き渡り、浮遊甲冑が全て一撃で消滅していった。
そして、ある意味予想通りと言うべきか、ユーコに倒された3体の浮遊甲冑は復活する事もなく、そのまま広間に静寂が戻った。
直後、その静寂を破るかのように、フォォンッ! という最早見慣れた青い光の波紋が広がってい――
「……って、波紋が戻ってきた!?」
と、私は驚きの声を発した。
それというのも、広がったはずの波紋はまるで壁にぶつかって跳ね返ってきたのかのような感じで、中央の台座へと戻ってきた――まるで逆再生したかのように収斂してきたせい。
「これは……上手くいった……という事なのでしょうか?」
ちょっと疲れた表情をしながら台座の所へとやってきたユーコが、そんなもっともな疑問を口にする。
するとそれに対し、
「上手く言ったんじゃないかなー? なんか台座の魔煌波――魔力の流れが渦巻きみたいな感じに変わったし」
と、眼鏡……というか、インスペクション・アナライザーを装着したマーシャちゃんが答える。
「お、まさにその渦巻きみたいな紋様が浮かんできたな」
蒼夜がそう告げた通り、台座の上には渦巻きのような形状をした紋様が浮かび上がっていた。
「これは……エレベーター、あるいはテレポーター……か?」
台座へと顔を向け、首を傾げながら疑問を口にするロディ。
そのロディに対して、クレリテが頷いてみせる。
「うむ、どうやらテレポーターのようじゃ。この神殿内のどこかにある『これと同じ形状の別の台座』と繋がっておるようじゃからの」
「え? インスペクション・アナライザーでどこかに繋がっているかどうかまで、分かるものなんですか?」
「うむ。普通の物では無理じゃが、この強化改良を施したインスペクション・アナライザーであれば、ある程度は魔力の流れというものが見えるからのぅ。転送の魔力の流れを追う事で、先がどうなっておるのかが分かる感じじゃな」
ユーコの問いかけに、クレリテがそう返事をすると、
「なるほど……。なら、少なくとも石の中や宇宙に飛ばされる事はないってわけか」
と、そんな事をロディが言った。
――うんまあ、石の中とか宇宙とかに飛ばされるのは遠慮したいわね。
なんて事を、私はつい考えてしまうのだった。
想定よりも会話が長くなった為、なんだかあまり展開が進んでいませんね……今回。
ともあれ、そんなこんなでまた次回!
次の更新は、平時通りの間隔となりまして、7月13日(木)を予定しています!




