第22話[表] 大工房の入口で
<Side:Akari>
「エステルが良く行くだけあって、とても美味しかったわね。あのお店」
「そうですね。昨晩行った和……アカツキ料理のお店も良かったですが、先程のお店の料理もアカツキ感があって良かったですね」
私に対し、同意の言葉を返してくるユーコ。
……一瞬、和食って言いかけたわね……。まあ、分からなくもないけど。
「アカツキ料理以外も普通にあったしな。俺の頼んだハンバーグステーキも美味かったぞ」
「そう言えば、ハンバーグ『ステーキ』っていうのね」
ロディの言葉に対し、ふと思った事を口にする私。
「そりゃまあ……ハンバーグだけじゃ地名になってしまうしな」
「そう言えば、コウも同じような事を言っておったのぅ……。なんでもアカツキの辺境にある隠れ里的な街だとか言っておったが、お主は行った事があるのかの?」
ロディに対して、エステルが腕を組みながらそんな疑問の言葉を投げかける。
……随分と無茶な誤魔化し方をしたわね……コウという人……
「あー、まあ、なんというか……俺が産まれたのが『そこ』なんだよ。もっとも、物心つく前に『そこ』から引っ越してしまったし、『そこ』がどういう所だったのかの記憶はまったくないけどな」
ロディが髪を掻きながらそんな風に答える。
ええっと……これってつまり、ロディはハンバーグ――ハンブルクの生まれ……って事なのかしら?
それと、引っ越したっていうのは、日本へ……かしらね?
子供の頃に日本に住んでいたって前に話していたし。
なんて事を考えていると、
「うん? エステルと一緒だった? っていうか、うん、エステル、早い?」
というロゼの声が聞こえる。
そして、エステルがそれに対して、私たちに説明したのとまったく同じ説明をする。
うーん……。どうやら、ロゼ、蒼夜、マーシャちゃん、そしてアリシアの4人は、私たちよりも先に来て、今私たちの目の前にある、大工房の入口で私たちを待っていたみたいね。
「――とまあ……そういう現象が起こるくらい、幻導具の物は出力が強いようじゃな」
私たちの午前中の出来事についても、続けて説明したエステルがそう言って締めると、
「なるほど……。そんな現象が起こっていたのか」
「ん、アリーセが居たら、うん、ターンアンデッドボトルを大量に投げつけてそう……。うん」
「たしかにな。……というか、それで地下の浄化までやってのけそうだけどな。アリーセの場合は」
ロゼの発言に対して頷きながら、ちょっと懐かしげな目でそんな風に返す蒼夜。
「アリーセっていうのは、途轍もなく強力な薬を作る人の事……だよねぇ? ターンアンデッドボトルまで強力に出来るのぉ?」
「うん、出来る。うん。前にアルミューズ城で使った時、性能が半端じゃなかった。うん」
アリシアの問いかけに、ロゼがそう答える。
……薬品なら何でもオッケーって事なのかしら? なんだか凄い人ねぇ……
「何をどうすれば、あんなに性能が強化されるのかさっぱりじゃがの……。っと、ここで立ち話をしておるのもあれじゃな。とっとと中に入るとしようかの」
そう言って、大工房の敷地内へと足を踏み入れるエステル。
私たちもそれに同意して敷地内へと入っていく。
「……なんだかエレンディアの倉庫街にある倉庫と同じくらいの大きさの建物がいっぱい並んでいるわね……」
敷地内に入るなり、そんな感想を口にした私に対し、
「その倉庫みたいな建物全てが、研究室じゃよ。基本的にひとつのグループでひとつの事のみを研究開発しておるゆえ、このように数が多い形になっておるのじゃ」
「受付や事務手続き、それから大規模な会議や休憩をする為の場として『中央管理棟』という名の大きな建物もあるけどな」
と、エステルと蒼夜がそう説明してくる。
そんなふたりに対して私は、
「なるほど、そういう構造なのね。なんだかちょっと面白いわ」
と、そんな風に返して周囲を見回すと、入口から見て左斜め正面方向に、かなりの大きさの建物がひとつあった。そして――
うーん……。もしかして、あそこが『中央管理棟』とやらなのかしらね? 全然中央にないけど。
なんて事を思う私だった。
第1部では敷地内の様子はさらっとすっ飛ばしましたが、今回は思いっきり中に入っていく形になるので、詳細を描写してみました。
とまあそんなこんなでまた次回! さて、次の更新ですが……平時通りの間隔となりまして、5月13日(土)を予定しています!
ただ、もしかしたら……程度の話ではありますが、更新が通常よりも遅い時間になってしまう可能性もあります……




