第18話[表] 儀式魔法というもの
<Side:Akari>
「はい、その通りです。頭蓋骨ばっかりでした……」
ロディに肯定するように、そう頷きながら言うユーコ。
「頭蓋骨ばかりってどういう事なのかしら……。なんかこう……ロクでもない儀式とかくらいしか思いつかないんだけど……」
良く分からずに首を捻りながら呟く私に、
「……ふーむ。その可能性はあり得るやもしれぬな」
なんて事を言ってくるクレリテ。
「え? そうなの?」
ちょっと驚き気味に問う私に、クレリテが頷きながら説明してくる。
「うむ。クシフォスが魔煌技術の体系化を行う以前――つまり中世よりも前の時代は、どのようにして魔法が発動するのか良く分かっていなかったからのぅ。おぬしの言った通り、ロクでもない儀式……人間の命を使って魔法を発動させるような術式も、普通に存在しておったのじゃよ」
「ふむ。儀式魔法……という奴か」
「儀式魔法……。ここに来る前に――竜の座へ向かう際に通過した『ガルドア隠れ里跡』で継承されていた『紋章』というのもその一種ですよね?」
ロディに続く形で、ユーコがそんな疑問の言葉を口にする。
「そうですね。あれは言ってしまえば、魔法の発動を成立させる――要するに魔煌波を特定の波長へと変異させる儀式によって術式を構築、それを人間の身体に刻み込む方法ですからね」
ユーコの方へと顔を向け、そんな風に説明するカリンカ。
うーん、なるほど……。紋章について良く分かっていない所があったけど、そういう代物なのね。
「成功すれば強化魔法のような作用を生むが、失敗すれば攻撃魔法のような作用を生む。ゆえに、紋章の定着が上手くいかなかった者は、最悪死ぬわけじゃな。まあ、シャルの里の儀式――紋章のように、強い力を持つが故に定着力が悪いというか……ほぼ死ぬような代物も中にはあるがの……」
「あれは、今でこそ『血』――正確に言うなら『血統』――に反応していた事が魔煌学的に判明していますが、『あのような閉鎖的な隠れ里の者たちは、そんな学術的な根拠なぞ研究する気すらありません』からね。文字通りに手当たり次第に刻み込み、その結果、多くの死者を出していました」
クレリテの説明に対し、カリンカがそう言って肩をすくめる。
……というか今、話の中間辺りで、なんだかちょっと強調しつつ棘のある言い回しをしたわね……
うーん……。カリンカの過去と何か関係がある……とかなのかしら? さすがに今ここで、その話題に踏み込む気にはならないけど。
と、そんな事を考えているとクレリテはカリンカに頷いてみせながら、
「……うむ。まあそういった『邪悪』あるいは『外道』と言える魔法技術を封印、管理するのも我ら魔女たちが女神から託された重要な役割のひとつじゃからな。……まさか、当の本人がそれらを託した頃の記憶を失っておるとは思ってもおらなんだが……」
なんて事をちょっとため息交じりに言った。
「ま、まあ、その辺はあまり知りたくなかった事実のひとつではありますね」
「まったくじゃわい。……もっとも、女神との距離がこれほど近くなるとも思ってはおらなんだがの」
苦笑するカリンカに対し、ちょっと楽しそうな笑みを浮かべながら肩をすくめてみせるクレリテ。
そして、
「……っとと、話が脱線してしまったのぅ。ともあれ……じゃ。『そこ』が『上』に現れた幽霊に関係している可能性は、そういった『儀式魔法』の存在を踏まえると、十分にありえる話ではある……という事じゃな」
なんて告げてきた。
「でも、どうして急に?」
「そうじゃな……。ここからは推測でしかないのじゃが……壁の破損の影響で、誘引の力が『壁の向こう側』にまで働き、それによって何らかの現象が引き起こされた……のやもしれぬな。何しろ、この幻導具は以前設置されておった魔煌具とは、比べ物にならないくらいの高性能じゃからのぅ」
首を傾げながら問う私に、クレリテがそんな風に返事をしつつ、壊れた魔煌具の代わりに設置されている幻導具を見る。
「うーん、なるほどねぇ……」
まあたしかに、あの幻導具っていう代物が途轍もない性能を誇っているのは、私も何度か見聞きして理解しているから、そう言われるとある意味腑に落ちるわね……
思ったよりも説明に尺を取られました……
過去の話からの伏線回収的な部分と更に伏線が増える部分の両方がある為、なかなか大きく削るわけにもいかず、結局こんな感じに……
まあ……それはそれという事で……また次回! 次の更新は平時通りの間隔となりまして……4月29日(土)を予定しています!




