第223話[表] ガルドニス廃墟洞窟
<Side:Akari>
何度かワイバーン――正式名称は、ブラストハウル・スケイルグライダーというらしいけど、長いし意味が良く分からないのでワイバーンでいいわよね――の襲撃があったものの、大した問題でもなく、私たちはゼクタ渓谷の深奥にある『ガルドニス廃墟洞窟』と呼ばれる洞窟に到着した。
「――廃墟洞窟とは、随分と名称ですけれど、一体どうしてそんな名称なんですの?」
「ああ。この洞窟は元々、特殊な『紋章』を継承する連中――ガルドニスって名前の集団――が集落を築いて暮らしていた隠れ里だったんだが、他の『紋章』を継承する連中の襲撃を受けて全滅、廃墟化したそうだ。で、廃墟洞窟って名称になったらしい」
エリスの問いかけに対し、そう説明する蒼夜。
「なるほどですわ。洞窟の中に集落とは、なかなか面白いですわね」
「そうですね。天井が高いからこそ出来た感じでしょうか。色々と興味深い光景です」
ジャンさんが納得顔のエリスに同意し、呟くようにそんな事を言って周囲を見回す。
「たしかに天井がもの凄く高い洞窟よね。飛行艇がすっぽり入ったし」
私はそう口にしつつ後方の少し離れた所にある飛行艇を見る。
すると、蓮司が乗組員と共になにかやっているのが視界に入った。
「エステル製のブツを使ってカムフラージュするんだっけか?」
私と同じく飛行艇へと視線を向けながらそう言ったゼルに、
「そうらしいっすね。というか……ブツって言うと、なんだかヤバい物に聞こえるっすね……」
と、頬を掻きながら返答するツキト。
「ところでぇ、さっき言ってた紋章ってのはぁ、シャルに刻まれているっていうヤツのことぉ?」
「ええ、その通りですねぇ。そして、このレヴィン=イクセリア双大陸の北側諸国で、長い間使われてきた魔法の発動手段でやがりますねぇ」
首を傾げながら問うアリシアに対し、ティアが頷きながらそんな風に答える。
「どの紋章も、一部の人間――継承者たち以外には『刻み方』が完全に秘匿されていたせいで、未だにどれだけの紋章が存在しているのか不明だと言われているのです」
「紋章の刻み方を継承する者同士による暗闘が頻繁に行われていやがったせいで、ここのように滅ぼされた所も結構ありやがるみたいですしねぇ」
クーさんとティアがそんな風に言った所で、
「飛行艇の方はきっちりカムフラージュしてきたぜ」
と言いながら、蓮司が歩いてくる。
「よし、それじゃあ奥へ行くとするか」
蒼夜がそう告げると、私を含めた皆が頷き、洞窟の奥へと向かって歩き出す。
そして、しばし歩いて行くと、たしかに『廃墟』が見えてきた。
壊れたレンガ造りの壁、朽ち果てた滑車や井戸、錆びついたドア……
そういったものがそこにはあった。
それらをエステル製魔煌具で照らしてみると、ところどころ赤黒い染みが見えた。
……どう考えても、血の痕ね……
なんて事を考えていると、ユーコが天井を照らしながら、
「こういう洞窟だとコウモリとかいそうですけど……まったくいないですね」
と、そんな事を言った。
……言われてみると、たしかにコウモリがいないわね……
「どうやら『コウモリを近づけさせない紋章』の魔法が、まだ生きているみたいなのです」
「まあ、洞窟内で生活していたとするとぉ、コウモリはいない方がいいよねぇ」
周囲を見回しながら説明するクーさんに、アリシアがそう返すと、それに対してエリスが小首を傾げてみせた。
「……そういうものなんですの?」
「……普通に考えたら、洞窟内でずっと暮らしていたのなら、コウモリなんて居ようが居まいが気にならないと思うけどな」
肩をすくめてそんな事を口にしたロディに、ジャンさんが頷き、
「そうですね……。どちらかというと、ここを『滅ぼしにやってきた者たち』が使った紋章……という気がしますね」
と同意しつつ、周囲を見回しながら言う。
「あぁ、なるほどぉ、たしかにそうかもぉ」
アリシアが納得の表情でそう口にした所で、
「それにしても、どの建物も屋根がないのが面白いっすね」
なんて事を言いつつ、レンガ造りの建物跡を眺めるツキト。
「洞窟の中だからな。屋根がなくても別に困らないんだろう。屋根代わりの天井があるわけだし」
「とはいえ……よくまあ、こんな暗い所で暮らしていたものだわ。私としては、なんだか不気味な感じしかしないし……」
蒼夜の言葉に続く形でそんな風に私が言った直後、
「オォォオォォォォォンンッ!」
という低い唸り声が響く。
「……ま、アンデッドが居てもおかしくはねぇ場所だよな」
「ここの住人は全滅……。つまり、皆殺しにされたわけですしね」
肩をすくめてみせるゼルに対して頷き、腰に手を当てて首を横に振るユーコ。
「うへぇ、ゴーストタイプばっかりぃぃ」
と、アリシアが次々に姿を現し始める、青白い波動を纏った、浮遊する雨ガッパやドクロ、小さい人魂の集合体といった存在に目を向け、あからさまに嫌な顔をする。
「どれもこれも、物理的な攻撃が効かないのです」
「ふぅむ……。ここまで極端なのも珍しいな」
クーさんの発言にそう返しつつ、ビットのような代物から、魔法を放ってアンデッドを迎撃していく蒼夜。たしか、スフィア……というんだったかしら?
「これも奥にある代物のせい……なんですかねぇ?」
「ま、たしかにアレは周囲の魔煌波を歪ませっからな……。アンデッド化した存在が、普通とは違うような状態に……それこそゴーストタイプに偏るような状態になったとしても、別に不思議な事ではねぇかもなぁ……」
「ですねぇ。それだけの代物でやがりますからねぇ」
ティアと蓮司がそんな事を言いつつ、乱れ舞う炎でアンデッドを焼き払っていく。
……随分と息があっているというか……蓮司はパイロキネシスを使っているからいいけど、ティアさんはどうやって炎を……?
と思っていると、
「これでは、私も『滅ぼしに来た侵略者』みたいな感じですねぇ」
「……まあ、その炎は紋章を使っているしな」
なんて事を口にするティアと蓮司。
……ティアって、紋章あったのね……
「何そこで『紋章なんて持ってやがったんですねぇ?』みたいな事を考えていそうな顔をして突っ立ってるんですかねぇ?」
怪訝な表情のティアが『まさに私が考えていた事』を口にしてくる。
「えっ? そ、そんな事を考えてないわよ? こ、効率的にぶち抜けるポイントを探していただけよ?」
そんな苦しい言い訳をしつつも、構えた魔煌弓をアンデッドの群れへと向け、スプレッドショットを放つ私。
まあ……思いっきり動揺してしまったので、誤魔化せてる気はまったくしないけど……
「まだまだオーラぢか……ではなくて、ゴースト力が足りないですね。出直してきてください」
……いや、ゴースト力ってなによ……と思いつつ、そんなユーコの声がした方へと視線を向ける。
すると、ユーコがワイバーンの時と同じく、飛び回りながらアンデッドを片っ端から粉砕、切断、貫通……と、次々に接近戦で仕留めていく姿がそこにはあった。
それを見て、まあ……うん……。名称はともかく、たしかにゴースト力に差がありすぎるかもしれないわね……
なんて事を思う私だった――
というわけで(?)ゼクタ渓谷を抜け、洞窟の中の廃墟集落へとやってきました。
大幅にプロットを修正したので、割とサクサク進んで行きますよー。
(元々の想定だと、ゼクタ渓谷もこの洞窟も、1~2話で終わるような長さではなかったりします。今考えると長すぎですね……)
とまあそんな所でまた次回!
そして次の更新ですが……ここの所続いていて申し訳ないのですが、次回も平時の間隔よりも1日多く空く形となりまして……2月23日(木)を予定しています!
追記
脱字を修正しました。
また、クーとティアの呼称が一部間違っていたので修正しました。




