第219話[表] 現れし者たち
<Side:Yuko>
何も思いつかないまま、慌てて炎の龍を避けつつシズクさんの方へと近づく私。
しかし、近づくよりも先に火球がシズクさんに直撃。
……する寸前にシズクさんの姿が掻き消えました。
え? あれ? 『縮地』か何かで離脱した……のでしょうか?
そんな風に思って急停止したその直後、火球は凄まじい爆発を引き起こし、その爆風が私へと届きます。
「ユーコ! そんな所でボーっと突っ立ってる――いや、浮いてる場合じゃないでしょ! 炎の龍が来てるわよ!」
急に聞こえてきたそんな灯の声に、ハッとなって炎の龍を回避する私。
そして、即座に声のした方へと顔を向けます。
すると、そこには灯の姿がありました。
それどころか、その横には蒼夜さんの姿とシズクさんの姿もあります。
なるほど……。どうやってここまで来たのかは分かりませんが、蒼夜さんがアポートでシズクさんを引き寄せた……というわけですね。
……まさに間一髪といった感じでしたが、良かったです……
「なんでこう、いつもいつもギリギリなんだか……」
などとボヤく蒼夜さんに対し、
「え? いや、そんな事ないと思う……けど?」
という返答をするシズクさん。珍しくちょっと困惑していますね。
それを聞いた蒼夜さんが、
「あ、いや、シズクの事を言っているわけじゃないから気にしないでくれ」
なんて事を言って首を横に振りました。
うーん? 良く分かりませんが、ギリギリで救出する事が多いんですかね?
と、そんな事を考えていると蒼夜さんが、
「っていうか、外での戦闘で結構な傷を負っているのに中に突っ込んだ上に更に傷を負うとか、バトルマニアにも程がありすぎる」
と、呆れた声でため息交じりに言葉を続けました。
「そ、そうは言っても、えっと……ほら、ユーコにだけ中での戦闘を任せるわけにもいかないし?」
これまた珍しくしどろもどろになりながら、そんな言い訳をするシズクさん。
そんなシズクさんの後ろからロゼさんがスッと現れ、
「ん、だったら交代。私はもう治療薬で回復した。うん」
と言いいながら、シズクさんの口にフラスコ形の水薬を突っ込みます。
「もごっ!?」
いきなり突っ込まれた水薬に驚き、慌てるシズクさん。
そんなシズクさんの前へと移動したロゼさんが、迫ってくる炎の龍の存在に気づきます。
「ん、炎の龍? ……ああなるほど、うん。ストーカーは駄目、絶対。うん」
なんて事を呟きつつ、迫ってくる炎の龍に向かって巨大な霊力の衝撃波を放ちます。
「炎の龍には攻撃が効かな――」
私がそれを最後まで言い終えるよりも先に、巨大な霊力の衝撃波が炎の龍に激突。
凄まじい轟音と共に、炎の龍を消し飛ばしました。
……って、ええっ!?
「ど、どうして炎の龍が一発で!?」
「な、何故そんな事が!?」
私とグインデュロムの驚きの声が重なります。
……どうやら私だけではなく、グインデュロムにも理解出来ない状況のようですね……
「うん? これ、真幻術の応用でしょ? うん。だったら小さな霊力の波動を、何重にも重ねて放てばいいだけ。うん」
なんて事を言いながら、再び巨大な霊力の衝撃波を私の方へと放つロゼさん。
無論それは私を狙って放たれた物ではなく、私へと迫る炎の龍へと向かって放たれたものです。なので、私は私の横を通り過ぎていく衝撃波を眺めます。
……これ、巨大な衝撃波に見えますけど、実際にはロゼさんが口にした通り、小さな衝撃波を幾つも連ねていたんですね……
こんなものをサラッと生成するとか、どんだけ器用で素早いんですか……って感じです。
と、そんな感じで驚きつつも呆れていると、
「ば、ばかな……っ!? 真幻術の応用である事がわかった所で、我が炎が霊力如きに消し飛ばされるなど……!?」
なんていう言葉を発するグインデュロム。
「わかりやすいくらい狼狽しているわねぇ」
「ですね」
やれやれと言わんばかりの表情で首を横に振る灯に対し、頷いてみせる私。
まあ、ただの霊力の衝撃波なら無駄なんでしょうけど、ロゼさんの放ったあれは、凄まじい密度で幾重にも連なっている霊力の衝撃波の集合体ですからね……
気づいていないようなので黙っておきますが。
「はっ、ははっ。やっぱりロゼは強いね……」
「ん、当然。でも……うん、シズクがあいつ相手に苦戦したのは、うん、単に相性が悪いせい。あいつの攻撃は霊力じゃないと対処しづらい。うん」
ロゼさんが、シズクさんに対してそんな風に返事をします。
「霊力……ね。それはたしかに私には足りない物だね」
少し悔しそうな表情でそんな風にシズクさんが言うと、
「うん。……相性が悪い相手には、どうにもならない。うん。私も相性の悪い相手に、片腕を失うくらいの手痛い敗北をした事がある。うん」
と、そう返すロゼさん。
「いや、それは自分でぶった斬っただけだろ……。というか、また随分と昔の話だな」
「ん、あれは大きい失態……。得物の属性を偏らせるのは危険……。うん」
「……今はもう属性を偏らせる方が難しいと思うけどな。あれは旧世代の魔煌具ならではの問題だし。……というか、ロゼは魔煌具なんてもうほとんど使ってないだろ……」
そんな会話をするロゼさんと蒼夜さん。
……良く分かりませんが、随分と昔とか旧世代の魔煌具とか言っていますし、蒼夜さんがこっちの世界に来た頃の話……なのでしょうか?
「――まだだ。まだ負けたわけではない……!」
ようやく受け入れがたい状況から立ち直ったらしいグインデュロムがそんな事を言い放ち、翼を大きく広げました。
たしかにグインデュロムの強さを考えたら、まだなんとも言えない状況ですね。
……でも、単純にこちらの戦力は2.5倍――いえ、それ以上になっていますし、グインデュロムの放つ炎を消し飛ばす事が出来る、ロゼさんという強力すぎる戦力も増えています。
ですので、有利不利で言うなら、こちらの方が既に有利なのは間違いないでしょう。
おそらくですが……あと1話で決着が着くと思います。
さて、次の更新ですが……2月2日(木)を予定しています。
まったく次の話が出来ていない為、平時通りの更新は無理でした……申し訳ありません。




