第215話[表] グインデュロム
<Side:Yuko>
大量の血を流しながらも片膝をつき、倒れ込むのを耐えるヴェルグランが、
「グイン……デュ……ロム……。貴様……何故……?」
と、いつの間にか現れた白いコートを身に纏う白髪のヒュノム族の男性……『グインデュロム』なる人物の存在に気づき、理解不能だと言わんばかりの表情で問いかけます。
「何故? 何故もなにも、元からこうするつもりであったのだよ。まあ、予想以上に不甲斐ないが故に、予定よりもこうするのが早まったがな」
「な……に……?」
「最後の七聖将としての使い道があった事、そして十二邪聖装の力を最大限に引き出せる聖将の――いや、教国に伝わる戦技の秘奥……武装真化を弱体化させる必要があった事から、協力するフリをしていたにすぎん」
グインデュロムはそこまでヴェルグランに伝えた所で、やれやれと首を横に振ってみせた後、ため息混じりにヴェルグランを見下ろしながら嘲笑。
「……もっとも、武装真化の方は弱体化させる必要性すらなかったようだが。よもや、彼の戦技の秘奥すらもかつての聖将とは比べ物にならない程、まともに扱えぬとは思いもよらなかった。まさに想定外というものだ」
と、言葉を続けました。
そんなグインデュロムに対し、シズクさんが顎に手を当てながら、
「なるほど? 貴方があの『影』を不完全な状態で組み込んだ犯人ってわけだね?」
なんていう問いの言葉を投げかけて不敵な笑みを浮かべました。
……そう言われてみると、ヴェルグランは『影の力が相手だけではなく自分の方にも有効である』というのを想定していなかったような雰囲気でしたね……
「この玩具とアレは、そのまま放置しておいては『敵に回った際』に、いささか危険だったのでな。そういった『弱点』を残しておいたのだ」
「もしや、あの少女たちも……?」
「そうだな。制御に多くの生体ユニットを必要とする点もそのひとつと言えるだろう。――生体ユニットは、人形と違ってそこまで量産出来るものではないからな。これだけの数を消費させてしまえば、あの連中の力も同時に削げるというものだ」
ふと思った疑問を問いかけた私に、グインデュロムがそんな風に答えてきました。
……物言いからもヒトをヒトとも思わない、そんな思考である事が良く分かりますね……
と思っているとシズクさんが、
「生体ユニット……。量産、消費……ね。そのヒトの生命ですら道具のように扱う物言いから察するに、元『■■■■』のひとり……といった所かな?」
なんて問いかけました。……ノイズの所が若干気になりますが、まあ組織の名前かなにかでしょう。
「然り。愚かなる『黄金守りの不死竜』なる者共……。貴様らさえ現れなければ、我らが研究はより高次元へと至り、ヒトは肉体という器に縛られぬ存在へと進化する事が出来たであろう……!」
シズクの問いかけに対し、少し怒気のこもった声でそう返してくるグインデュロム。
「そんな事は知らないよ。そもそも……外道には外道に相応しい道があるというものじゃないかな?」
シズクさんが『黄金守りの不死竜』の者だと呼ばれた事に対して、肯定も否定もせずにそんな風に少し煽り気味に返事をします。
「外道……。外道、か。たしかに大いなる変革とは大衆には理解されないが故に、外道と言われるものだ。そういう意味では半ば停滞状態にあった『■■■■』から『竜の御旗』へと移ったのは正解であったと言えるやもしれぬな。『■■■■』では得られなかった情報を得る事で、別の方向からの高次元へのアプローチが可能になったのも事実ゆえに」
ヴェルグランとは違い、激昂したりはせずに、冷静にそう返すグインデュロム。
「やれやれ、一番どうしょうもないタイプだね」
シズクさんが呆れた口調でそんな風に言った直後、
「おの……れ……。貴様……もしや……我が古き同胞……ギデオンも、我と同様に……欺いた……のか」
なんて事を口にするヴェルグラン。
……ギデオン? そういえば、『黄金守りの不死竜』が西の大陸にある獣王国で起きた争乱の際に、そんな名前の人物を取り逃がして、いまだに見つかっていないとかなんとか、蒼夜さんやクーさんが言っていたような気がしますね……
「ギデオン? ……ああ、そのような名前のどこぞの宰相だか大臣だかがいたな。十二邪聖装の亜種とも言うべき代物を与えて置きながら、争乱ひとつまともに起こせぬ愚者だったか……? 使い物にならぬ故に、『変容』させた記憶があるな」
冷静に……というか、本当に興味なさげな感じで告げるグインデュロムに、ヴェルグランが激昂。
「お……の……れ……。キ……サ……マァァァァァッッ!!」
まさに全力を振り絞って……と言わんばかりの様相で、グインデュロムへと襲いかかりました。
ギデオンとこのヴェルグランとの繋がりについては私では良く分かりませんが、グインデュロムの言葉を聞いて激昂するという事は、それなりに強い繋がりがあったのでしょう。
襲いかかってくるヴェルグランに対して回避する素振りすら見せないグインデュロム。
しかしそれは甘んじて攻撃を受けるという事ではなく、回避する必要すらなかったから。
なぜなら、ヴェルグランがグインデュロムに対してその手の先すら届く事すらなく、突然『全身を貫くようにして現れた』数多の光り輝く『棘』を食らったからです。
そして、その攻撃はヴェルグランにとって完全に致命傷。というよりオーバーキルと言っても良いくらいであり、ヴェルグランは床に倒れ伏したまま、完全に動かなくなりました。
なんというか、こうなるとさすがに怒りが薄れて哀さすら感じてきますね……
それにしても、先程の攻撃もどこからどうやっていたのかと不思議でしたが……なるほど、あのようにいきなり『棘』を出現させていたわけですか。
「ふぅん……。私と似たような感じの攻撃だけど、仕組みは全然違いそうだね?」
「似たような攻撃……? ふむ、興味深いな。やってみせるがいい」
シズクさんの言葉に対し、逆に挑発するようにそんな風に言葉を返すグインデュロム。
……いえ、違いますね。この人の場合、挑発ではなく本当に『興味を抱いた』だけなのでしょう。
「言われなくても見せてあげる……よっ!」
そんな事を言い放ちながら、グインデュロムへと突撃するシズクさん。
うーん……。シズクさん相手にあの余裕さですか。
ヴェルグランのような見掛け倒しであればいいのですが、どうもそうではなさそうな感じがしますね……
真のボス登場といった感じですが、果たして……?
とまあそんな所でまた次回!
そして、次の更新なのですが……新しい環境への移行によって全体的に進行が遅れていまして……平時よりも2日程多く間が空く形となってしまい申し訳ないのですが、1月17日(火)の更新を予定しています。




