第213話[表] 紛い物のオリジナル
<Side:Yuko>
「……そのような代物まで生み出しているんですね、『竜の御旗』は」
「まあ、以前『■■■■』に属していた人間の中で、『黄金守りの不死竜』に属す事を拒否した――というか『黄金守りの不死竜』が切り捨てた、キメラだのオートマトンだのを生み出していた奴らが『竜の御旗』に属するようになったせいだね」
「……どこに属していた連中なのか、ノイズのせいで良く分かりませんでしたが、『黄金守りの不死竜』が切り捨てた時点で、ロクでもない人たちだというのは分かりました」
私はシズクさんの説明に対してそんな風に返しつつ、キメラ――つまり、地球に出現するようになった魔物の一部は、そいつらが生み出したせい……というわけですね。
少なくとも仲良くは出来そうにないですね。というか、出来る事なら一掃したいくらいです。
「そうだね、本当にロクでもない奴らだよ。で、そのロクでもない奴らが生み出した生命への冒涜としか言いようがない代物のひとつが、ここに拘束されている少女たちというわけさ。……だから、助ける事なんて最初から出来ない。ならば……今一度その魂を、輪廻の輪に戻してあげるのが一番だと思わないかい?」
なんて事を言って両手を左右に開いてみせるシズクさん。
「魂を輪廻の輪に戻す……とは、また随分と詩的な表現というか……貴方らしくない言い回しですね」
「あれ? そう? アカツキでは割と一般的な言い回しなんだけどなぁ……」
シズクさんが私に対してそんな風に返し、頬を掻く。
なるほど……。たしかに昔の日本っぽい雰囲気を持つというアカツキ皇国であれば、そういった言い回しが普通に使われていてもおかしくはない気もしますね。
「――それはそれとして、ここは倒すしかない……という事ですね。であれば……躊躇せずにいきますっ!」
私はそう宣言すると同時に、視線の先に見えている少女へと急接近。
アストラルエッジを生成して、一気に首を刎ねました。
すると、先に少女の頭部が床に落下し、首から血が噴き出します。
そして、残された身体の方が時間差で床にゴトリと落ちます。
……これまでも気絶では終わらせられない状況の時には、こうして『斬り落として』きましたが……今回は、今まで以上に気分が悪いですね……。色々な意味で。
「おや、思い切りがいいね」
「いえ、怒りはありますよ? ですが……それは――怒りは、聖将とやらの所まで温存しておく事にしただけです」
シズクさんに対してそう返すと、そのまま他の少女も一撃で仕留めていく私。
それは、こうするのが一番良いと考えたから。
この少女たちが痛みを感じて苦悶の声を、悲鳴を上げる事を私は知っています。
そしてそれは、このヒトを模した紛い物――私と同じく、ヒトに似ていながらもヒトに非ざる存在にも、意識や感覚があるという事。
であれば、最小限の苦痛で済ませるのがせめてもの情けというものではないかと、私は思ったのです。
「うん、それで良いと思うよ。奥に居る聖将は、かつての聖将たちと比べたらザコ同然。ユーコなら好きなように叩きのめせるだろうからね。まあもっとも、その前に私が叩きのめしてしまうかもしれないけど」
なんて事を言ってくるシズクさん。
う、うーん……。なんというか、聖将相手に苦戦する可能性がある……なんて言われていた頃が懐かしいですね……
蒼夜さんが持つ謎の力の効果――『周囲にいる仲間の戦闘能力が劇的に向上していく』というのは、本当に強力すぎです……
そんな事を思いつつ、少女を一撃で仕留めて回りながら奥へと進む私。……と、シズクさん。
「……この子たちは『劣化コピー』で、『オリジナル』が存在するんですよね? それは『竜の御旗』の中の誰かなのですか?」
奥へと向かう最中、ふとその事を疑問に思い、私は問いの言葉をシズクさんへと投げかける。
「うーん……。そこまでの情報は得られていないなぁ……。『銀の王』がどこかからか連れてきた少女だっていう事までは分かっているけど……」
「どこかから連れてきた……ですか?」
「うん、そう。どこから連れてきたのかは、多分『銀の王』しか知らないんじゃないかな」
「なるほど……。その少女は今も『竜の御旗』の中にいるのですか?」
「それも謎なんだよねぇ……。まあ、噂によると、どこかの研究施設から別の研究施設に移す際に、逃げられたみたいだけど」
私の新たな疑問に対して、そんな風に言ってくるシズクさん。
……移す際に逃げられた……ですか。
蒼夜さんやロゼさんが、マーシャちゃんは列車内の箱の中で眠っていた所を保護した……と言っていましたが、もしそれが連中に『逃げられた』と思われているのだとしたら……
と、そこまで思考を巡らせた所で、
「なんだか大仰な扉が見えてきたねぇ……。あの先に聖将がいるんじゃないかな?」
なんていうシズクさんの声が聞こえてきました。
シズクさんの指し示す方へと視線を向けると、今までとは明らかに雰囲気の違う、装飾の施された大きな扉がそこにありました。
うーん、なるほど……。たしかにこれは『ボスの部屋へ続く扉』ですと言わんばかりの、『いかにも』な感じの扉ですね……
ちなみに『■■■■』の所は『竜の血盟』です。
久しぶりにこの名称を出したのですが、ユーコだとノイズになる関係でそれが伝わりづらそうな為、ここに記載してみました。
とまあそんな所でまた次回! 次の更新は平時通り……とはちょっといかず、申し訳ありませんが1日ほど多く間隔が空きまして……1月8日(日)を予定しています。
ここの所、平時通りの更新があまり出来ていないのですが、その次の更新はおそらく平時通りいけるのではないか……と。
そんな感じですが、皆様、今年もよろしくお願いいたします!




