第212話[表] 駆ける者、ぶち破る者
<Side:Yuko>
理解が出来ずに混乱する私に向かって、多数の黒い影が迫ってきます。
……黒い影が復活したのは、気絶させたはずの少女がすぐに覚醒したから……?
もしや、少女に繋がるケーブルの先にある何らかの装置が、少女を強制的に覚醒させているのでしょうか……? だとしたら、ケーブルを切断すれば?
そう考えた私は即座に浮遊。
ブーツの先端に刃を生成すると、そのまま少女の上部にあるケーブルめがけ、半回転しながら蹴りを繰り出しました。
ケーブルはそれだけであっさりと切断され、繋がれていた少女が何も声を発する事なく、床にドサリと倒れ込みます。
再び周囲の黒い影が消失。今度はすぐに覚醒する事はな……
……え? 息をして……いない……? な、何故です? 何故こんな事に!?
まさかケーブル――いえ、その先にある何らかの装置が、少女の生命維持も担っていた?
もしそうだとしたら、どうすれば……?
……黒い影を無視して聖将のもとへ突き進み、聖将を倒す……?
それしか方法が思いつかなかった私は、広いナルグ=アムルトの中を迫ってくる黒い影をすり抜けと浮遊で回避しつつ突き進む。
しかし、なかなか聖将のいる場所へ辿り着けない。
増えていく黒い影を回避するのが段々と難しくなっていき、斬り倒す。
当然、そうなれば反撃ダメージが来ます。
「っ! うぅっ!」
その度に、アストラル体である私の身体から血が流れる事はないものの、何かが抜け落ちていくのを感じました。
そして同時に、この何かが『全て』抜け落ちたら、私という存在が消えるであろう事を……こう……えーっと……なんと言えばいいのでしょう……? うーん……。直感的? 本能的? ともかくそんな感じで理解しました。
……『普通の人間』よりは耐えられると思いますが、それでも無制限に倒せる……とはいかないようですね……
ですが、この数を回避して進むのはさすがに不可能に近いですし……聖将のもとに辿り着くのが先か、それとも私の消し飛ぶのが先か……
と、そんな事を考えながら迫る黒い影に斬りかかっていく私。
倒す。抜け落ちる。倒す。抜け落ちる。倒す。抜け落ちる……
それに合わせるようにして、私は視界の端から薄っすらと白い靄が広がりはじめ、更に色も徐々に失われていく。それは予兆。あるいはカウントダウン。
このまま進めれば視界は白に塗りつぶされ、そして私という存在は消える。完全に。
でも、それでも……突き進むしか……ない。
そう思いつつ、目の前の黒い影にガントレットを叩きつけ……ようとした瞬間、その黒い影がいきなり消失しました。
……え?
それだけではなく、他の黒い影も次々に消えていきます。
……誰か他に入って来た? 誰が? どうやって?
わけのわからない状況に困惑し、その場に立ち尽くす私。
そんな私に、「あ、いたいた」という声が聞こえてきます。
この声は……シズクさん?
「え? シズクさん? どうやってここへ?」
「黒い影がちょっとだけ減ったのを見て、ユーコが中で何かやってるんだろうなーって思ってたらさ、わずかに例のジャマーも弱まったらしく、ソウヤが一瞬だけ中を覗けたらしいんだよね」
「え? ジャマーが弱まったんですか?」
「うん、本当に僅かみたいなんだけど、その僅かな弱まりのお陰で、中に広い空間があるってのが分かったらしいんだ」
驚く私にそう返してくるシズクさん。
……という事は、ジャマーもあの少女たちが……?
「それを言われた私は、なんだか面白そうだなって思ったんだよ」
「は、はぁ……」
面白そうと言われても……と思っていると、
「で、ユーコは装甲をすり抜けて、あの巨体の中の空間に入り込んだわけじゃない? だからさ、あの装甲を空間ごと斬れば、穴が開くんじゃないかって思ったんだよ」
なんていう、更に困惑する事をシズクさんが言ってきました。
「そ、装甲を……空間ごと斬る?」
「そうそう。私のディレイストロークって、もの凄く雑に言ってしまえば『時空間を斬っているようなもの』だからね。ソウヤが黒い影を使って脆くした装甲の所に、ディレイストロークを集中させてみたんだよ」
「は、はぁ……」
意味の分からない事を言うシズクさんに対し、私は再びそれしか言葉が口から出てきませんでした。
時空間を斬っているようなものって……サラッと言いますけど、かなり無茶苦茶な攻撃なんですが、それ……
「そしたら、見事に装甲に穴が空いたんだけど、同時に装甲の内側にあった薄い奇妙な靄みたいなものにも穴が空いててね。そこから中が見えたから飛び込んでみたんだ」
「装甲の内側にそんなものがあったのですか? すり抜けた時には気づきませんでした……」
「まあ、普通にすり抜けたら気づかないと思うよ。こう……装甲の内側にかのような感じで存在していたし」
「なるほど……ちなみに、その穴から中に入ってきたのは何人いるんです?」
「残念ながら、穴はすぐ閉じちゃったから、入り込めたのは私だけだね」
なんて会話をしながら、思う。
黄金の不死竜の技術力も凄まじいですが、竜の御旗の技術力も凄まじいですね……やっぱり……
まあ……だからこそ、世界中で破壊活動が行えるんでしょうけど……
と、そこで、
「それはそれとして……なんだけど、ユーコ、黒い影を生み出しているのが、あちこちで拘束されている少女だって分かってて、スルーしてるよね?」
などと、シズクさんが問いかけてきました。
「それは……聖将を倒してしまえば、殺さずに助けられるはずですし……」
「……まあ、助けたい気持ちは分からなくもないけど、それは無理だよ?」
「え? ど、どうしてですか?」
「だって、アレは『オリジナル』をベースにして、そういう風に作られただけの『劣化コピー』だし」
「つ、作られた? 劣化コピー?」
「そうそう。以前、『人形』って呼ばれていた人間そっくりのゴーレムみたいな奴らがいたんだけど、それの『強化改良版みたいなもの』だね。その中で、特定の役割を担わせる事だけに特化して作られたもの、それがアレだよ」
そんな説明をサラッとしてくるシズクさん。
……なんでこう、とんでもない事を唐突に話してくるんですかね……。この人は……
『人形』という単語も久しぶりですね……
とまあそんな所でまた次回! ……なのですが、年末年始を挟みます為、次の更新はいつもよりちょっと多めに間が空きまして、1月4日(水)か1月5日(木)のどちらかを予定しています。
基本的には1月4日(水)に更新する想定なのですが、状況によっては間に合わずに1月5日(木)になってしまうかもしれない為、「どちらか」とさせていただきます……




