第206話[表] 人無き車両基地
<Side:Akari>
「ん、ここが車両基地だけど……。うぅん?」
ロゼが周囲を見回しながらそう言って首を傾げる。
「ううーん……。またもや、もぬけの殻って感じね……」
「というか……ここって、普段は誰もいないのかい? 普通に考えれば、管理している者くらいは居てもおかしくはないと思うのだけれど?」
私の言葉に続くようにして、シズクがそんな疑問を口にする。
なるほど……。たしかにそう言われてみるとその通りね。
と、そう思っていると、
「ん、車両基地は列車の入庫の時と出庫の時、それから点検の時以外は、うん、基本的に無人。魔煌具によるセキュリティが施されているから、うん、人が見張っている必要はないという考え。うん」
なんて説明をロゼがしてきた。
「魔煌具によるセキュリティねぇ……。それ、何かで無力化されたら一発でアウトじゃないかしら?」
「まあたしかにその通りだが、そこまでして列車を盗もうなんて考える奴は、普通いねぇからな。それに……携帯通信機経由で色々と確認出来るしな。っと、そういや車両のリストも確認出来たな……」
ウル隊長が私の発言にそう返しつつ、携帯通信機を取り出した。
そして、それを操作しながら、
「……ん? おかしいな。届け出されている車両と数が合わねぇぞ……?」
と言って、コンテナが複数乗せられた状態で連結されている貨物列車の方へと歩み寄っていく。
「この貨物列車……リストに存在していねぇな」
「それはまた、明らかに怪しいね」
ウル隊長の言葉に対し、そう返しつつ列車に近づくシズク。
そして、
「――コンテナを斬ってみようか。ああ、表面だけ斬るから中までスッパリ、みたいな事にはならないから安心していいよ」
なんて言葉を続けた。
わざわざ言わなくても……と思っていると、蒼夜が、
「いや、何らかの仕掛けがされていたら厄介だ。先に俺が『中を確認する』から、それまで待ってろ」
と返事をしてクレアボヤンスを使った。
ま、どう考えても、まずそうするのが安全で確実よね。
「――ふむ。このコンテナは何かの資材が詰まっているな……。こっちも同じか……。うん? こっちは機幻獣か。……どうやら『竜の御旗』があの場所から運び出してきた物で間違いなさそうだな」
「ん、でもそれなら、守りが手薄なんてものじゃない。うん。空っぽすぎ」
蒼夜の言葉に対し、そんな風に言うロゼ。
「たしかに誰もいないわね……。地下から引っ張り出してきたモノを、これからどこかに運ぼうっていうのなら、誰かしらいないとおかしくないかしら?」
「ああそうだな。既に誰かが制圧した後だってんなら分からなくもないが、その痕跡すらないというのは妙だ」
私の発言に頷きながらそう返しつつ、周囲を探り始めるロディ。
「気配すら感じねぇな。……もっとも、気配を完全に消す手段を使ってるっつー可能性もゼロじゃあねぇが……」
「うーん……。私やロゼで看破出来ないくらいに、完璧なまでに気配を断って姿を隠せるような技量を持っている奴が『竜の御旗』にいるとか、それが出来るような強力な道具が存在するのならあり得るかもだけど……そんな奴も物も『竜の御旗』に存在しているなんて話は、聞いた事もないかな」
ウル隊長の言葉に続く形でそんな風に言って肩をすくめてみせるシズク。
それって、シズクより厄介な技量を持った奴は『竜の御旗』にいないって言っているようなものじゃ……。随分と自分の技量に自信があるのねぇ……
なんて心の中で、やれやれと思っていると、
「たしかに、おふたりともそういうのを感知する能力が段違いですし、おふたりに見つけられない時点で、本当に誰もいないと思って良さそうですね」
と、そんな風に言うユーコ。
「そうだな。それに関しては間違いねぇだろう。だが『何故』だ?」
「まさか……俺たちが踏み込んで来たのを知って、ブツを置き去りにして逃げ出した……のか?」
ウル隊長の疑問に、ロディがそんな推測を呟く。
でも……
「うーん……。それだったら、この列車を動かして逃げた方が色んな意味で都合が良いんじゃないかしらね?」
「それはまあ……そうだな」
ロディが私の発言に肯定して頷く。
と、その直後、
「……空のコンテナ……? ……前後のコンテナにはしっかりと『モノ』が積まれているのに、ここだけ空?」
という疑問を呟く蒼夜。
「……誰かが中身を持ち出した?」
「うん? それなら最初から積む必要なんてないような……。うん」
首を傾げるシズクに対し、そんな風に返すロゼ。
たしかにそうねぇ……。最初からそれだけ持って逃げればいい話よねぇ……
と、そんな風に思っていると、
「もしかして……ここで荷物を『誰かに受け渡す』話になっていて、受け渡した後に俺たちの作戦を察知して、『一番重要な荷物』だけを改めてどこかに移送した……とかだったりするんでしょうか?」
なんて推測をユーコが口にした。
「なるほど……たしかにそれはあり得るな」
蒼夜がそう言って同意すると、
「ふむ……。それなら監視記録を確認してみっか。もしかしたら、何か妙な所が見つかるかもしれねぇしな」
と言い、再び携帯通信機を操作し始めるウル隊長。
「……とりあえず、セキュリティに何かが引っかかった記録はねぇな」
「さっきアカリが言ったように、何らかの方法で無力化したんだろうね」
「ま、ある意味ここは当然だろうな。つーわけで、セキュリティ魔煌具の稼働記録は……っと」
シズクに対し、ウル隊長は肩をすくめて見せながらそう言うと、更に操作を続ける。
「……過去3日の間に稼働が停止しているのは……全部で37回……か。これを入庫、出庫、点検の記録と照らし合わせると……」
そんな事を呟いた直後、
「2回程、記録にない稼働停止があるな」
と、そんな風にウル隊長が言ってくる。
「……それって、ここを管理している所は毎日確認していないの?」
「たしかにそうだね。毎日確認していれば、すぐに分かる事だね。……魔煌具のセキュリティに頼りすぎというか……ちょっと管理が杜撰すぎやしないかい?」
私の発言に続く形で、シズクがそう言ってやれやれと首を横に振る。
「いや、毎日確認しているはずだ。なのにこうして食い違いがあるままという事は……」
「うん、管理局の中にも『内通者』がいたっていう事になる。うん」
ウル隊長の言葉を引き継ぐかのように、頷きながらそう告げるロゼ。
……ああなるほど、そういう風に繋がるのね。
でも、もしそうだとしたら……『竜の御旗』と通じている人間が、オルティリアのあちこちに――様々な組織に潜んでいるって事になるわね……
うーん……。『竜の御旗』は、このオルティリアという土地を随分と重要視しているような感じだけど……何があるというのかしら……?
と、そんな風に思う私だった。
今回の話、テンポが悪くなるのでカットするかどうか迷ったのですが、これをカットすると諸々の情報を出す場所がなくなってしまう為、なるべく不要な所を詰めてテンポを上げる形にしました。……が、それでもまだテンポが悪い気もします……
とまあ、そんなこんなでまた次回! ……という事で次の更新なのですが……12月に入り色々と詰まっている為、申し訳ありませんが再び平時よりも1日多く間隔が空きまして、12月11日(日)を予定しています。
また、その次の更新も同じ間隔になってしまうかもしれません……




