第202話[裏] 拠点同時攻略作戦 Phase7
<Side:Coolentilna>
「グ……ル……オオオオオオオンンッ!!」
「遂に人語の片鱗も感じない獣の咆哮を発し始めやがりましたねぇ」
「人間としての意識が、完全に失われた……ですかね?」
「そうなんじゃねぇですかねぇ」
異形の咆哮に対して、私とティアさんがそんな事を言っていると、
「ギ……ガアァァァアアァァァッ!」
という再びの咆哮と共に、異形が壁を蹴って凄まじい速度でこちらへと突っ込んで来たのです。
「おおっとぉ! ですねぇ!」
なんて事を言いながらそれを回避しつつ、扇状に青白い雷撃を放射するティアさん。ギリギリまで引き付けて、回避の寸前に魔法を放つとかさすがなのです……
さすがに、そのカウンターの如き攻撃を防ぐのは不可能に近いというもので、異形はまともにその雷撃を浴び、苦悶の叫びを上げながら後方へと飛び退いたのです。
と、その直後、
「これも食らっておきやがれですねぇ! ――《朱焔の舞翔刃》!」
というティアさんの叫びとともに、炎を纏った幾つもの朱い剣が異形へと襲いかかり、斬り裂き、穿ち、燃やす。
それに乗っかる形で私も「――《黝キ戒メノ棘鎖》!」と言い放ち、魔法を発動。
棘の付いた黝い鎖が異形の周囲に出現し、四方八方から異形へと襲いかかり、あっという間に拘束したのです。
これで動きは止められ――
「ガ……グ……ガ……グヲヲヲッ!!」
――異形が咆哮を発しつつ力を込めた瞬間、鎖が粉々に砕け散り、更に突き刺さっていた朱い剣も、周囲を浮遊する朱い剣も、全て粉々になった。
う、うわぁ……。とんでもない事をしてきたのです……
「なっ!? 魔法を破壊する咆哮でやがりますか!?」
「……おそらく、魔法の根源である魔煌波を再調律して元の――『魔法となる前の状態』に戻した……のです」
驚愕するティアさんに対し、そう推測を口にする私。
そう……。RPGなどで、『強化魔法の効果を打ち消す技』や『魔法を一切受け付けなくする技』というのがあったりするですが、まさにあれと同じ事をやっていると考えるのが妥当なのです。
そんな事を考えている間に、異形の口元に小さな青い渦のようなものが生み出され――
「――っ! 隠れるです!」
非常にマズい物を感じた私は、即座にそう叫びつつ、近くの倒れた棚の物陰へ向かって素早くローリングして隠れる。
直後、
「ル……オオオォォオォンンッ!!」
という再びの咆哮と共に、空間全体が震え、振動し、唐突に幾つもの爆発が扇状に広がるようにして発生。その幅は広く、縦は天井まで、横は壁まで完全に広がっていたのです。
……い、急いで物陰に隠れていなければ、確実に吹き飛ばされていたのです。
「つぅぅっ!? 何がどうなっていきなり爆発が発生しやがるんですかねぇ!?」
爆炎によって僅かに火傷を負ったティアさんが、叫ぶようにもっともな疑問の言葉を発してきたのです。
「おそらく『ブレス』と同じようなものなのです。それが魔煌波を変容させて爆発させているのです」
「つまり、一部の魔獣や幻獣のように、魔法を咆哮で引き起こしていやがるって事ですかねぇ! 無茶苦茶ですねぇ!」
「まったくなのです。薬であんな力を得られるとか凶悪すぎるのです。わわっ!」
ティアさんにそう返した直後、再び爆発が生じ、弾け飛んだ棚の棚板が私目掛けて落下してき――たかと思いきや、爆風で壁へと吹き飛んでいったのです。
……結果的に回避せずに事なきを得たものの、シャレにならない爆風な事も同時に理解出来たのです……
「なんでこんなにバンバン撃てやがるんですかねぇ!? 魔獣や幻獣のブレスでも、こんなに連発はして来やがらねぇんですけどねぇ!」
更に再び放たれた爆発を生じさせる咆哮を防ぎながら叫ぶティアさん。
「薬の力で変異した事で、脳のリミッターが外れていると思われるのです。魔獣や幻獣が連発しないのは、連発するような無理をすると命に関わる為、脳のリミッターで無意識に――あるいは本能的に――制限しているからなのです」
「なるほどですねぇ。その制限が働かないから、命を削る事になろうとも構わず連発しやがるって事ですかねぇ。……でも、それならば、自滅するまで防ぎ続ければいいんじゃねぇですかねぇ」
私の説明を聞いたティアさんがそんな風に返してきたのです。
たしかにそれはもっともな話ではあるですが……
「耐えられるならばそれもありなのです。ただ……この棚、硬化魔法によって頑丈さが増しているみたいなのですが……それでも、こうも連発され続けたら、そんなに長くはもたないのです……。あちらが致命的な状態に陥る前に破壊される気がするのです」
と、そう返事をする私。
「こっちの机はひとつ壊れましたねぇ……。まだ残っているからなんとかなってますけどねぇ……」
そんな風に言ってくるティアさん。
机も硬化魔法がかけられている辺りは、襲撃を想定して盾にも使えるようにと考えていたですかね? まあ今は、私たちの盾として役立ってくれているですが。
「どうにかして攻撃をしかけてあれを止めたい所なのですが、移動させられる盾がないと近づけないのです……。というか、離脱する事も出来ないのです……」
「そんな便利な代物、ここにはねぇですねぇ……」
私とティアさんがそう口にした直後、
「ちょっ!? な、なんなんですの!? この爆炎の嵐は!?」
というエリスさんの声が聞こえて来たのです。
……爆炎を受けてもなんともない……です?
不思議に思い、声のした方を見る私。
すると、斧を両手で持って水平に構えながら踏み込んでくるエリスさんと、斧を起点に左右へ少し湾曲しつつ広く展開されている蒼く輝く障壁が私の目に飛び込んできたのです。
って……あれは――
そういえば、オルティリアに来る時に列車の中で……?
といった所でまた次回! 次の更新は平時通りの間隔となりまして……11月26日(土)を予定しています!
ただ……その次の更新に関しては、再び平時よりも間隔が空いてしまいそうな状況です……。申し訳ありません……




