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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第1章 アルミナ編
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第43話 討獣士ギルドへの報告

第1章最後の話です。

 とまあそんなこんなで、森の状況を少しばかり調べつつ1日ぶり……ではなく、3日ぶりに町へと戻ってきた。3日前はあんなにいた魔獣に、一切遭遇しなかったので、やはりあの化け物が元凶であったと考えてよさそうだ。


 というわけで、魔獣に関して報告するために討獣士ギルドへ入ると、

「あ、ソウヤさん! 3日ぶりじゃないですか! ……もしかして、ずっと森の中にいたんですか?」

 クライヴと話をしていたらしいエミリエルが、俺に気づき言葉を投げかけてくる。

 

「いや、森で魔獣をある程度狩った後、偶然里の他の者と出会ってな。色々話をした結果、例の地下神殿遺跡へ行く事になってな。今日の明け方までそこに居たんだ」

 ディアーナの事を話すと、とても厄介な事になりそうなので、そういう事にしておく俺。

 

「そうだったんですか。……って、あれ? それでしたら、その方はどちらに?」

「ああ、遺跡から帰ってくる途中で別れた。なんでも、他に調べたい事があるとか言って、別の所に向かったよ」

 途中で別れた事自体は事実だし、ディアーナは別の方向から調べてみると言っていたので、嘘は言っていない。

 

「なるほど。……あ、もしかして、遺跡でなにかありました? 3日前はかなりの魔獣の出現報告があったのですが、翌日の朝にはほとんど出現報告がなくなって、昼過ぎには完全になくなったのですが……」

「そうですね。私も実際に昨日、今日と森を見回って来ましたが、魔獣の姿は一匹もありませんでしたし」

 と、俺の方を見て、そんな事を言ってくるエミリエルとクライヴ。

 

「えーっと……。実は……」

 そんなわけで俺は、説明しづらい部分を所々はぐらかしながら、遺跡での出来事と、化け物が元凶だった事を二人に話す事にした――


 ……

 …………

 ………………


「――とまあ、そういうわけだ」

「まさかそんな化け物が、あの地下神殿遺跡の最深部に封印されていたとは、夢にも思いませんでした……」

「ええ、驚きですね…………って! 支部長!? いつの間に来たんですか!?」

 いつの間にか現れ、横に立っていたロイド支部長の言葉に驚くエミリエル。


 ……って、そう言えば、本当にいつの間に現れたんだ? 

 クライヴは特に驚いていないので、気づいていたようだが……ギルドの支部長とエース級討獣士だった護民士だけはあって、隠密行動やそれを見破る能力は高い、という事なのだろうか。

 

「エミリエル君もまだまだですねぇ。と、それはともかく……そうなると、遺跡の立ち入りを制限した方が良いかもしれませんね。あと、大陸本部に行って直接説明しておくべきでしょう。その方が他に類似の存在が確認された時にも対処しやすくなりますし」

 と、そこまで言った所で一度言葉を区切り、俺の方を見るロイド支部長。

 

「もし可能であれば、ソウヤさんにも同行していただけると助かるのですが……」

「そうですね……。あの化け物に関しては、類似の存在についての情報も得たいと思っていますし、構いませんが……大陸本部というのはどこにあるのですか?」

 これから首都へ行こうと思っていたので、真逆方向だったりすると、ちょっと面倒だと思い、俺はロイド支部長にそう尋ねてみた。

 

「ルクストリアにありますよ」

「あ、そうなんですか。それでしたら、ちょうどルクストリアへ行こうと思っていた所ですし、ついでですので喜んで引き受けますよ」

「恐縮です。――というわけでエミリエル君、案内をよろしく頼むよ」

 そう言い残して立ち去っていくロイド支部長。

 

 エミリエルはロイド支部長に承知した旨を伝えると、俺の方を向き、

「そんなわけなので、私がご案内しますね。出発はいつでも構いませんが……どうします?」

 そう言ってきたので、俺は近くに置かれていた宿にあったのと同じタイプの、ホログラム式の時計に視線を向ける。

 と、午前9時20分と表示されていた。


「……9時の列車は、とっくに出てしまっているよなぁ」

「残念ですがそうですね。次の11時ので行きますか?」

 そう問われた俺は、特に異論がなかったので、それで構わないと伝える。

 

 すると、クライヴが、

「あ、その時間の列車でしたら、アルベルトさんと一緒になりますね」

 そんな事を言ってきた。はて? アルベルトも首都に用事があるのだろうか?

 

「あ、もしかして例の件の報告ですか?」

「ええ。昨日サラが帰ってきた事もあり、町の方は彼女と私でどうにかなるので、治安維持省での会議に出向く事になったんですよ」

 エミリエルの問いかけに対して、そんな風に返すクライヴ。

 

 サラっていうのは、多分結婚報告とやらでいなかった3人目の護民士の名前だろう。3人目も男性だと思っていたんだけど、女性だったんだな。予想外だ。


 ……って、それはいいとして、それよりも――

「えっと……何かあったんですか?」

「実はですね……3日前の事なのですが、例の列車盗賊団――『ヴェヌ=ニクス』が、また列車を襲ったのですよ」

 クライヴが腕を組みながら、俺の質問にそう返してくる。

 

「え? たしか、あの日の早朝に根城を制圧する形で動いていたのでは……?」

「ええ、その通りです。実際、根城の制圧に成功し、盗賊団の大半を捕らえる事が出来たのですが……どうやら、監視を開始するよりも前に、根城の外へ出ていた部隊がいたらしく、その部隊が逃亡の為に列車を奪おうとしたようですね」

 俺の疑問に対し、そう答えるクライヴ。

 うわぁ……。それはまたタイミングの悪い事で……


「なるほど……。って、まさか、その襲われた列車というのは――」

「はい。お姉ちゃんたちが乗った列車ですね」

 俺が聞こうと思った事を、横から告げてくるエミリエル。

 

「うへ、やっぱりそうだったか。えっと……それで、エステルたちは?」

 俺はエミリエルとクライヴを交互に見ながら、そう問いかける。

 まあ、ふたりの落ち着き具合からすると特に問題なかったんだろうけど。


「乗り合わせたシャルロッテさんという名のモノノフの方が単独で、尋常ではない速さで殲滅したそうですよ。お姉ちゃんが興奮しながら、その時の様子を連絡してきましたから、相当な腕の持ち主だったようですね」

 と、そう言ってウンウンと首を縦に振るエミリエル。

 シャルロッテというと――

 

「なるほど、たしかにあの人ならそのくらい出来そうだ。優れた武人って感じだし」

 俺はシャルロッテの事を思い出しながら、そう呟くように言って納得する。

 

「おや? もしかして、ソウヤさんの里の方ですか?」

「いえ、残念ながら違いますね。単に、その前の日に彼女と宿で始めて出会ったのですが、その際に、それくらいは出来るであろう戦闘能力の高さを感じとった、というだけの話ですので……」

 首を傾げながら問いかけてくるクライヴに対し、そう言葉を返す。

 

「ああなるほど、そういう事でしたか。……実はその方のお陰で、乗客に死者が出る事もなく、あっさりと解決したのですが……肝心のその方は、列車がルクストリア駅に着くなり、いつの間にかいなくなってしまっていたそうでして……。もし同郷の方なら、詳しく話を聞きたいと思っていたのですが……」

 心底残念と言った風に言うクライヴ。

 

 そのクライヴの言葉を聞き、エミリエルが頬に指を当てながら首を傾げる。

「でも、なんでそんな隠れるようにいなくなってしまったんでしょうね?」


「うーん……。目立ちたくなかったか、もしくは、急いでいた……とか? ……って、ああそう言えば、なんか誰かと会う予定があるって言ってたなぁ」

「そうだったんですか? でもそうすると、待ち合わせの時間が迫っていて、事情聴取とかで時間を取られたくなかった……という理由が一番ありえそうですね」

 俺の言葉にエミリエルが納得したと言わんばかりに頷き、言う。

 

「なるほど、たしかにその理由が一番しっくり来ますね。その話はアルベルトさんに伝えておきましょう」

 俺とエミリエルの話を聞いていたクライヴもまた同じように頷き、そしてそう言う。

 

「まあ、もし次にシャルロッテさんに出会う事があったら、その件について話しておきますよ」

 出会う事があるかどうかはわからないが、とりあえず俺はそう告げて、心に留めておく事にした。

 ……ただ、なんかまた出会いそうな気がするんだよなぁ。カンだけど。


                    ◆

 

「――さて、11時の列車に乗るのでしたら、色々と準備と引き継ぎをしておかないといけませんね。10時45分に駅の構内で待ち合わせでよろしいですか? ……あ、お姉ちゃ――姉の様に遅れたりはしないのでご心配なく。……というか、あの時は姉が迷惑をかけてすいません」

 そう言ってエミリエルが頭を下げる。


「いや、俺は特に迷惑をかけられたわけじゃないから気にしないでいいぞ。一応、全員9時の列車には乗れたしな。っと、それはともかく10時45分に駅の構内だな。わかった」

「あ……っと、そうでした! その前にソウヤさん。ランクアップ処理をしておきましょうか。多分ですけど、さっきの話からすると、100ランクくらいは余裕で上がっているんじゃないかと思いますよ。……まあ、100ランクアップとか、普通に考えたらありえないレベルなんですけど、絶対いってますよ」

 なんて言ってくるエミリエル。……多分って言ったのに、絶対って……。自身があるのかないのか、どっちなんだ……それは。

 

 まあ……エミリエルの言い回しはともかく、ランクアップ処理自体はしておいて損はないので、言われた通りカードをエミリエルに手渡す。

 

「では、チェックしますね」

 そう言って、俺から受け取ったカードをスマホのワイヤレス充電器の様な長方形のボードの上に置くエミリエル。

 

 と、その直後、置かれたカードが虹色に発光し、カードの真上30センチくらいのところに、数字が浮かび上がってくる。当然ながらこの世界の数字ではあるのだが、特に問題なく読める。……さて、いくつだ?

 

「えーっと……138ですね」

 俺が読むよりも先に、エミリエルが数字を読み上げる。138か……。結構上がった方……なのか?

 

「3日で……いえ、実際には1日で、ですね。1日で1から138までランクアップですか。新記録とはやりますね、さすがです」

 と、感心したように言うクライヴ。お、新記録なのか。……の割には反応が薄いような?

 

「そうですね。他の人がやったら、ひゃくさんじゅうはちっ!? とか、そんな驚きの声をあげる所ですけど、さっきの話を聞いた後だと、想定の範囲内って感じですね」

 エミリエルが冷静にそんな風に言ってきた。特に驚く様子もないので、本当に想定の範囲内らしい。一体全体、さっきの話でどんな評価をしたんだ……。まあ、多分だの絶対だの言ってたけどさ。

 

「おや、新記録樹立についても報告がいりますね。もっとも、想定済みでしたので、報告用の書類は、あとランクを書き込むだけで完了出来る状態にしてありますが」

 またもや、いつの間にか現れたロイド支部長が、エミリエルの言葉に続くようにそう告げてくる。こちらも特に驚く様子はない。

 それどころか、想定済みで報告の準備もほぼ終わっているときたもんだ。


 あまりの反応の薄さに、ちょっとだけ悔しい気分になった俺は、もっと倒して、そして想定外のランクアップをして、驚かすべきだったか……! なんて事を思ったのだった。

ラストっぽくない終わり方ですが、第1章はこれで終了です!

物語は、間章を挟んで第2章へと入っていきます。


第2章は、都会である首都ルクストリアが舞台です!

ファンタジーでありながら近代的な都市らしい物語に乞うご期待! 


……というか、ご期待に添える物が書ける様がんばります……

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