第200話[表] 拠点同時攻略作戦 Phase5
<Side:Yuko>
「さっきの場所を制圧する時は、ターン制の術式なんて発動していなかったわよね?」
「そうですね……。多分、発動していないと思います。もっとも、シズクさんがほぼひとりで掃討してしまったので、発動していても気づかなかったかもしれませんが……」
灯の問いかけに対してそう答える私。
あの時は、灯も攻撃魔法を使っていましたが、『シズクさんの攻撃が終わった後』に使っているので、なんとも言い難い所です。
と、そんな事を考えていると、
「む……」
という言葉を発しつつ、蒼夜さんが足を止めました。
「魔法陣を発見したのか?」
「いや、この先に『竜の御旗』の構成員が4人程いる」
ロデリックさんの問いかけにそう答える蒼夜さん。
「ターン制の術式が発動している事を考えると、少し面倒ですね……」
「そうかい? 私が踏み込んで掃討すればいいだけじゃないかい?」
私の発言に対し、シズクさんがそんな風に返してきます。
「……まあ、たしかにあながち間違いでもないですね……」
「じゃあ、ちょっと先行するよ」
私の返事を聞いたシズクさんが、そう言って勢い良く駆けます。
「って、いきなりかよ!」
「……ま、とりあえず追いかけるか……」
ロデリックさんのツッコミに対して、肩をすくめつつそんな風に返し、シズクさんの後を追う蒼夜さん。無論、私たちもそれに続きます。
「――あ、もう終わったよ。聞いていた通り、順番にひとりずつしか仕掛けて来なかったから、楽勝すぎたかな」
私たちがシズクさんに追いつくと、シズクさんは開口一番そう告げてきました。
さ、さすがに強いですね……
正直、この人の相手はちょっとしたくないですが……どうもシャルさんの次に目をつけられている感じがするんですよね……。はぁ……
と、心の中でため息をついた所で、
「戦闘の基本というか……強者相手に、四天王みたいにひとりずつ攻撃を仕掛けちゃいけないっていう良い例よね。最弱から順番に倒されて終わりだし」
なんて事を言ってくる灯。
「たしかにターン制の術式の問題点が、如実に現れたのは間違いないですね」
灯の発言に同意しつつ、気絶している竜の御旗の構成員を拘束していると、
「む……。魔法陣らしいものを見つけた。この真上だ」
なんて事を蒼夜さんが告げてきました。
「なら、私が上に行って破壊してきま――」
「――待った。上に防衛の為の思われる機幻獣が1……2……3……。全部で3体放たれている。単独であの数を相手取るのはちょっと厳しめな気がするぞ」
私の発言を遮る形で、蒼夜さんがそんな風に言ってきます。
機幻獣……。今の私なら1体ずつなら3体でも相手出来そうですが、3体同時となると、たしかにちょっと厳しい気がしますね……
「それに、他の所にも機幻獣が配備されているとなると、例の幻影体を使った同時破壊は難しそうだな」
「そうね……。おそらく、幻影体が消し飛ばされてしまうわね。あれって、攻撃を受けるとあっさり霧散しちゃうし……」
ロデリックさんの言葉に続く形で、灯がそう言って肩をすくめました。
「地道にひとつずつ制圧して、破壊していくしかなさそうだな……」
というロデリックさんの言葉に、ふと気づく私。
ひとつずつ……?
3体同時は厳しいけれど、1体ずつなら相手に出来るわけだから……
「――ターン制の術式が発動しているのなら、あちらは3体同時には動けないはず……であれば、相手をするのは1体ずつ……。すり抜けを使って、壁や床などを盾とする事で、私ひとりでも倒せるかもしれません」
と、私はそんな風に告げる。
「なるほど……。言われてみるとたしかにそうだね」
「はい。――なので、ちょっと試してきます。灯、PACブラスターを貸してください」
私は頷くシズクさんに頷きつつそう言って、灯の方を見ます。
「ええ、もう出しておいたわ」
と返事をして、既に次元鞄から取り出してあったらしいPACブラスターを私に手渡してくる灯。
「それでは行ってきますね」
私は皆さんを見ながらそう告げて、情報へ向かって浮遊します。
そして天井をすり抜けて上に顔を出した所で、光球が私に向かって飛んできました。
――っ!?
私は慌てて下へと引っ込みます。
すると、耳元でバシュンという弾ける音がしました。セ、セーフ……です。
……ま、まさか、いきなり攻撃を受けるとは思いませんでした……
どうやら、床下からの接近であっても感知出来るようですね……。注意しなくては……
私は気を取り直すと、少しだけ離れた場所から再び顔を出します。
今度は攻撃が来るような事はありませんでした。感知範囲外へ出られたようです。
ですが、上下を含めた360度全方位へ感知してくるとなると、接近するにも注意が必要ですね……。壁を貫くような攻撃とかされる可能性もありますし……
そんな事を考えながら、上のフロアの通路を先程の場所へと向かって進みます。
と、そこで真正面から炎が迫ってきました。
私がそれを横の壁をすり抜ける形で回避すると、
「グルオオオオオオオンンッ!!」
という咆哮らしきものと共に、機幻獣が迫ってくる足音が響き渡りました。
……迫ってくるという事は、接近戦を仕掛けに来ていると考えられますね……
であれば、遠距離からの攻撃はないはず……
そう考え、壁から通路へと戻りながら戦闘態勢を取って待ち構える私。
すると、程なくして壁や天井を行き来するような感じで疾走してくる機幻獣の姿を捉えました。
その姿は……ええっと、ふたつ首の……トカゲ?
う、うーん……。火を放ってくるのは確認出来ているので、ツインヘッドサラマンダーとでも呼べばいいでしょうかね……?
ともあれ……そんな奇妙な機幻獣が、私の前に立ちはだかったのです。
……でも、おかしいですね? なんだか、あまり強そうに感じません……
無双出来る程強いなら別ですが、そうでないのなら、単騎で仕掛けるのは死ぬだけですからね。
とまあそんな所でまた次回! 次の更新は、申し訳ありませんが所々諸々の用事により、平時より1日多く間隔が空きまして……11月19日(土)を予定しています。




