第194話[表] 座と御旗
<Side:Akari>
「――とまあ……そういうわけだ。行くかどうかはそっちに任せる。ちなみにだが……モニカやガレスといったそっちの元関係者も、何人か《竜の座》に行っているぞ。ま、シャルと同じヴァルガスさんの傭兵団に所属していた面々は、その大半が過去に行っていると思っていいな」
そう締めて、蒼夜が広捜隊の皆に対する説明を終える。
「……ったく……。何の話かと思ったら、予想以上にとんでもねぇ話だったぜ……」
ゼルが額に手を当てながらそんな風に呟く。
それに対し、
「そうですね……。しかし、《竜の座》……ですか。やはり実在していたのですね……」
そう言ってメガネをクイッと押し上げるジャンさん。
ジャンさんの方は、ある程度知っていた感じなのかしらね?
なんて事を思っていると、
「……今後の事を考えると、ノイズ化されてしまう言葉がしっかり聞き取れる方が、色々と都合が良いのはたしかですね」
と、私の横に座るロディが思案しながら……といった感じの仕草をしつつ、ゼルに対してそんな風に言った。
「そいつぁまあ……たしかにその通りだな……」
「一度入ったが最後、色々な意味で後戻り出来ない感があるのが、少し恐ろしい所ですわね……」
頷くゼルに続く形で、そう言って肩をすくめてみせるエリス。
「ちなみに……その《竜の座》へ入る為の鍵みたいなのってぇ、アカリとユーコなんだよねぇ? アカリとユーコはどう思ってるのぉ?」
と、アリシアがそんな風に問いかけながら、私とユーコを交互に見てきた。
それに対して私は、
「うーん、そうねぇ……。実を言うと、私自身は《竜の座》に興味があるのよね。というのも……上手く説明は出来ないんだけど、心の奥底で『行くべき』っていう想いというか……こう、なんと言えばいいのかしらね……。火種が燻っているような……そんな感じがあるのよ」
なんていう、自分でもいまいち何を言いたいのか良くわからない言葉を返した。
「……そうですね。たしかに、何故かはわかりませんが、そういう感覚がありますね。まるで……魂の根幹から、何かに突き動かされているような、そんな感覚が」
アストラル体のユーコならではというべきなのか、ユーコは私が感じている妙な感覚を、そんな風に表現してみせる。そしてその表現は、ストンと私の胸に落ちた。
「ふぅむ……。一種の共鳴の類……でやがりますかねぇ?」
ティアが腕を組みながら、そう呟くように言うと、
「……共鳴。なるほど、たしかにあり得るかもしれないのです」
などと、クーさんの方も何かを納得したような表情で呟いた。
「なんにせよ、ふたりが行こうというのであれば、自分も行くっすよ! エリスさんの言うように色々と後戻りは出来ないかもしれないっすけど、聖上が行って問題のない場所っすからね。自分が行っても問題ないと思っているっす!」
「あ、私も私も! たしかにエリスの言うように『怖さ』もあるんだけどぉ、アカリと同じで、それ以上に興味があるんだよねぇ」
ツキトとアリシアがそんな風に言うと、
「ああ、俺も気になるな」
と言って頷くロディ。
そして更に、横の席に座っている事もあり、その後ろに続いた小声での呟きも聞こえてきた。
「……この世界の人間ではない俺にとっては、特に怖いという感覚はないしな」
まあたしかにそうよねぇ。そこは私も同じだわ。
と、ロディの呟きに対して、私は心の中で同意する。
「ま、俺としてもエリスの言葉はもっともだが、それ以上にモニカ前隊長やガレスさんが行った場所であるのなら、行かずにはいられないって思いの方が強いな」
そんな風にゼルが言うと、ジャンさんがそれに対して頷いてみせる。
「はい。私としても、得られる物が多いと考えています。無論、この世界そのものが隠蔽しようとしているかの如き所へ触れようとする以上、エリスさんの言うように、後戻りは出来なくなるでしょうが」
「ちょっと皆さん! 私がネガティブの塊みたいに言わないでくれません!? 私とて後戻り出来ない恐怖なんて、ぶち破ってやろうという思いの方が強いですわよ!」
思いっきりイジられた形になったエリスが、少し憤慨しながら、そう声を大にして言い放つ。
まあ、ある意味いつもの光景よね……
なんて事を考えていると、
「つーわけで……俺たち広捜隊一同は、《竜の座》へ乗り込むとするぜ」
と、ゼルが蒼夜の方を見て宣言した。
私がそれに対して頷いてみせると、他の皆もそれに続くようにして頷く。
「思ったよりもあっさりと決まったな」
「ま、理由はそれぞれ色々あるだろうが……俺たち広捜隊は、そもそも『事件の真実を追う事』を仕事にしてっからな。『真実を知る事』から逃げようと思う人間なんざ、最初っからいねぇさ」
蒼夜の言葉にそう返し、肩をすくめてみせるゼル。
「なるほど……。たしかにそうかもしれないな。――分かった。それならば、すぐにでも行く為の準備をするとしよう。といっても……普通に案内しようとしても『操作』されて案内出来ないんでな。その対策も込みでちょいとばかし時間がかかるが……まあ、2~3日中にどうにかするから待っていてくれ」
そんな風に告げてくる蒼夜。
それを聞いたゼルが、
「ふぅむ、2~3日か……。今日得られた情報からすっと、『竜の御旗』の作戦とやらが大きく動くタイミングと、かち合いそうな気がすんな……」
と、顎を撫でながら呟くように言った。
「え? そうなのぉ?」
「ええ、尋問の結果、その可能性が高いという推測が、先程立ちましたわ」
アリシアの問いかけに頷き、そう答えるエリス。
それを聞いていた蒼夜が、
「……ふむ。となると、『竜の御旗』の動向を探らせる班の人員を多めにして、状況に応じて制圧部隊としても動かせるようにしておいた方が良さそうだな」
などと、腕を組みながら口にした。
「そういえば……追加で来る人員を、3つの班に分けると言っていましたね」
「ああ。ガルディエナの攻略が思った以上に厄介だった事もあって、そうする予定だったんだが……近い内に奴らが動くというのなら、そちらに人員を割く方が妥当だろう。面倒事を片付けてから、後腐れなく探索したいしな」
ユーコの言葉に肯定し、そんな風に言ってくる蒼夜。
たしかにその通りね……と思った私は、
「昼の段階では、広捜隊はガルディエナの方に人員を多く回すっていう話だったけど、『竜の御旗』に全振りする感じかしら?」
という問いの言葉を投げかける。
すると、それに対してジャンさんとゼルが、
「そうですね……。ガルディエナの攻略は一筋縄ではいかないという話ですし、それを考えると、二転三転して申し訳ありませんが、その方向性で動くのが最良だと私は思います」
「だな。『黄金守りの不死竜』の追加人員も来るなら、逃さず一掃出来るはずだ。警備隊内の不穏分子も含めて……な」
と、ある意味予想通りの返答をしてきた。
《竜の座》も気になるけど、まずは『竜の御旗』をどうにかしないと……ね。
というわけで(?)《竜の座》の前に『竜の御旗』を片付ける形になりそうですが……?
とまあ、そんな所でまた次回! ……なのですが、次もちょっと平時通りの更新は難しい為、申し訳ありませんが平時よりも1日間が空きまして……10月29日(土)の更新を予定しています。




