第192話[表] 刻印とカメラと障壁と
<Side:Akari>
「ん、半分正解」
「正確には水路の中にある刻印、だね」
ロゼとシズクがそんな風に言ってくる。
「刻印?」
水の巨人の動きに注意しつつ、水路へと歩み寄って覗いてみる私。
すると、シズクの指差す先――水底に文字のようなものが刻まれていた。
あ、あんな所にあるなんて気づかなかったわ……
「この刻印……というか文字、ヴァロッカの……なんとかの奇岩群って場所の岩に刻まれていたものに形が似ているような……」
「天穿の奇岩群ですね。っと、それはともかく、たしかに同一の文字体系と言って良さそうな感じですね。あそこの文字とか全く同じですし」
私の呟きに対し、いつの間にか横に居たユーコがそう返してくる。
いや、うん……そう言われても、私にはさっぱり分からないけど……
と、そんな風に思って思っていると、エステルが「なんじゃと!?」という驚きの声を上げながら駆け寄って来て、刻まれている文字を見ながら、
「むむ……。たしかに完全に一致しておるわい。まさか、こんな所で天穿の奇岩群に繋がる物を見つける事になるとはのぅ……」
と言って肩をすくめてみせた。
「ん、エステル、アレがなんて書いてあるか、うん、分かる?」
「彼の文字も解読し始めたばかりじゃから、さすがに無理じゃわい」
ロゼの問いに対してそうエステルが返すと、
「ならまあ……とりあえず、あの文字がある箇所を壊しちゃえばいいかな」
なんて事を口にしながら得物を構えるシズク。
「待つのじゃ。これは、あの場所を詳しく調査して判明した事なのじゃが……彼の術式が暴走すると、最悪周囲一体が今のローディアス大陸のような状態になる可能性があってのぅ。同じ文字が使われておるとなると……それと同等レベルの暴走が生じる恐れがあるゆえ、壊すのはやめておいた方が良いじゃろうな」
そうエステルに言われ、残念そうな表情で得物をしまうシズク。
……一応、水の巨人が復活しかけてるんだけど……しまっちゃうのね。
って、そうじゃない。そうじゃないわ。そこはどうでもよくて……っ!
アレがあのまま暴走し続けていたら、結構とんでもない事になってたって事よね?
う、うーん……。なんというか、色々な意味であの時はギリギリだった感じがするわ……
そんな事を思っていると、
「ま、文字の写真を撮ったら、今日の所は離脱するか」
なんて事を蒼夜が口にし、携帯通信機を取り出して写真を撮り始めた。
それを見ていたアリシアが、
「すっごい高いカメラ機能付きの携帯通信機を、平然と持ってるあたりはぁ、さすが『黄金守りの不死竜』って感じだよねぇ」
と、呟くように言う。
そう、そうなのよね。
地球では携帯電話にカメラが付いているのが当たり前だけど、こっちの世界の携帯通信機は、まだカメラが付いているのって少ないのよねぇ……。というか、カメラなしの奴の3倍くらい高いし。
「ああ、これは試作品だぞ」
「最近、カメラ機能を安価に組み込む事が出来る方法を確立してのぅ。これはその方法で作った量産型のプロトタイプなんじゃよ」
アリシアに対し、蒼夜とエステルがそんな説明をする。って……
「という事は、近い内にカメラ付きが安く買えるようになる……と?」
「そうだな。『エルドラドファクトリー』から近い内に発表されるはずだ」
私の問いかけに、そう答えてくる蒼夜。
「エルドラドファクトリー製の携帯通信機一択になりそうだねぇ、それ」
「いや、この『方法』を発表するのじゃよ。じゃから、他の携帯通信機を作っている工房も、ちゃんとした所であれば、容易に同じ事が出来るようになるはずじゃぞ」
肩をすくめるアリシアに対し、エステルがそんな返事をする。
「なかなか太っ腹だね。秘匿すれば大儲け出来るのに」
腕を組みながらそんな風に言うシズクに、
「こういう技術は、秘匿するよりも公開してしまった方が色々と発展に繋がる上、互いに協力関係を結びやすくなるからのぅ。巡り巡って妾たちエルドラドファクトリー……というか、大工房の技術向上にも繋がるのじゃよ」
と、そう答えるエステル。
へぇ……。そういうものなのね。
っていうか……エルドラドって、たしか『黄金郷』を意味する言葉……よね?
つまり、『エルドラドファクトリー』は『黄金守りの不死竜』の企業だって言っているようなものじゃ……
なんて事を思っていると、
「そこの皆さん? 呑気に会話している間に、水の巨人が復活してますわよ?」
というリリアの声が聞こえてきた。
っとと、そういえばそうだったわね!
「まさか例のターン制の術式が!?」
「残念ながら例の術式の反応はないのです。つまり、今はウェイトなタイムではなくアクティブなタイムなのです」
アリシアのボケ……でいいのよね? に対してそんな突っ込みを入れるクーさん。
いや、ウェイトなタイムにアクティブなタイムって……
うんまあ、敢えてそこに突っ込み返しはしないけど……
「ま、話は後にして、とっとと離脱するとしようか」
彩香がそんな風に言って障壁の方へと視線を向ける。
「そうじゃな。早速、SWゾーンブレイカーを使うぞい」
頷きながら例の道具を取り出し、発動させる準備を始めるエステル。
と、その直後、ツキトが警告を発する。
「攻撃してきそうっすよ!」
「とりあえず、もう一度消し飛ばしとくか」
蒼夜が軽い口調でそう言つつ融合魔法をぶっ放し、再び水の巨人があっさりと消し飛ぶ。……何度見ても無茶苦茶ねぇ……
「ん? この障壁……霊力で斬れたりしない? うん」
ロゼが首を傾げながらそんな事を言って障壁へと近づいていき……円月輪をおもむろに放り投げた。そしてそれに霊力を纏わせ、更に巨大化させる。
そのまま円月輪は障壁に向かって飛翔し、接触。
次の瞬間、パキィィンという破砕音が響き渡り、障壁が粉々になって消滅した。……してしまった。
『………………』
円月輪を放り投げたロゼ自身も含め、あまりにも容易に砕けてしまった障壁に対して唖然としていると、しばらくして、
「な、な……。なんじゃとぉぉぉぉぉっ!?」
という、エステルの驚愕の声――いや、叫びが響き渡った。
う、うーん……。なんというか、こっちもこっちで無茶苦茶ねぇ……
実際には、ウェイトなタイムでもターン制にはならないんですけどね……(何)
とまあそれはそれとして、次の更新は平時通りで問題なく行けそうな為、10月21日(金)を予定しています!
※追記
句読点が妙な場所についていた箇所が複数あった為、修正しました。




