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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第1章 アルミナ編
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第42話 腕輪の力と言語と時間経過

 物は試しという事で、早速俺は精神を集中させ始める。

 そして、連射魔法杖を頭に思い浮かべ……引き寄せる!

 

 と、次の瞬間、連射魔法杖は俺の手元へと転移してきた。

「うおっ!? マジか!」

 まさか、こうもあっさり出来るとは……。一体どうなってるんだ?


「成功しましたねー」

 見計らったかのように――というか、見計らったのだろうが――テレポータルが再び開かれ、こちらに向かってそんな言葉を投げかけてくるディアーナ。

 

「なんだか上手く行きましたね……。さすがに無理だと思ったのですが……」

 テレポータルをくぐりながら、そこまで言った所で、ふと先程付けた腕輪に視線を落とす。

 

「……って、もしかして、これがこの腕輪の力……ですか?」

 あの杖は、腕輪によって開かれた極小のテレポータルを抜けてきたのではないだろうか? という事に思い至った俺がそう問いかけると、

「正解ですー! ソウヤさんのー、杖を引き寄せようという意思に反応してー、テレポータルが開くようにー、条件設定してあるんですよー。その腕輪にはー、そういう機能がありますのでー」

 と、ディアーナが拍手しながら、予想通りだとも言えるそんな説明してきた。

 

 さっき、俺が腕輪をつけた時に、なにやらあれこれとやっていたが、あれがその条件設定とやらだったのだろう。眺めてはいた時は何をしていたのかさっぱりだったが、今ならそれが良く分かる。

 それにしても条件を満たすと自動的に実行される、か。まるでゲームに出て来るパッシブスキルだな。

 そして、なんというか……今更だが、ディアーナの持っている道具は、どれもこれもチートじみているな、ホント。

 

 と、そんな事を考えていると、ディアーナが、

「とりあえずー、これで杖をガンガン使える様になったと思いますけど―、こんな感じでいいですかねー?」

 そう言いながら顎に手を当て、首を傾げる。

 

「はい。完璧だと思います。これで攻撃手段が増えました」

 そう、この杖を使えば魔法による遠隔攻撃も可能になる。つまり、複数の杖をサイコキネシスで並べるように浮かせて、ディアーナが光球でやっていたような、フルバースト的な事も出来る、というわけだ。

 

 更に言えば、アポートとアスポートを使って瞬間移動させると同時に攻撃する事も出来る様になる。

 要するに、ロボットアニメに出て来る、無線や特殊な力で小型のビーム発射装置なんかを動かして、多方向から攻撃を仕掛けるアレ――いわゆるオールレンジ攻撃と呼ばれるものを再現する事が出来るってわけだな。

 

 しかし、思った以上にあっさりと解決したな。さすがは世界の管理者兼守護者というべきか。

 折角、というのも変だが、そんな世界の管理者兼守護者であるディアーナに、ついでにエステルが解析を試みているあれについても聞いてみるか。ここであれが何なのか判明すれば、それをエステルに伝えればいいしな。……伝え方で苦労しそうだが。

 

「ところで話は変わるのですが、あの遺跡にミラージュキューブ・ステラとかいう代物があったのですが、なんだか分かりますか?」

 俺がそう切り出して、ミラージュキューブ・ステラについて説明すると、ディアーナは、しばし腕を組んで考えた後、

「……うーん……私のー、知識の中にはない名称の代物ですねー。調べておきましょうかー?」

 と、そう言ってきた。

 おや、もしかしたらエステルの解析を待たずに解決するかと思ったが、そうはいかなかったようだ。

 まあでも、あの遺跡にあった物だからなぁ……あれも。ディアーナが知らなくても別に不思議ではないか。

 

「あ、いえ、それに関しては別途調査依頼をしているので大丈夫です。もしかしたら知っているかと思って尋ねただけですので」

「なるほど、そうでしたかー。もし何か分かりましたらー、教えていただけると助かりますー」

「もちろんです。あ、それとですね、そのミラージュキューブ・ステラというのを回収する時なのですが――」

 と、そんなわけで俺は機構秘文とやらが普通に読めた事をディアーナに話す。

 

 ついでに、聞き取れる言葉や読める文字に、日本語以外の言語で聞き取れたり読めたりする事も話す。例えば、今話した『ミラージュキューブ』や、エステルも普通に理解していた『チート』なんかだな。もちろん魔獣の名前もそうだ。

 

「ああー、それはですねー、ソウヤさんがー、地球で使っていた言葉――日本語という言語がー、そういう感じだからだと思いますー。日本語に外来語――借用語という概念がありませんかー?」

「え? あー、たしかにありますね」

 ディアーナの問いかけにそう返しつつ頷く俺。『チート』がまさにそれだな。

 

「ですよねー。おそらくですがー、『共通語』と呼ばれる『ガルド語』がー、日本語にー、それ以外の言語で共通語扱いになっている物がー、日本語以外にー、それぞれ聞こえるんだと思いますー。あとはまあ……可能性は低いですがー、日本で使われている言語とー、意味も発音も完全に一致している単語の場合もー、そのまま聞こえるかとー」

 どうやら、この世界の共通語は『ガルド語』という名称らしい。

 っと、それはともかく――


「なるほど……。そういう事ですか。あ、でも冥界の悪霊の名称は、意味の良く分からない言葉で聞こえましたね。害獣や魔獣なんかの名称は、意味を認識出来る言葉で聞こえたのですが……」

 あいつらだけ、ヴォル=レスクだのデム=ウォードだのと意味わからん名称だったんだよなぁ。ああ、あとイルス神話とかいう神話に出て来るヴェヌ=ニクスもか。


「あの辺はー、名を付けた人次第なのでー、意味のある名を付けた場合はー、その意味を表す単語で聞こえるんだと思いますよー」

「えーっと……つまり、意味の良く分からない物、文字通り意味などない、と?」

「そうですねー。もしくはー、この世界の言語ではないか、ですねー。私が刷り込んだ言語はー、あくまでもー、この世界のものだけなのでー。機構秘文が読めるのはこの世界のものだからですしー」

 と、そんな風に言ってくるディアーナ。


 ふーむ、なるほどそういう事か。

 機構秘文はこの世界の言葉だけど、あれはこの世界の言葉ではない可能性があるのか。たしかに異界の存在なのだから、名称もまた異界の言葉だっていうのは、別に不自然な事ではないもんなぁ。

 

「なるほど。大体の疑問が解決しました。ありがとうございます」

「いえいえー、また気になる事がありましたらー、なんでも気軽に聞いてくださいー」 

 そう言って人さし指をピッと立てるディアーナ。


「はい、わかりました。気になる事があったらまた聞きます」

 そう言葉を返しつつ、テレポータルの方に視線を向ける俺。

 すると、先程まで曙色だった空が青色に染まっていた。どうやら完全に夜が明けたようだ。

 

「さて……いつの間にか朝になっているので、そろそろ町へ戻りますね。魔獣の事について話さないといけませんし」

「あー、たしかにそうですねー。ああでもー、1日じゃなくてですねー、既に3日ほど経過していますのでー、そこだけ気をつけてくださいー」

「え?」

 ……3日ほど経過している? 何故に?

 

「さきほどー、私の回復速度を上げる為に―、時の流れを加速させたのでー。ああー、3日過ぎてると言ってもー、時の流れと私自身の時間だけでー、ソウヤさんの肉体時間はそのままにしてあるのでー、あの遺跡に入ってからー、3時間ほどしか経過していませんー。ご心配なくー」

 俺が心の中で疑問符を浮かべていると、そんな風に言葉を続けてくるディアーナ。

 

 ……なんだその無茶苦茶な力は……。なんというか、弱体化してもなお、そんな事が出来るのかって感じだな。まったく眠くない理由に関しては理解したが……理解したからと言ってどうというわけでもなく、正直、唖然とするしかない。

 

 あー、まあ……とりあえず……なんだ? 町で話をする時は、3日経過しているという点に気をつけないと駄目だな。

次話で第1章は終わりですっ!

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