第181話[Dual Site] 黒鳶と蒼葉月、そして白き王剣の騎士団
<Side:Souya>
「ははっ。まさか聖上自ら勧誘してくるだなんて、さすがに想定外だったよ。アカツキに生まれた者としては光栄というものかな? ……でも、残念。私はまだ『竜の御旗』から抜けるわけにはいかないのさ」
理解が追いついたのか、シズクが笑いながら彩香の誘いに対してそう答える。
「ふむ……。なんとなく気になっていたのだが……キミが『竜の御旗』に残る理由は、十数年ほど前に『黒鳶』がイルシュバーン共和国の首都、ルクストリアで行った『工作』の件が関係していたりするのかい?」
「……『黒鳶』のやった事を、私が尻拭いするため……と、巫皇彩香様はそう考えているのかな?」
唐突な彩香の問いかけに、少しだけ驚きの表情を見せた後、そんな風に逆に問いかけるシズク。……今のあのシズクの反応、確実に関係してそうな感じだな……
「うんまあ、そんな所さ」
「……それは何故かな? 私は『黒鳶』に属する者などではないよ?」
「あの一件には『青虎』の……いや、『蒼葉月』の者が関わっているという調査報告があってね。もしかしたら……と思ったのさ」
シズクの問いにそう答えて肩をすくめてみせる彩香。
それに対してシズクは腕を組みながら、
「なるほどね、たしかにそれなら合点がいくというものだよ。でも残念、さっき言ったけど、私はあの家が消えてくれて清々すると思うくらい大嫌いだからね。『あの家の為に動くつもりなんて』これっぽっちもないよ。――『それは絶対に揺るがない』さ」
と、そんな感じで2ヶ所ほど強調して返事をした。
……『あの家の為に』ねぇ……
「……そうだね。たしかにキミが『蒼葉月の為に何かするとは思えない』ね。うん……この話はこれまでにしておこうか」
シズクの返事から、これ以上話を続けても真実を語るつもりはないだろうと判断した彩香がそう言って話を切り上げる。
「というか、さっきから気になっていたんだが……『黒鳶』がルクストリアで行った『工作』って奴は、もしかして……『白き王剣の騎士団』がやった、大掛かりな魔法で建物を破壊した件と関係があるのか?」
以前、アーヴィングたちから聞いた話を思い出した俺がそんな風に問いかけると、彩香は少し思案した後、
「……そうだね。『主』ともいうべき者に隠しておくのは義に反するし、話しておくけど、ロゼやアーヴィングには言わないでくれるかい? まだちょっと不確定な部分があって、追求されると困る感じでね」
と、そんな風に言ってきた。
「巫皇様が主と言うとか、ソウヤは色々ととんでもなさすぎやしないかい?」
やれやれと言わんばかりの表情で首を横に振ってみせるシズクに、
「別に主従関係にあると思った事はないんだがなぁ……」
と答えつつ、彩香の方へと顔を向け、
「……と、それはそれとして、ロゼやアーヴィングに言わないでおくという件については了解だ」
と告げる俺。
「うん、よろしく頼むよ。それで……蒼夜が言った件に関係があるかどうか、だけど……大いに関係があるよ。なにしろその『大掛かりな魔法』というのは、『黒鳶』によって、『白き王剣の騎士団』に齎されたものだからね」
「ああ、やっぱりそうなのか……」
「大掛かりな魔法って話になっているけど、当時の一般的な魔煌具でそんな規模の魔法を発動させるのは不可能でね。霊具の類が補助として使われていたんだよ」
「なるほど……。って、待てよ? そんな物が使われていたなんて、ロゼやアーヴィングから聞いた事ないぞ……?」
彩香の説明に対し、ふとそんな疑問が湧き、そう問いかける俺。
「それは簡単な話だよ。イルシュバーン側が調査するよりも先に、『黒鳶』が回収しているのさ」
「そういう事か。しかし、なんだって『黒鳶』はそんな事を? イルシュバーンとアカツキの間で、当時何かあったのか?」
俺が納得しつつも、新たに湧いてきた疑問について問うと、
「そこが良くわからないんだよねぇ……。彩音姉さんがイルシュバーンに移住したのはもっと後だし、どういう狙いでイルシュバーンのテロリストなんかに協力するような事をしたのやら……って感じだよ。まあ、もっと詳しく調べれば何か分かるとは思うけど、ね」
なんて事を言って、チラリとシズクの方を見る彩香。
その視線に気づいたシズクは、無言で肩をすくめてみせるのだった。
◆
<Side:Akari>
「中もとんでもないわね……」
私がまさに豪邸といった感じの内装を見ながらそんな風に呟くと、
「別邸っていうけどぉ、本邸と変わらないくらい豪華だねぇ……」
などと返してくるアリシア。……本邸もこんな感じなのね……
「――話は聞いていたが、これまた随分な人数が来たな。まあ、探索範囲が広いから人数が多くて困る事はないけどな」
正面の階段からそんな声と共に下りてくる蒼夜。
隣にはシズクと……シズクやツキトと同じアカツキ皇国の人間と思しき女性の姿があった。雰囲気はなんだかシズクに似ているわねぇ……でも、誰なのかしら?
と、そう思っていると、
「あ、彩香様!? 巫皇であらせられる貴方様が、どうしてこんな所にいるんすか!?」
なんていう驚きの声をツキトが上げた。
アヤカ? カンナギノ……オウ? 響きからするとアカツキ皇国のジョオウサマって事かしらね?
さっきもそうだったけど、相変わらずとんでもない人物が『黄金守りの不死竜』にはいるわねぇ……ホント。
今回は、第1部第4章の序盤の展開から繋がる話となりました。
まだ、第2部第1章な事もあり、大した進展はないのですが……
……というか全体的に伏線の進行が遅くなってしまっているんですよね……
ここら辺はなんとかしたい所ではあります。
といった所でまた次回! ……なのですが、再び申し訳ありません。
次の更新は平時より1日間が空きまして、9月14日(水)を予定しています。
その次がどうなるかは、まだ不明な感じです……




