第178話[Dual Site] 灯と蒼夜、それぞれの組織
やや長めです。
<Side:Akari>
『――というわけで、ガルディエナの深層域に眠る『何か』を探っている最中に、割とあっさり奴らが拠点としている場所のひとつが判明した感じです』
『更にもう一ヶ所の拠点も、かなり有力な情報を得られたので、明日すぐに調べてみるつもりです』
広捜隊事務所にある備え付けの大型通信機のモニタ――どっからどうみても、昔のブラウン管モニタにそっくりな代物――を通して、ロディとジャンさんが順番にそんな報告をしてきた。
なんというか……思った以上に早いというか、急展開って感じねぇ……
「なるほどな、そんな状況になっているのか。しっかし……実に想定外の早さで状況が変化してんな……。なんつーか、黄金守りの不死竜と共に行動している時点でもイレギュラーなわけだが、そこに例のシズクとの接触が加わり、更にエリス――クランバート家の存在が組み合わさった結果、途轍もない勢いで状況が加速した……。と、そんな感じがするぜ」
なんて事を言ってやれやれと首を横に振ってみせるゼル。
そんなゼルに対し、ユーコが頬を指で掻きながら言う。
「た、たしかにそうですね……。……それにしても、ガルディエナの隠された深層域にあるもの……とやらが、どういうものなのか気になりますね」
「そうだな。うーむ……本来は交互にオルティリアへと人員を回す想定だったが、ここまで進展しているのなら、もう全員でオルティリアに乗り込んだ方が良いかもしれないな……」
『そうですね……。『黄金守りの不死竜』からは、ウォーターレビバイクとやらを改良し、飛行能力がなくてもガルディエナの深層域に下りる事の出来るようにするという話を聞いていますし、こちらもそのガルディエナの深層域に向かう者と『竜の御旗』の拠点の一斉検挙――制圧に動く者、その双方が必要な状況です。明らかに人手不足な状態と言わざるを得ない現状を考えると、そうするのが良いのではないかと自分も思います』
ゼルの言葉に、ロディがそう返す。
『たしかに数が必要な状況ではありますけれど、そちらがもぬけの殻になったら、色々まずいのではありませんの?』
「それなんだが……正直言って、アーティファクトメイカーズが曲者過ぎるというか……守りが硬すぎて、現状手詰まりな感じでな。しかも、上から明らかに『近づくな』って感じの警告めいたお達しが出ている状態なんだわ。なもんで、もう『黄金守りの不死竜』に突いて貰って、出方を伺うしかなさそうな感じだったりするんだよ」
エリスの問いかけに、ため息をつきながらそう言って肩をすくめるゼル。
……そういえば夕方、本部の方へ呼ばれていたわね……ゼル。
あの時に、そういう話があったってわけね。
『ふむ……そのような状況ですか。警備局の上層部を動かしてまで牽制してきた事を考えると、大分警戒されていますね……。であれば逆にオルティリアに全員集合する事で、アーティファクトメイカーズに対する調査から広捜隊が手を引いたかのように見せ、あちらの警戒を解いておくのもありではないかと思います』
というジャンさんの提案に対し、ゼルは顎に手を当てて考えながらといった感じで、
「ま、その程度で警戒を解いてくれるかはわからねぇが……とりあえず出来る事が他にねぇし、そんな感じでやってみっか。――早速だが、明日の午前中に残っている全員でそっちへ向かうとすんぜ」
と言うと、そこで一度言葉を切った。
そして、クーさんの方を見てから改めて問いの言葉を紡ぐ。
「……と、急な話で申し訳ないんだが、クーさんは明日からオルティリアに行けそうな感じか? もし難しいようなら後から追いかけてくる感じでも全然構わないんだが……」
「あ、いえ、ご心配無用なのです。いつでもオルティリアへ行けるように、既に関係各所には連絡してあるのです」
クーさんがそう返すと、
「お、そうか。よし、そんじゃあ全員で明日からオルティリアへと乗り込むとすっぞ。アーティファクトメイカーズの動向が気になるが……如何ともし難い状況だし、まずはオルティリアの件を片付けちまうとしよう。もしかしたら、その流れでアーティファクトメイカーズに対して、何か仕掛けられる『ネタ』がでてくるかもしれねぇし……な」
と、そんな風に告げてくるゼル。
まあ、何か『ネタ』があれば最高なのだけれど……。なんとなく、あまり期待しない方が良さそうな気が私はしているわ……
◆
<Side:Souya>
「そんなわけで、ウォーターレビバイクを使うつもりなんだが、なにかあった時の事を考えて、飛行能力のあるロゼかリリアのどちらかにこっちに来て欲しいんだが……」
俺が通信機越しにロゼとリリアにそう告げると、
『ん、了解。それなら私が行く。うん』
『お待ちになって。私が明日の一番早い特急でオルティリアへ向かいますわ』
と、ロゼとリリアの双方がそんな風に言ってきた。
ロゼはともかく、リリアがあっさり承諾してくるとは……と思っていると、
『個人的にも、そのガルディエナの深層域に隠されているという物に興味がありますの。学者の血が騒ぐというものですわ』
なんて事を言ってきた。
……ああうん、そういう事か。実に納得だ。
「ロゼは、鉄道運行保安隊への説明は大丈夫なのかの?」
『ん、問題ない』
エステルの問いかけに対し、そんな風に短く答えるロゼ。
まあ、問題ないと言っているのだから問題ないのだろうが……さて、どうしたものか。
『飛行能力ではないけれど、私もウォーターレビバイクと同様に、滝だろうがなんだろうが、水さえあればそれを足場にして走る事が出来るから、そのガルディエナの深層に行く事が出来るね』
唐突にそんな事を言ってきた彩香に対し、俺は『篝』として最初に出会った時の事を思い出しながら、
「ああ、そういえば最初に出会った時に水上を駆け回っていたな……」
と、返す。
『うん、なんとも懐かしい話だね』
「ま、実の所、その話を聞いたが故に、妾はあのウォーターレビバイクを実現する算段がついたんじゃがの」
頷く篝に続く形で、そんな事を言って肩をすくめてみせるエステル。
……って、そうだったのか。
『――ま、そんなわけで私もそちらに行くとしようかな。アカツキに関しては、最早大詰めといった状況だから、私がここにずっと居る必要はないしね』
『いやいや、むしろ大詰めな状況なのに、大将のアンタが居なくなったら駄目なんじゃねぇのか?』
オルティリアに来る気満々の彩香に対し、そんなもっともな突っ込みを入れるグレン。
それに対して彩香は、人差し指を頬に当てながら、
『なに、殻に閉じこもっている連中を外に出すのには、敢えて私が姿をくらませた方が良いというものさ。それに……シズクという人物にもちょっと興味があるしね』
などという言葉を返してきた。
「……ま、もう3人全員来る形でいいか。アーヴィングさんたちには『竜の御旗』の拠点制圧を手伝って貰うようにすればいいし」
顎に手を当て、少し思考を巡らせてからそんな風に俺が言うと、
『……そう言われると私も行きたくなるけど……まあ、私はこのままアカツキに残っておく事にするわ。シズクと遭遇するのが面倒っていうのもあるけど、殻に閉じこもっている奴らが動いた時に、彩香の代わりに掃討しておく要員も必要だし』
と、そう言ってくるシャル。
相変わらずシャルは、シズクと接触するのを避けてるなぁ……
まあ……最初の接触がシャルにとっては最悪すぎたし、わからんでもないが。
というわけで(?)第2部主人公がようやくオルティリアに合流します。
もうちょっと早く来る予定だったのですが、思った以上に前段階が長くなりました……
といった所でまた次回! 次の更新は平時通りの間隔で、9月2日(金)を予定しています!




