第168話[Dual Site] シズクと広捜隊と黄金守りの不死竜
<Side:Roderick>
「――とまあ、そういうわけだ」
「……なるほどね。君の家はこの街の名家――有力者であるクランバート家であり、君はその令嬢である……と。うん、たしかに『ツテ』だね」
俺の説明を聞き終えたシズクが、そう言いながらエリスの方を見る。
「ええ、そういう事ですわ。ですので、協力して差し上げる事も出来ますわよ」
エリスが再び芝居がかった口調……というか、若干上から目線な感じでそんな風に告げると、シズクが腕を組みながら問いの言葉を口にする。
「ふむ……。協力してくれるなら助かるけど、代わりに私に何を求めるのかな?」
「あまり無茶な事を言うつもりはありませんわよ。私が求める物は至って単純――目には目を、歯には歯を、恩には恩を……つまり、こちらが貴方に協力する代わりに、そちらも私たちに協力して欲しい……という事ですわ」
そう告げて両手を左右に開くエリス。
……目には目を歯には歯をのくだり、必要だったんだろうか……?
なんていうどうでもいい事を思っていると、シズクが、
「それはまた、実に得心がいく至極真っ当な対価だね。ただ……私にも色々あって、協力出来るものと出来ないものがあるんだよね。だから、『私の協力出来る範囲で』での協力でよければ……という条件がついてしまうかな」
と、握った拳を頬に当てながらそんな風に返してきた。
エリスが、どうすればいいのかと言わんばかりの表情で俺たちの方を見てくる。
なので、俺とジャンさんはそれに対して頷いてみせた。
無論、その条件で構わないという意味である。
「ま、そこは仕方ありませんわね。協力出来る範囲で協力してくだされば、それで構いませんわ」
俺たちの頷きを見たエリスが、シズクに向かってそう答える。
「……ふむ。ならばここは、手を取るのが最善というものかな……?」
シズクはそんな風に呟き、俺たちを見回す。
そして一呼吸置いてから、
「――了解だよ。互いに協力しようじゃないか」
と告げてきた。
……なんとも想定外というか、奇妙な形になったものだな。
ともあれ、シズクは竜の御旗側の人間――正確には『銀の王』の思惑とは別の思惑で動いている人間――だ。
か細くて短いものの、一応『繋がり』を築けた事は、十分すぎる結果であり、僥倖といえるだろう。
これはもう、エリスのお陰と言わざるを得ないな。
◆
<Side:Souya>
「――てな事がありましてねぇ。広捜隊はシズクの協力を取り付ける為に、シズクに協力する事にした感じですねぇ」
「まさか、『クランバート家』がそんな所でも力を発揮するとはなぁ……。というか、そもそもの話として、よもやこのタイミングでシズクが接触してくるなどとは、予想もしていなかったな……」
エステルの店――金剛魂の支店の会議室でティアの報告を聞き、そんな風に返す俺。
『まったくね……。とりあえず行かなくて正解だったわ……。――それで? シズクは有力者の協力を得て、何をしようっていうの?』
会議室に設置された大型通信機のホログラムモニタに映るシャルが、そんな風にため息混じりに言ってくる。
「それはわからねぇですねぇ。なにやら、オルティリアの都市管理局によって管理されている『オルティリアの古地図』とメルレンテ地区の『詳細な地図』、そして、オルティリアの北のリグノルド海岸の『詳細な地図』の提供を要求していましたけどねぇ」
『地図の要求……? 街の有力者の協力を得てまでして?』
ティアの説明に、シャルは首を傾げながら更に問う。
「――『詳細な地図』というのは、おそらく『都市管理の為のあらゆる情報が記載された地図』の事じゃろうな」
『あらゆる情報……です? それはつまり、それを使って『何か』を探し出そうとしている……という事です?』
「うむ、そんな所ではないかのぅ」
エステルはクーの問いかけに頷いてそう答えると、顎に手を当て思考を巡らせながらといった感じで、
「じゃが……逆にそんな地図、いくら有力者の協力を得ても手に入れられるようなものではない気がするんじゃがのぅ……? 『分かる者』が見れば、この街の『弱点的なもの』や『普通ならば得られないもの』の情報を得られるわけじゃし」
という続きの言葉を紡ぐ。
『まあ、『竜の御旗』ならば、管理している場所に忍び込んでこっそり拝借するとか写し取るとか、あるいはもう力づくで奪うとか、普通に考えたらそういう手段を取りそうよね……』
『それをするとマズい理由があるんだろーな。……案外、シズクの奴はヴァロッカの時と同じで、こっそり『竜の御旗』の作戦を潰そうとしてたりしてな』
シャルの発言を聞いたレンジが、そんな事を言って肩をすくめてみせる。
「それなんですけどねぇ。エリスの父親であるパウル氏なんですがねぇ、『都市管理局』の局長でもあるんですよねぇ、これが。――なので、それらの地図に関して、管理局の書庫内でのみの閲覧で、なおかつ書き写しや撮影などは禁止、という条件で良ければ……と、許可されましてねぇ。明日、情報屋と通信しながら何かを調べるつもりのようでやがりますねぇ」
『書き写しや撮影はアウトなのに、通信はオッケーなのです?』
「警備隊――今回の場合は、広捜隊ですねぇ――の人間の監視付きであれば、構わないという話になっていましたねぇ」
もっともな疑問を口にしたクーに、そう答えるティア。
ふーむ、なるほどな……。だが、それはつまり――
「……その監視に立ち会えば、シズクが何をしようとしているのかが、全て分かるってわけだな」
と、俺。
「それはまあ、そういう事になりますねぇ」
「――なら、明日は俺も管理局の書庫へ行くと、広捜隊に伝えておくか」
ティアの肯定の言葉を聞いた俺は、広捜隊に連絡すべく、早速携帯通信機を取り出した。
さて、一体何をしようとしているのか……というのは、まあ次回すぐに判明すると思います。
ただ……その次回の更新なのですが、もうしわけありません……諸都合により平時より1日多く間が空いてしまいまして、7月29日(金)を予定しています。




