第162話[裏] オルティリアへ来た者たち
やや長めです。
<Side:Souya>
俺を名を呼ぶ声のした方を見ると、アーヴィング、エメラダ、そしてアーデルハイドの姿があった。
「――アーヴィングさんとエメラダさんはアカツキに、アーデルハイドさんはヴァロッカに、それぞれいたはずでは……?」
「いや、昨日エステル殿に呼ばれたのだよ」
「戦況も一段落した所だったゆえ、こうしてやってきたのだ。最近ロールアウトしたばかりの『迅雨』を使えば、移動にさほど時間はかからぬしな」
「まあ、エメラダは飛行艇の操縦が上手いからね。今回は操縦士として同行して貰った感じだよ」
俺の疑問に対し、そう答えてくるアーヴィングとエメラダ。
なるほど、『迅雨』を持ち出してきたのか……
『迅雨』は、垂直離着陸が可能な高速飛行艇の中では最速だし、あれを使ったのならまあ……ここにいるのも頷けなくはない……か?
なんて事を思っていると、
「エメラダから空港の代わりになる場所――そこそこ広くて、飛行艇を隠しておけそうな場所――はないかと連絡を受けましてな。それであれば、我が屋敷の敷地内を使っていただければ……と、そうお話したのです」
エリスの父親――パウルという名前らしい――が、そんな風に言ってくる。
「……たしかにこの屋敷の敷地内ならば、色々と好都合ですね……。とはいえ……ご迷惑をお掛けして申し訳ない」
そう俺が言うと、パウルさんが手を左右に振って、
「いえいえ、アーヴィングやエメラダとは旧知の仲。頼まれればそのくらいはお安い御用というものです」
と、そう返してきた。
ああ、旧知の仲なのか。
実際、ふたりの事を呼び捨てにしてるし、納得だ。
「ま、ウチの庭には、まっ平らな芝生が広がっているだけの場所がありますものね」
「エリスが斧を振り回し、魔法を撃ちまくっても大丈夫な場所を用意する必要があったのでね……」
エリスの発言に対し、パウルさんが腰に手を当てながら、ため息交じりにそう言って首を横に振ってみせる。
それを聞いたエリス以外の広捜隊の面々はというと……全員が「あ、納得」みたいな表情をしていた。……パウルさん、エリスには手を焼いたんだろうなぁ……
「斧を振り回して魔法を撃ちまくる……か。まるで小さい頃の私とアーヴィングみたいだな」
エメラダがそう言ってアーヴィングの方を見ると、アーヴィングが腕を組みながら渋い顔で言葉を紡ぐ。
「……それに関しては肯定するしかない……」
「正直、ふたりの幼少期の話を聞いておいてよかったと思ったよ。……まあもっとも、国家元首にまでなったふたりが、まさかアカツキで暴れまわったり、高速飛行艇を乗り回したりしているとは思わなかったけど」
「まあ……国家元首として政治的にあーだこーだするよりも、やはり力任せにどうにかする方が性に合っているというのは再認識出来たよ。だからと言ってなんでもかんでも力任せに解決するつもりは毛頭ないけれど」
肩をすくめるパウルさんに対し、そんな風にアーヴィングが答えると、それにエメラダが頷いてみせる。
「うむ。さすがにそれなりに責任というものが付きまとう以上、若い頃のように強引に……とはいかないからな。強引にいってもいいのは飛行艇の操縦くらいだよ」
……ま、こんな感じのふたりだからこそ、『国家間の秘密裏の同盟』という名目で、アカツキ皇国に直接行って貰ったってのもあったりするんだけど。
と、そんな事を考えていると、エメラダの発言を聞いたアーデルハイドが、
「飛行艇も時と場合によるがのぅ……」
なんて事を言って盛大にため息をついた。……はて? 何かあったんだろうか?
「――『迅雨』を使ったとはいえ、頼んだ物を回収する為に、一度イルシュバーンを経由しておるはずじゃが、随分と早い到着じゃのぅ?」
「アリーセの石化を解く件で用があると言われたら、すぐにでも飛んでくるに決まっているさ。浮遊岩塊群を抜ければ、エレンディアとイルシュヴァーンは近いから、往復してもそこまで時間はかからないし」
「妾は、ヴァロッカでの調査が一段落して、ゆっくり温泉に浸かっておった所に押しかけてきて、浮遊岩塊群を超高速ですり抜けるとかいう、リアルハイスピードアトラクションに強引に連れて行かれた感じじゃがのぅ……」
エステルの問いに対し、そう返すアーヴィングとアーデルハイド。
世界の東西の端っこにある浮遊岩塊群を抜けて往復したのか……
突破ルートに関しては、既に『黄金守りの不死竜』内で調査して確立してあったが、まだ『実際に抜けられるか』は、試していなかったんだよな。
まあ……ある意味、今回の一件で完全確立したわけだが。
……それと、とりあえずアーデルハイドのさっきのため息の理由は理解した。
たしかに、ため息のひとつもつきたくなるというものだ。
とまあ、そんな事を考えていると、アーデルハイドの言葉に疑問を抱いたらしいロディが、
「リアルハイスピードアトラクション? イルシュバーンにはテーマパークでもあるのか?」
と、小声で俺にそう問いかけてきた。
それに対して俺は腕を組み、少しばかり思考を巡らせつつ説明する。
「うーん……。テーマパークといえばテーマパークなんだろうか? 最近出来たばっかりの大規模な娯楽施設でな。筐体自体が動くアーケードゲームってあるだろ? あれを大量に集めた感じのエリアがあるんだわ。無論、そういうのばっかりじゃなくて、他のエリアには普通のボードゲームのようなものや、ホラーメイズ――お化け屋敷と迷路を合体させたようなものまで、色々あるぞ」
……しかし、ホラーメイズはアリーセを連れて行ったら、ターンアンデッドボトルを撒き散らしそうだよなぁ……あれ。
「それはなかなか面白そうな場所だな……。イルシュヴァーンに行く機会があったら行ってみたいものだ」
ロディが興味津々といった感じの表情でそんな風に言う。
うーむ……。浮遊岩塊群を突破するルートが確立された事だし、近い内に広捜隊の面々を、マーシャが言っていた方法――イルシュバーンにある《竜の座》と繋がっている遺跡を経由する形――で、連れて行くのもありだよなぁ……
エレンディアにもあるにはあるが、場所的に面倒だし。
ゲートでサッと行ければ楽なんだが……古代の転移装置――ディアーナの使うテレポータルと同名の物――を復元して利用しているからなのか、《竜の座》に転移装置を設置しても、エラーしてしまって繋がらないんだよなぁ……
……やっぱり、ディアーナの所を経由するのが一番か……?
そんな感じで思考を巡らせていると、
「ところで……石化を解くとか言っていやがりましたよね?」
なんて事をティアがエステルに小声で問いかけた。
おっと、そういえばそれがあった。
「たしかに言ってたな。――エステル、アリーセの石化を解く方法が分かったとか言ってたが、灯から得た情報で何か分かったのか?」
俺もまた小声でエステルにそう問いかけると、
「一応……じゃがの。もっとも……正直言って、現時点ではあくまでも仮説、推測に過ぎぬゆえ、本当に上手くいくのかどうかは不明じゃ。というより……それを実証する為に、アーヴィング氏と師匠に来て貰ったのじゃよ」
なんて事を言ってきた。
「どういう事でやがりますか?」
「説明しても良いのじゃが……それについて言葉だけで説明しても、ちと理解しづらいのでの。後ほど支店に移動して、データなんかを交えながら話す形にさせて貰えぬかの?」
首を傾げるティアにそんな風に答えるエステル。ふむ……なるほどな。
「ああ。別に急いでいるわけじゃないから、それで構わないぞ」
「そうですねぇ」
俺とティアがエステルに対してそう答えた所で、ロディが再び小声で問いかけてくる。
「……なあ、さっきから気になっていたんだが……エステルって、もしかして『黄金守りの不死竜と繋がりがある人間』じゃなくて、『黄金守りの不死竜の幹部』なのか?」
ま、小声とはいえ、こんな話をしていたらさすがに分かるか。
いい感じに区切れる所がなかった為、思ったよりも長めになりました……
といった所でまた次回!
次回は平時の更新間隔に戻りまして、7月10日(日)の更新を予定しています!




