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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第1章 アルミナ編
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第39話 ケモノ <後編>

「……一向に数が減らないな……」

 俺はややため息混じりにそう呟きながら、投げナイフ2本をぶつけて猿もどきの魔獣を撃墜する。

 

 既に様々な見た目の魔獣どもを数十匹は撃墜した気がするが、一向に打ち止めにならない。まるでSRPGの増援無限湧き状態だ。

 幸い、投げナイフ2~3本で倒せる程度の雑魚なので、迎撃自体は楽なのだが、剣や投げナイフを同時に複数方向へ飛ばさなければならず、少々骨が折れる。

 

 そんな事を考えつつ化け物の方に視線を向けてみると、着実に銀色の鎖が広がっていた。もうあと少しだな……と、そう思った瞬間、

「…………てりゃああぁぁぁぁぁぁぁーっ!」

 という、気迫のこもった掛け声と共に、ディアーナの手のひらから伸びる銀色の螺旋が、その太さを増し、銀色の鎖の広がりが加速する。どうやら一気に片をつけにかかったようだ。

 化け物がそれに対抗するべく、新たな魔獣を生み出そうとするも、伸びてきた銀色の鎖がその魔獣を生み出す触手を断ち切り、そして封じていく。

 

「――ノチ――ガオ――ケ――ト!?」

 

 頭の中に響く声に焦りのようなものが感じられた。

 銀色の鎖から逃れた触手から新たな魔獣が数体飛び出してくるが、大した数ではないので、俺が素早く撃破する。

 そうして魔獣を一掃した頃には、銀色の鎖が化け物の全身と金色の鎖、その双方を覆い尽くしており、増援の魔獣が出て来る気配もない。

 

 それでもなお、抵抗の素振りを見せていた化け物だったが、しばらくすると完全に沈黙。頭の中にあれほど響いていた声もまた、まったく聞こえなくなった。

 

「再封印に成功した……のか? 凄いな……」

 随分とまあ、あっさりと封印の強化が終わったな、などと思いつつディアーナの方に再び顔を向ける。

 

「……はぐっ……ぐあっ……はふ……はあ……っ」

 片膝を床に付け、苦しそうな表情をしながら、大きく肩で息をするディアーナの姿がそこにはあった。って、違う! そんな冷静に観察している場合じゃないっ!

 

「ど……どうにか……封印……強化に……成功……しまし……たぁ……」

 そう消え入りそうな声で呟くよう――

 じゃなくて! 本当にディアーナの姿自体が消えそうなんだが!?

 

「ディ、ディアーナ様!? 体が消えかけてませんか!?」

 俺は、焦りながらもどうにかそう問いかける。というか、あまりの事にそれしか言葉に出来なかったというべきか。

 

「す……すこーし……ばかり……力を……使いすぎ……ましたぁ……。まさか……これほどぉ……力を……消耗するよーな……術式……だとはぁ……思い……ません……でした……よぉ……」

「す、すこーしでは済まない気がするんですけど……大丈夫なんですか?」

 どう見ても大丈夫そうではないのだが、それ以外にかける言葉が思い浮かばない。

 

「このまま……だと……とても……まずい……ですねぇ……。です……けどぉ……私の……領域にぃ……戻ればぁ……」

 そう言いながら、テレポータルを開くディアーナ。

 

 最後の力を振り絞るようにして開いたからか、入口が少し高い。

 とはいえ、よじ登れば問題はない程度だ。

 

 開かれたテレポータルへ向け、ディアーナが浮かんで入ろうとする。

 がしかし、浮かび上がる事が出来ず、床に倒れ伏……す前に、俺は慌ててディアーナを受け止め――

「んなっ!?」

 受け止めたつもりだったが、失敗した。

 

 なぜなら、俺の腕がディアーナの体をすり抜けてしまったからだ。

 そして、そのまま床へと倒れ込むディアーナ。

 

 なんとかしてディアーナを抱き起こそうとするも、どうやってもディアーナの体をすり抜けてしまう。それは、まるで幽霊を相手にしているかのようだ。

 そうこうしている間にも、ディアーナの体は、どんどんと薄れていく。

 

 ディアーナは、『私の領域に戻れば』と言っていた。ならば、テレポータルの向こう側へディアーナを戻せればどうにかなるかもしれない。

 だが……ディアーナに触れる事が出来ない。どうすればいいんだ……!? この状況下で触れる事が出来ないとかシャレになってないぞ!?

 

 ……と、俺が軽くパニックに陥りそうになったその瞬間、急速に頭の中が冷え始め、そして思い出す。

 

 昨日、脚立から落ちたエステルを助けた時の事を。

 更に、ヴォル=レスクの火球を押し返した時の事を。

 そして朝、列車に乗り遅れそうになったエステルを列車の中へと飛ばした時の事を。

 

 ――エステルの時は、アポートで引っ張った。

 よじ登って向こう側へ行きアポートで引っ張る?

 もしくは、朝のようにアスポートで飛ばす……?

 

 いや、どちらも駄目だ。アポートもアスポートも、実行前か実行後、どちらかで対象を『掴む』という事が出来なければ無理なのだから。

 

 ――ヴォル=レスクの時は? ……あの時はサイコキネシスで押し出した。

 ならば、ディアーナも押し出せば……

 

 いや、押し出しでは、テレポータルは中空にあるのだから、ディアーナを入れるのは無理だ。しかも、上手くテレポータルを通過させなければならないから、押し出す方向を精密に調整する必要がある。

 ……まてよ? サイコキネシスで単純に浮かしてから飛ばせばいいのか? 

 よし、やってみるだけやってみるとしよう。


 行動を決めた俺は、速やかにサイコキネシスをディアーナに実行する。

 問題なくディアーナの体が浮かび上がった。

 その体は、もういつ完全に消えてもおかしくないくらいの希薄さだったが、だからといって急ぐのは危険だ。このまま慎重に飛ばす方向を調整し……ん?

 

 そこでふと思う。今のこの状態って、要するに『掴んでいる』状態なんじゃないか……? と。

 そう、ヴォル=レスクの火球は、サイコキネシスで『掴んで』押し返したのだから、今のこの状態も同じであると考えられる。つまり……

 

 ――俺は、とるべき行動を即座に変えた。確実かつ速い方法へと。

 

 浮かせた状態を維持しつつ、ディアーナがテレポータルの向こう側にいるイメージを頭の中に思い浮かべる。そうしたらあとは、今朝、エステルを列車の中へと飛ばしたのと同じ事をするだけだ。

 だから、それを行うのは特に難しい事ではない。

 

「行けっ!」

 そう言い放った直後、目の前のディアーナの姿が消え、そして、テレポータルの向こう側――ディアーナがいつもいる空間――にその姿が現れた。

 

「よし、上手くいった!」

 サイコキネシスで掴んだディアーナを、アスポートでテレポータルの向こう側へと転送する、という方法が成功した俺は、軽くガッツポーズをする。

 

 そんな俺の目に、消える寸前みたいな状態だったディアーナの体へ、蛍火のような淡く儚い光球が集い始めるのが映った。

 

「なんだ……? これ。どこからともなく次々に湧いてきているみたいだが……」

 という呟きをしている間にも、光球はどんどんと集まり、遂にはディアーナの体を覆い尽くす程にまでなった。

 と、淡く儚かった光が、突如として強く、強く輝き始める。

 

「うおっ!?」

 そのあまりの輝きの強さに、眩しさに、俺は反射的に両腕で目を覆うのだった――

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