第153話[表] 天穿つ岩の黄昏時
<Side:Akari>
入口に戻った所で案の定というべきか、警備役の自警団員ふたりに随分長い間いたものだと言われたが、とりあえず適当な事を言って誤魔化しておいた。
さすがにアレを説明するのは、ちょっと……ねぇ……
ちなみに、昇降機は同じ手法を使える人間がそうそう居るわけないという事で、そのままにしてあったりする。
まあ……動かなければただの地面と変わらないし、別に問題ないわよね。うん。
とまあそんなこんなで、水晶の滝から離れ、他の観光名所とやらを回っていく私たち。
そして……幾つかの観光名所を巡り、太陽が沈むまでもう少しという所で、『天穿ちの奇岩群』なる場所へとやってきた私は、目の前に広がる光景を見ながら、
「――エン……タシス……だっけ? ギリシャの神殿にあるあの柱みたいな感じの岩ね」
と、そんな感想が自然と出てきた。
「たしかに、中央部あたりが少し膨らんでいて、そんな感じがしますね」
「でも、どうしてこんな形状の岩が乱立しているのかしら……?」
同意するユーコに対し、新たに湧いてきた疑問を口にする私。
「ん、誰かが魔法で削ったとか? うん」
「さすがに無理があるだろ……。ふむ……ディアーナのオーブが反応しているという事は、霊的な力に満ちているのか……」
「夜に来たら、アンデッドが現れそうだね」
ロ……面倒ね、蒼夜一家でいいわ。――蒼夜一家がそんな事を言う。
もうすぐ日が沈むし、本当にアンデッドが出るというのなら、さっさと引き返したい所ね。
ここには自警団員は配置されていないみたいだし……
と、そんな事を考えた所で、唐突に私の視界がドクンと脈打つようにブレた。
う……あっ!?
……
…………
………………
「よくわからんが、灯とユーコに反応して動き出したようだな……」
そう言って蒼夜が向ける視線の先で、岩に刻まれた文字が黒ずんだ赤色に光っていた。
「まさか、アンデッドよりも厄介なのが出てくるとは思いもしなかったわ」
これは私の声。ただし、私は発していない。
私がPACブラスターを構えてそう言っている所を、斜め上から眺めている感じね。うーん、何とも不思議な気分だわ……
「ユーコに呼ばれたと思ったのかな? これって、何かをトリガーにして、自動的に召喚するゲート……っぽいし」
「召喚しようだなんて、思ってもいなかったんですけどね……」
マーシャとユーコがそう言った所で、周囲の地面に黒いシミのような物が広がり、そこから車輪のついたドクロみたいな化け物や、翼を持った筋肉質の吸血鬼みたいな化け物が次々に湧き出してくる。
それに対してロゼが言う。
「ん、まあとりあえず、湧いてきた冥界の悪霊を片付けよう。うん」
と。
……なるほど、これが冥界の悪霊と呼ばれる魔物ってわけね……
なんとも『いかにも』な感じだわ。
そんな感想を抱いた直後、視界が再びブレ……うぅっ!?
……
…………
………………
「……はっ!?」
……我に返る私。
目がまわりそうになるというか、軽く気持ち悪くなるからブレるの止めて欲しいわ……
なんて事を思いつつ、ユーコの姿を探す。
すると……
「――おや? あのちょうど中心に位置する岩に、何か刻まれていますね……」
などと口にしながら、ちょうど直前に視えた岩へと近づいていく所だった。
……って、ちょぉぉぉぉぉっ!?!?
「ユ、ユーコォォォォォッ! ちょっとまってぇぇぇぇぇっ! ストォォォォォォプ!!」
慌てて大声でユーコを止める私。
「ど、どうかしたんですか、急に大声で……って、また『何か視えた』んですか?」
ビクッと身体を震わせて驚きながら、私の方を見てそう言ってくるユーコと、それに続くようにして、
「ん、そういえばアカリ、少しボーッとしていた気もする。うん」
と、言って腕を組みながら首を縦に振ってみせるロゼ。
「はぁ、はぁ……。え、ええ……。ユーコに反応して、召喚ゲート……? っぽいのが起動して、冥界の悪霊が大量に出現する光景が視えたわ」
息を整えつつ、私が『視えた』光景について説明すると、蒼夜は、ユーコの先にある岩をじっと凝視――というか、クレアボヤンスを使って確認――し、
「召喚……。なるほど、たしかにユーコが近づこうとしていた岩、クレアボヤンスで視てみたら、危険な意味合いを持つ古い時代の……遺失文字が連なってんな……」
と、そんな風に言ってきた。
「遺失文字って、使われなくなって久しい文字の事よね? なんて書いてあるのか、蒼夜は分かるの?」
「……まあ、一応読めなくはないぞ。ただ……これは意味が繋がらないというか……無理矢理単語だけ繋げたような、そんな感じだ……」
「うーん……遺失文字っていうくらいだし、これを刻んだ人間も良く理解していなかったんじゃない?」
「そうだとは思うが……そんな中で一応意味として繋がっている、『異なる理に狂いたる人、あるいは獣』っていう妙な一文があるんだが……こいつがやたらと多用されているのが、少し気になる所だな」
私の問いかけに対し、首をひねりながらそんな風に返してくる蒼夜。
「ん……。異なる理って、うん、さっきの水晶の滝で遭遇した『可変の集合体』とやらが言っていた気がする……。うん。何らかの繋がりがある……?」
「そうだな……。灯の未来視で『ユーコに反応していた』のなら、何かしら関係がありそうな感じではあるな」
ロゼの口にした疑問に対し、蒼夜がそう返した所で、
「あれ? それだと、私も関係しちゃう……?」
なんて声が聞こえてきた。
ん? と思って声のした方を見ると、件の岩の近くにマーシャがいた。
というか、文字の刻まれた部分に手を触れていた。
あ……っ! と思ったその直後……
フォンという音と共に、黝い色へと変化する岩に刻まれた文字。
……って、あれ? 色が……違う?
なんていう疑問を私が抱いている間にも、周囲の地面に黒いシミのようなものが広がり始め……剣や槍を持った骸骨、ふよふよと空中を漂うボロ布……ただし、敗れた部分から手が生えている不気味な存在、青い人魂のようなものを周囲に浮かべた空飛ぶしゃれこうべなど、いかにも『アンデッド』といった姿の魔物が次々と姿を現す。
「んん? 冥界の悪霊……ではない? うん、ただの……アンデッド? 纏っている霊力の波動があまり感じられなくて、うん、なんとなくそれっぽい」
「霊力が弱い……か。たしかに、そう言われると普通のアンデッドっぽい感じだが……スケルトン以外は見た事がないな……」
円月輪を構えつつ首を傾げるロゼにそう返し、次元鞄に手を突っ込む蒼夜。
「うん、でもまあ……ただのアンデッドなら、うん、冥界の悪霊より倒しやすい。アレが使えるから。うん」
「ああそうだな。ザコはこいつで纏めて倒してしまうとしよう」
蒼夜はロゼに対してそう答えて頷くと、次元鞄からボトルを数本取り出してみせた。
……って、ボトル? 霊薬的な何か……なのかしら?
それが何なのか分からない私には、そんな風に思いつつ首を傾げるしかなかった――
アンデッド、そしてボトルと言えば……第1部の第2章で、アリーセがアンデッドに対してバンバンぶん投げていたりしましたね。
といった所で、また次回!
次の更新は、平時の間隔通りとなりまして、6月10日(金)の予定です!
ただ、その次がもしかしたら1日多く空くかもしれません……
まだ未確定ではありますが……




