第143話[裏] 洞窟の奥に在るモノ
<Side:Souya>
――魔晶の柱をすり抜け、奥へと続く通路を進んでいくと、程なくして再び行き止まりに到達した。
「……あれ? ここで終わり?」
灯がそう言って首を傾げる。
そして、それに続く形でロゼが、
「ん、マーシャ、何か感じる? うん」
と、マーシャに問いかけた。
「……うーん? さっきのような感じはしない……かも。でも……『あの公園』の時と同じで、何か嫌な物を感じる……かも」
「公園というと……アナスタシア自然公園か。何かがグニャっとねじれているような感じがした……んだっけか?」
人差し指を口元に当て、首をひねりながら言うマーシャに対し、今度は俺がそんな問いの言葉を投げかける。
「うーん……嫌な感じという所は同じだけど……あれとは少し違う……かなぁ? あの時のはパパの言う通りグニャっとした感じだったんだけど、ここのはなんて言えばいいのかなぁ……。うーん……モヤァっとしてる……ような、そんな感じかなぁ?」
マーシャが考え込みながらそう言ってくるが、イマイチ良くわからない。
なので、とりあえずそれが何なのかは置いておく事にして、今度は、
「そのモヤァっとするのは、どっちの方から感じるんだ?」
という問いかけをしてみる。
それに対し、マーシャは「えーっと……」と呟くように言って、しばし周囲を見回した後、
「……多分……足元……。ずっと下から……な、気がする……かも」
と、考える仕草をしながら言ってきた。
「ふむ……。下か……」
俺は下――地面へと顔を向け、クレアボヤンスを発動。
その下に何かないかと透視して確認してみる。
と、すぐに異様な物が視界に飛び込んで来た。
……なんだこれ? この地面の真下に空洞――というか、物凄い長い縦穴があるな……
しかもこの岩壁……水晶が埋まっている割には真っ平らだな……
岩壁の方へと寄ってみると、不自然に水晶が欠けて――いや、きれいに切断されていた。
害獣や魔獣の類がこんな事をするとは思えないし、先の幻影の件を合わせて考えると、これは誰か――人の手によって作られた物であるとみて間違いなさそうだ。
そんな風に結論づけた俺は、視えた光景を皆に伝える。
「……たしかに、下に相当深い縦穴があるな……。しかも、人工的に作られたと考えてよさそうな代物だ」
「ん、という事は地面に何か仕掛けが……ある? うん」
と言って、ロゼが地面を注意深く調べ始める。
そして、それに合わせるようにして、ユーコが地面へと沈み込むようにして消えていった。
ああそうか、ユーコは壁だけじゃなくて地面もすり抜けられるのか……
てな事を考えていると、ユーコが地面から顔を出し、
「たしかに縦穴がありますね……。あまりにも深いので、下まで行くのはやめましたが……。その……何だか『下の方から全身を襲う冷たさ――得体のしれない怖さ』を感じましたし……」
と、そんな風に言ってきた。
……全身を襲う冷たさ……得体のしれない怖さ……か。
……その感覚、もしや……アレ……か?
俺がふと思い当たった事について考えていると、ユーコがロゼの方を向き、告げる。
「あ、今ロゼさんがいる辺りがちょうど中心ですね」
「ん、了解。こういうのは大体、うん、中心が隅に何かある事が多い……うん。念入りに調べてみる」
ロゼはそう答えると短剣を取り出し、それで地面を軽く削り始めた。
それを見ながら灯が、
「いっそ、魔法で地面に大穴を開けてしまうとかは……駄目かしらね?」
と言いつつ、エステル製の魔煌具を次元鞄から取り出す。
灯の言う方法を取るのがたしかに手っ取り早いのだが、洞窟内、特に魔晶に満ちた場所でそれをやるのは少しリスクが高すぎる為、俺は腕を組みながら、
「周囲の魔晶が魔法に反応して、魔法の威力を引き上げたり変異させたりする可能性があるから危険だな。下手をしたら床、あるいは天井、もしくはその両方が崩落しかねない」
と答えて、首を横に振ってみせた。
「そ、それは怖いわね……。というか、この水晶――魔晶には、そういう厄介な性質があるのね。始めて知ったわ」
そう言いながら魔煌具をしまい、お手上げだと言わんばかりの仕草をする灯。
それに対して俺が、
「正確に言うと、魔晶も少量なら特に問題はないんだが、さすがにこれだけあるとな……。どうしても危険性を無視する事は出来ない……って感じだな」
という補足を口にした所で、
「ん、ソウヤ、ここに複雑な文様が彫られてる。うん」
なんて事をロゼが告げて来た。……ん?
「文様?」
首を傾げながらロゼの方へと歩み寄ると、たしかにロゼの視線の先にある地面に、複雑な文様が彫られていた。
……って、あれ? この文様……どこかで見たような気が……
「魔法陣、あるいは呪印……といった所……ですかね?」
そう呟くように推測を口にして首を傾げるユーコ。
……魔法陣? 呪印?
……あ! そうかっ!
「――呪印式移動盤の文様かっ!」
「じゅいんしき……いどーばん?」
俺の発した声に対し、首を傾げつつそう問いかけてくる灯。
それに対して俺は、
「簡単に言えば特殊な仕掛けで動く大型昇降機――エレベーターだ。まあ……俺もイルシュバーン共和国にある『地下神殿遺跡』っていう名前の遺跡の奥地で、実際に目にするまで存在すら知らなかったんだけどな」
という説明を返し、肩をすくめる。
そう、それはディアーナと共に地下神殿遺跡を探索した時の話だ。
もっとも……あの時の文様は、100人以上の人間が寝っ転がってもなお余りあるくらいの大きな台座の上に、結構な大きさで描かれていたんだが……
……これは、あの時のアレの小型版……といった所なのだろうか?
というか、これがあるという事はやはりこの下は……
と、そこまで考えた所で、まだ結論を出すのは早いと思い、俺はとりあえず、
「ま、これはその時の文様に比べて、かなり小さいけどな」
と言って肩をすくめてみせた。
「どうやったら起動するんですか?」
「正規の方法なら、呪印円盤という物を文様の上に置けばいい感じだな」
当然といえば当然の疑問を口にするユーコに対し、そう答える俺。
「……正規? 正規ではない方法があるのですか?」
「ああ。文様をそっくりそのまま写し取って描いた絵とかでも大丈夫だ」
ユーコの問いかけにそんな風に返しつつ、俺はポケット……に見せかけた収納空間からスケッチブックを取り出し、それを灯に手渡す。
「――それって要するに……私に文様を『転写』しろ、という事かしら?」
そう問いかけてきた灯に対して俺は頷き、そして答える。
「まあそういう事だな。よろしく頼む」
「はいはい、しょうがないわね……」
などと、口では『やれやれ』みたいな感じで言う灯だったが、その顔にはすごく嬉しそうな笑みが浮かんでいる。
……『転写』の力が役立つ場面があると嬉しそうにする辺りは、なんともアルチェムそっくりだな……
まあ、魂――の半分――が同じなわけだし、そういった所が似通うのは、ある意味自然な事なのかもしれないが……
――灯を見ながら、俺はそんな事を考えるのだった。
久しぶりの『アレ』が登場しそうな雰囲気ですが……?
といった所でまた次回! 次の更新は5月5日(木)を予定しています!




