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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第1章 アルミナ編
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第36話 巨剣鎧

「……って、そう言えば、冥界の悪霊が出現するかもしれませんが……」

 再び地下神殿遺跡の通路を歩きながら問いかける俺。

 

 ちなみに、ディアーナが生み出した光球によって光源が確保されている為、昨日と比べて断然明るい。

 魔法――魔煌波を利用した魔法は使えないはずなので、おそらくこの光球は、それ以外の別の力で生み出されているのだろう。

 

 と、そんな事を考えて始めた所で、ディアーナが、

「次元干渉阻害結界をー、展開しているのでー、既に顕現していなければー、大丈夫ですよー。まー、もしも既にー、顕現していたらー、倒せばいいだけですしー」

 なんて事を、さらっと言ってきた。

 いやまあ、確かに倒せばいいだけなんだけど……。っていうか、なんだ次元干渉阻害結界って。名前からして凄く高度な結界な気がするぞ……

 

 ――ともあれ、そんな結界の効果なのか、一度も冥界の悪霊に遭遇する事なく通路を抜けた俺たちは、やたらと広く、そして天井の高い広間へとたどり着いた。

 広間の天井を支える為であろう太い柱が等間隔で立ち並んでおり、なんとなく神秘的な感じもしなくはない。

 

「随分と天井の高い広間だな……」

 俺は広間を見渡しながら、呟くように言う。

 

「たしかにー、不思議ですねー」

 ディアーナはそう言うとそこで一度区切り、床と天井を交互に見た後、

「……でもー、なんだかイヤーな波動がー、床下から天井の方に向かってー、噴き上げるようにー、流れていますねー」

 と、そう言ってきた。……下から上……?

 

「……言われてみると、なんだか噴き上がる冷気を感じますね。もしかしてこれが?」

「はいそうですー。うーん……もしかしたらー、この波動のー、通り道……通気口のようなものとしてー、この様に作られた可能性がー、ありますねー」

「それはつまり、この真上と真下に何かがあると?」

「いえー、上は特になにもありませんねー。あー、ちなみにー、この真上はー、グランダーム地溝の底ですねー」

「地溝の……底……?」

 そう言えば昨日の午前中、あそこへ行った時に、地溝の底から何か冷たい物が噴き上がってくるような感じがしたな……。おそらくあれも『嫌な波動』という奴だったのだろうが、あの時は、ほんの一瞬しか感じなかった。だが今は、噴き上げる冷気を常に感じている。これは一体どういう事だ……?

 

 ――そんな事を思案していると、急に地響きが聞こえてきた。

 いや、地響きというよりは……

「足音?」

「そのようですねー、とてもとても大きな何かがー、近づいてきますー」

 俺の呟きに対し、そう言葉を返しながら、広間の奥を指さすディアーナ。

 ならば……というわけで、クレアボヤンスを使い、そちらを覗いてみる。

 

 ――あっさりと足音の正体が判明した。……というより、デカすぎてすぐに視界に入ってきたというべきか。

 4本の腕を持ち、それぞれ巨大な剣を握っている巨人――いや、首なしの甲冑騎士といった感じのモンスターがそこにはいた。

 

「……デュラハン?」

 ファンタジー系のRPGなんかにも良く出てくる北欧の伝承に登場するモンスターの事を、ふと思い出して呟く俺。まあもっとも、デュラハンは腕が4本もあったりはしないが。

 そういう意味では、どちらかと言うと頭部がない代わりに腕が多いリビングアーマーと言った方が正しい気もする。

 

「アレは《巨剣鎧デム=ウォード》ですねー。冥界の悪霊の1体でー、あの巨大な剣をー、凄まじい速度で振りまわすんですよー。どうやらー、既に顕現していたみたいですねー」

 と、解説してくるディアーナ。

 

 ふむ、デム=ウォードっていうと、昨日クライヴの話に出てきた奴だな。なるほど……こういう感じの姿だったのか。しかし、あの巨体で振るう剣か――

 

「これはなんというか……戦うとしたら、遠距離攻撃をメインにして、接近されないようにしないと危険ですね。あれほどの大きさの剣だと回避するのも一苦労ですし」

「そうですねー。なのでー、近づかれる前にー、先制攻撃と行きましょうかー」

 俺の言葉にそう答えると、自身の周囲に8個の光球を生み出すディアーナ。

 

 光球は、1個1個が虹色の輝き放っている為、なかなかに派手だ。

 雰囲気的には魔法っぽい感じだが、おそらくこれも、懐中電灯代わりの光球と同じで特殊な力で生み出されたのだろう。

 

「そーい!」

 そんな気の抜けた掛け声と共に虹色光球全てから虹色の光線が発射され、接近してきていたデム=ウォードへと突き刺さる。……なんか、ロボットアニメに出てくるフルバーストなビーム兵器似てるな、コレ。

 

「グゥガァアアアァァァアァッ!」


 ビーム……じゃなくて、虹色光線をまともに食らったデム=ウォードが、広間全体に反響するほど大きな叫び声と共によろめく。

 

「さすがに1回では無理ですかー。ならー、もっと増やしますよー!」

 そう言い放つやいなや、更に8個の光球が生み出すディアーナ。

 そして、先の8個と合わせて合計16個となった光球から、同じ数の光線が放たれ、デム=ウォードを穿つ。

 

「ガギャアァアァアァアアアァァァッ!」 


 よろめいていた所に、続けざまの攻撃を受けたデム=ウォードは、後方にあった柱2本を巻き込み、へし折り、騒音を響かせながら後ろへと倒れ込んだ。な、なんという圧倒的な火力……

 

 とんでもないチート火力によって、あっさりと叩きのめされてしまったデム=ウォードはバラバラに砕け散り、そして白い砂へと変化した。

 

 ……んん? 甲冑の方は砂になったけど、手に持っていた剣の方は床に転がったままで、砂になる様子はないな。

 いやまてよ? そう言えば例の戦車型の奴――ヴォル=レスクを倒した時も、本体であろうドクロが白い砂と化しても、戦車の方はそのままだったな。

 って事は、つまり……こいつには中身がなくて、甲冑そのものが本体だった、という事か。まさにリビングアーマーそのものだな。

 

「撃破完了ですー」

 クルクルっと2回転してVサインをしてくるディアーナ。

 ……Vサインって、この世界にもあるのか。

 

 それにしても、さすがは神に近しい存在だけはある、というべきだな。

「なんというか……さすがですね。ああもあっさり倒すとは思いませんでした。俺の出番がなかったです」

「あー、戦いたかったですかー? ごめんなさいー」

「いえ、別に戦いたかったわけではないので、問題ないですよ」

 というか、あんなデカブツとやり合うのは、少々面倒だ。

 

 っと、それはさておき、あの攻撃方法はいいな。例の連射魔法杖をサイコキネシスで浮かせてやれば、同じような事が出来そうだ。

 ロゼの短剣で似たような事をやってみているし、動作させるのが簡単な連射魔法杖ならば、複数並べて一斉掃射も難しくはないだろう。

 もっとも、魔力の問題をどうにかしないと駄目だが。うーむ……


 ……おっと、それを考えるのは後にしよう。

 というわけで、目の前の障害が排除されたので、改めてクレアボヤンスを使いながら広間を見回す。

 が、扉や階段のようなものは見当たらない。……どういう事だ? ここが最深部だとでも言うのか?

 

 更に広間を見回して行くと、ちょうど広間の中心にあたる場所に、複雑な文様の描かれた平たい台座があった。かなり大きい台座で、100人以上が寝っ転がってもなお、余るくらいありそうだ。

「広間の中心に何か台座のようなものがありますね。……というか、それ以外は扉も階段もありません」

 俺は中央を方を指さし、そう告げる。

「ではー、行ってみましょうかー」


 そんなこんなで、中心にある台座の所へとやってきた俺たち。

「ふむー、これはー、呪印式移動盤というー、魔煌波を使わないタイプのー、昇降機ですねー」

 台座を調べながら、ディアーナがそう言ってくる。

 

「それはつまり……これを使って下か上にいけると?」

「おそらく下ですねー。台座の中心にー、起動用の呪印円盤を設置すればー、起動するみたいですがー」

「円盤……ですか? それらしい物は見当たりませんね……」

 俺は再びクレアボヤンスを使って広間を探るが、それらしい物はどこにもなかった。

 

「おそらくー、別の場所にー、保管されているのかとー。まあでもー、呪印の術式は解読済みなのでー、代用品でどうにか出来ますねー」

 と、ディアーナはそんな事を言うなり、どこからともなく1枚のカードを取り出し、それを台座の中心に置く。

 

「せーい」

 これまた気の抜けた掛け声と共に、カードに向かって手を突き出すディアーナ。

 その直後、カードに文様が浮かび上がり、それに呼応するかのようにして、昇降機上の文様がオレンジ色の光を放ち始める。……そんなんでもいいのか。

 

「これで起動しましたよー。さあー、乗ってくださいー」

 あっさりと昇降機を起動させたディアーナが、そう言って手招きしてくる。

 今更っちゃ今更だが……ディアーナって、チートすぎやしないか……?

ディアーナはその立場上、かなりの強さを有しており、

更に大した事のない問題であればあっさり解決してしまいます。

まさにチートキャラですね。


追記:タイトルが「35話」となっていたので、「36話」に修正しました。

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