第117話[裏] アーティファクトメイカーズ
<Side:Souya>
「――というわけで、うん、どうやら警備隊も関係してるっぽいけど、うん、アリシアはそんな話聞いた事なさそうだった。うん」
「ふむ……。蓮司の話だと、駅での積み下ろし作業も、鉄道運行保安隊の人間が密かに監視しているという事だったが……」
「それこそ初耳、うん」
俺の話を聞いたロゼがそう返しながら肩をすくめる。
「つまり、それぞれの組織に成りすましているか、あるいは……」
「うん、両方の組織に入り込んでる工作員がいる? うん」
「ああ、そういう事だな」
首を傾げるロゼに対し、俺は頷いて肯定を示した後、
「ちなみに鉄道運行保安隊の方は、シャルがバーンに連絡して話を聞いている所だ」
と、言葉を続けた。
「ん? シャル? 留守番してたんじゃ? うん」
「……『探偵』として来たらしい」
ロゼのもっともな疑問にそう答える俺。
蓮司から聞いた理由をロゼに伝えるのは、俺にはちょっと無理だった。
それに……蓮司たち傭兵団の面々は、実際に名目上では『エレンディアにある小さな探偵社の社員旅行』という事にしているらしいので、嘘ではないしな。
「……うん? 魔法探偵シャルロット、復活?」
「そういうわけではないと思うぞ……」
そんな風に返しつつも、シャルならそんな事やりそうだなと思う俺だった。
◆
<Side:Charlotte>
温泉から逃げ出すような形で街へと出てきた私は、探偵の『シャルロット』として聞き込みを行う事にした。……ま、魔法探偵ではないわよ?
などと、誰にともなく言い訳じみた事を心の中で呟きつつ、私は『金床と槌の調べ亭』という名前の酒場のドアを開いた。
何故ここに来たのかというと、とりあえず駅で積み下ろし作業をしていた作業員たちから何か話が聞けないかと思い、聞き込みをしてみた所、彼らが仕事終わりに良く立ち寄る酒場がここだと判明したから。
「さて、それらしい人物は……っと」
そんな事を小声で発しながら酒場の中を見回すと、駅で作業員たちを指揮していた現場監督らしきテリル族の男の姿を見つけた。
うーん、まさに一番有益な情報が得られそうな人物、発見っ! って感じだわ。
そんな事を思いながら私はその男へ近づく。
そして、話が聞きたいと告げて身分を示すカード――たしか、名刺……とかいう名前だったかしら? 最近流行り出してきた仕組みなのに、何故かソウヤは普通に知っていたけど――を手渡す私。
もちろんそれだけじゃなくて、「話をしてくれたら酒を奢る」という、こういった場面で有効な言葉も添えるのも忘れてはいないわよ。
「……探偵のシャルロット……? あの魔法探偵か?」
「いえ、そんな大それた存在ではなく、単なるエレンディアの探偵社に所属するごく普通の探偵ですよ、私は」
カードに書かれた名前を見ながら、そんな疑問の声を投げかけてきた男に対し、私は普段とは違う言葉遣いで返事をする。
……まあもっとも、あの物語の主人公――魔法探偵シャルロットは昔の私がモデルなので、ある意味同一人物みたいなものではあるのだけど……
なんて事を考えていると、
「そりゃまあそうか。それで? 何が聞きたいんだ?」
と、納得顔で再度問いかけてくる男。
「はい、先程の積み下ろし作業についてです。今日は遅延が発生していたようですが、よくある事なのですか?」
「いやいや、よくあったら列車の運行に影響出まくりで大問題になるっての……。エレンディア鉄道は、定時通りに運行する事が稀なジルベスロッカ鉄道とは違うんだしよ」
男は私の問いに対し、ため息混じりにそう答えると首を横に振ってみせた。
ジルベスロッカ鉄道……その名が示す通り、レヴィン=イクセリア双大陸北方辺境のジルベスロッカ地方の鉄道運行を担っている組織ね。
たしかにあそこは、まともに定時通りに運行しているのを見た事がないわね。
「なるほど、では今日はたまたま……と」
「ああ。急に予定にない荷物を扱う事になってな。色々調整してはみたんだが、どうしても足が出ちまったんだ」
「予定にない荷物……ですか?」
「そうだ。最近定期的にあるんだよなぁ……。至急対応して欲しいっつーシロモンが。しかも、お偉いさんが絡んでいるから断る事も出来ねぇし……」
「お偉いさん?」
「俺たち『アーティファクトメイカーズ』の上層部の事さ」
首を傾げて問う私に、そう答えて肩をすくめてみせる男。
『アーティファクトメイカーズ』……。たしか、エレンディアの商人たちや職人たちの相互扶助を目的とした組織……だったかしら。
その名が示す意味は……わからないわね。聞いた事もない言葉だし。
エレンディアの急激な発展に合わせるように、次々に登場する新しい商売、そしてそれに便乗する形で外から流れてきた商人たちや職人たち……
様々な物、者がエレンディア内で入り乱れて、まさに戦争と言っても過言ではないレベルの競争状態になっていた所に、ひとりの男が現れてその組織を立ち上げると、圧倒的な手腕でまとめ上げた……とか、そんな感じの話をエステルがしていたような気がするわ。
エステルも『何かの時に役立つかもしれない』なんていう理由で所属していたはずだし、アーティファクトメイカーズについての詳しい情報は、エステルに聞けばいいわね。
というわけで――
「なるほど……。ちなみに、その至急対応して欲しいという荷物は、どんな物なのですか?」
と、問いかける。
それに対して男は顎に手を当てると、思い出しながら……といった感じで、
「あー……品目としては『薬草』に『資材』に『機材』……だな。それ以上の情報に関しては、現場――つまり俺たちは持ち合わせていないんでな。答えたくても答えられん」
なんて事を言ってきた。
それってつまり、現場監督である彼でも、積み下ろしに必要な最小限の情報しか持っていない――というか、アーティファクトメイカーズの上層部が与えていない……と、そういう事よね。
顧客の情報を保護する情報管理の観点で見るなら正しいとは思うけど、情報を得たい私からすると、単なる厄介な相手って感じだわ。うぅーん……どうしたものかしらね……
第1部の序盤で解説している通り、蒼夜や灯たちに英語っぽく聞こえているものは、『この世界の非公用語である言語形態のひとつ』が『自動的に英語っぽい形に翻訳されたもの』なのですが、シャルロッテには『本来の言葉』として聞こえますし、普通に理解も出来ます。
なのに、何故か『アーティファクトメイカーズ』に対しては、『聞いた事もない言葉』という感想を持つという事は……?
といった所でまた次回! 次の更新は2月7日(月)の予定です!




