第103話[表] ジェド=オルグの亜種、その正体
<Side:Akari>
ユーコの一撃をまともに食らったジェド=オルグが、大きく翼を広げて飛翔。一気に天井付近へと逃げた。
と、同時に鬼火が全て消失する。
それを確認したユーコたち近接攻撃組は、攻め時とばかりに多方向から一斉に攻撃を繰り出し始めた。
このまま押し切れれば良いのだけど……と、思うも、やはりそう簡単にはいかない。
ジェド=オルグは、自身を包み込む形で球状の障壁を展開し、ユーコたちの攻撃を完全に防いできたのだ。
とはいえ、ジェド=オルグの方もユーコたちの攻撃が激しい為か、身動きが取れずに障壁を展開したまま完全にその動きを止めていた。
「やはり妙ですね……。ユーコさんの攻撃を受ける前に攻撃を中断し、回避する事も出来たはずなのに、わざわざ攻撃を受けてから回避行動を取っていますね……。しかも、あんな強固な防御障壁が使えるのなら、もっと早く使えば良いものを……」
私の呟きに続く形で、そんな事を口にするジャンさん。
それは私も思った事だった。
「うーん……。そもそも、ふたつの魔法を同時に維持しているのが不自然な気がするんだよなぁ……」
「ん? 不自然? どういうこった?」
ロディの呟きを拾ったゼルがそう問い返す。
「ああいえ、こいつら2体で連携していた時は、攻撃を仕掛けてくるのは片方だけで、もう片方は攻撃を仕掛けている側を支援するような動きをしていたじゃないですか」
「ふむ……たしかにな」
「それなのに連携が分断され途端、自力で複数の魔法を操ってきている……要するに分断した事で逆に強くなっている気がするなぁ、と」
「なるほど、そう言われてみるとその通りだな」
ロディの説明にゼルが納得の表情でそんな風に言った所で、
「魔法を無理矢理ふたつ使って動けなくなっていた……?」
と、ふと思った事が口を衝いて出る私。
「……連携しやがらなくても強いのに何故か連携し、ふたつの魔法を使うと、回避行動が遅れやがる……。なんだか妙ですねぇ?」
「妙と言えば……《黒影の霊鬼ジェド=オルグ》に亜種が存在したのって、何気に知られてないというか……今まで見た事も聞いた事もないってのもそうだよね」
私たちの会話を聞いていたらしいティアとカエデが、ジェド=オルグの攻撃を捌きながら、そんな事を言った。
そういえば、ジェド=オルグって私は呼んでるけど、亜種って最初に言ってたわね。
「……知られていない亜種……」
「もしかして、ジェド=オルグをもとに作られた……強化型みたいな感じ……だったりするですかね?」
ティアの呟きを拾ったクーさんが、ハンマーを振るいながら言う。
「あー、なるほどぉ。例の古の錬金術とやらで生み出されたっていう『キメラ』の事だねぇ。だけど、ここまで原型を留めているのは、それこそ見た事がないようなぁ?」
アリシアがそんな風に言う。
キメラって言うと……『竜の血盟』が地球で活動していた頃に、連中が研究し、利用していた外法で生み出された魔物――人間を変化させた存在の事よね。
「まあ、原型を留めている例が全く無いというわけではないですが……。私のように」
と、クーさん。
……あ、クーさんも外法のせいでこうなっているんだっけ。
「……えっと、ごめんなさいぃ」
「あ、いえいえ、別に謝る事ではないのです。アレの結果、私は変身能――」
心底申し訳無さそうなアリシアの謝罪に、クーさんがそう答え……る途中で、ハッとした表情をするクーさん。
「……変身……。機幻獣……キメラの培養槽……。たしか、列車強盗団の件の報告で……」
攻撃の手を止め、なにやらそんな事をブツブツと呟き始めるクーさん。
「列車強盗団? ……ああ、そういえばそんな報告書が回って来てたな。俺ですらまだ確認していねぇのに、もう確認済みとは……。いやはや、さすがと言うべきか」
ゼルがそんな風に言って歓心する。
クーさんとゼルの話を聞いていたらしいティアが、
「列車強盗団……。列車にあったのは……培養槽に機幻獣……。……っ!? ……もしかして、もしかしやがるんですかねぇ!?」
と、唐突に叫んだかと思うと、何やら見たことのない道具を懐から取り出すティア。
そして、私たちの方に向かって、声を大にして呼びかけてくる。
「今から《SWゾーンブレイカー》を発動させますねぇ! 魔法が無効化――発動しなくなりやがるので、注意しやがってくださいねぇ!」
SWゾーンブレイカー? なんだか良くわからないけど、魔法が使えなくなるみたいね。
というか、クーさんが使う《ノイズキャンセラー》とか《ディストーションディテクター》とかに名称が似ているけど、作った人が同じなのかしら?
そんな事を考えているうちに、ブォンという音と共に、ティアの持つSWゾーンブレイカーとやら青い光を発し――発動した。
その直後、ティアが言った通り、『魔法』に該当する物が全て消し飛んだのが明確に認識出来た。何故なら、私の魔導弓が矢を生み出す事が出来なくなったから。
更に言えば、エリスやツキトにかけられていた強化魔法も消えたようで、飛んでいるジェド=オルグに届く程の跳躍力がなくなっていた。
……え? これじゃあ、あっちの防御魔法とかを無効化する事が出来るかもしれないけど、それ以上にこっちが弱体化するんじゃ……。基本的に何らかの形で魔法の力を使っているし……
と、思った直後、何故か目に見えてジェド=オルグの動きが鈍りだした。
……なんで? 強化魔法が消えた……にしては鈍りすぎな気が……
意味が分からず、私の口から、
「……ど、どういう事?」
という言葉が自然と発せられる。
「簡単な話ですねぇ。あれ――ジェド=オルグの亜種に見えるあの魔物は、魔法で生み出されやがった……いえ、正確に言うなら『魔法そのものの魔物』だという事ですねぇ」
なんて事を言ってくるティア。
「ま、魔法そのもの?」
カエデが私と同じ疑問を抱いたらしく、そう口にする。
それに対してティアは、
「詳しい話は後にして、弱体化していやがる今がチャンスですからねぇ。一気に片付けちまいましょうねぇ」
と返し、ジェド=オルグを見据える。
……たしかにその通りね。今はまず奴らを倒すのが先決だわ。
魔法が使えない状態だからこちらの戦闘能力も低下してしまっているけど、奴らはこちら以上に弱体化しているみたいだし、どうにかなるはずっ!
というわけで(?)猛反撃モードに突入しました。
次の話の冒頭で多分ケリが着くと思います。
さて、その次の更新ですが……12月22日(水)の予定です!
ようやく、元のペースに戻せました……
※これによって今週は少なくとも木曜日までは、毎日現在連載中の3作のいずれかが更新され続ける形になります。




