第97話[表] 咆哮、暗闇に潜む者
<Side:Akari>
「まあ、そうなるよねぇ」
ティアの発言に驚きの声を上げたカエデを見ながら、アリシアが腕を組みながらそんな風に言って、うんうんと首を縦に振った。
「え、なんでそんな反応!? もしかして、知らなかったの拙だけ!?」
と、私たちを見回しながら口にするカエデ。
一人称が『拙』になってるけど、そこはまあ……何も言わないでおくわ。
私たちがカエデさんに大して頷き、肯定した所で、
「――私たちも最近知ったばかりですけどね。……むしろ、『黄金守りの不死竜』に詳しそうな感じだったので、知っているものだと思っていましたよ」
と、ジャンさんが私たちを代表するように告げる。
「そんな所まで知らないからぁぁ! 一体何がどうなってるのよぉぉ!?」
再び叫ぶカエデ。
……もっとも、その気持ちはわからなくもないけれど。
「あまり叫ぶとヤバい存在に気づか――」
「ヲオオォォォヲヲオオォォオォヲォオヲヲォヲンンッ!」
ティアの言葉を遮る形で、通路の奥から怨嗟に満ちているのが良く分かる、昏く重い不気味な咆哮が響いてきた。
「……ほら、気づかれたじゃねぇですか」
「私のせい!? 私のせいなの!? いや、私のせいかもしれないけどっ!?」
呆れてため息をつくティアに、そんな風に返すカエデ。
なんだか、あまりの事態にちょっと混乱しているわねぇ……
「まあ……貴方の気持ちはわかりますが、とりあえず落ち着いてください」
「――バレちまった以上、やる事はひとつだ。そのツラを拝みに行くとしようぜ」
カエデをたしなめるジャンさんと、それに続く形でそう告げるゼル。
そして、それに対して同意の言葉を短く返し、そのまま通路を駆ける私たち。
……と、思ったよりも通路は短く、すぐに急に開けた場所に出た。
「……これはまた、なんともシャルの里の儀式場そっくりの広間ですねぇ」
周囲を見回しながらそんな風にティアが言うと、クーさんがそれに続く形で、
「……というか、さっきの咆哮の主はどこに行ったですかね? 見当たらないのです」
と言って、同じく周囲を見回す。
「……たしかに見当たらないわね」
私がそう口にした直後、
「――先程聞こえた声は、貴様たちか」
という声が真正面の暗闇の中から聞こえた。
即座にアリシアが照明魔法を使うも、その姿は見えないままだった。
となると……魔法か何かで姿を隠している、といった所かしら……?
「ステルスなんぞ使っていやがったら、何者なのかバレバレじゃねぇですかねぇ。――《銀の王》?」
ティアが射るような視線を正面に向けながらそんな風に言うと、
「ステルス程度なら人形どもも使うがな」
なんて声と共に、時代錯誤……いや、ある意味とても中世ファンタジー世界らしさのある甲冑を鎧った男が、文字通り闇の中からその姿を現す。
完全に姿を隠せるステルスって……随分とまあ、とんでもない技術が出てきたわね……
って……それよりも、あれが《銀の王》……
話には聞いていたけど、たしかに一線を画する存在って感じね。普通に強そうだし……
「人形はこんな風に会話をする能力を持っていねぇじゃねぇですか」
首を横に振って否定するティアに、肩をすくめる男――《銀の王》
「まあ、最近の人形はある程度会話も出来るがな」
「いつの間にか技術力が上がっていやがりますねぇ……」
「技術とは日進月歩というだろう? 特に今のこの世界は発展が早い、そのくらいは可能になるというものだ。もっとも……そうは言っても、人形にここまでの受け答えをさせるのは未だに無理だがな」
「ま、技術の発展が早いのは間違いねぇですね。……それで? 《銀の王》がどうしてこんな所にいやがるんですかねぇ?」
「なぁに、貴様たちと同じだ。悪霊どもの巣窟と化している場所を見つけたんでな。暇つぶしに浄化しにきただけだ」
「それはまた面白い冗談ですねぇ。《銀の王》が『暇つぶし』だなんて、そんな事をするはずがねぇじゃねぇですか。……大方、ここをこういう風にしやがった『元凶』に繋がるものを隠蔽しにきたんじゃねぇですかねぇ?」
やれやれと言わんばかりに首を横に振り、嘲るような表情を見せるティア。
「我らとて暇つぶしくらいはするぞ? そして、その部分は嘘でもないのだがな。――なにせ、我の目的は『探し物』を見つける事であり、この行為は配下の者どもがその手がかりを掴むまで特にする事がなかったが故に、気まぐれでやってやったにすぎんのだから、な」
と言って腕を組む《銀の王》
「良くわからないけど、さっき聞こえた咆哮は私の声に反応したんじゃなくて、貴方に反応したって事?」
「ああ。ここに居た業魔は我がつい今しがた始末した所だ。その時の断末魔の咆哮をちょうど聞いたのだろう」
カエデの質問に対し、《銀の王》がご丁寧にそう答えてくる。
ティアの質問に対してもそうだったけど、思ったよりも普通に会話するのね……
まあ、問答無用で戦闘になるより、情報を聞き出せるからいいのだけど。
「待て、つい今しがたって……そもそも、ここにどうやって来たんだ?」
ロディがそんな疑問を口にする。……そう言われてみると、たしかにそうね。
「それは秘密というものだ。……と言いたい所だが、せっかくなのでお見せするとしよう」
なんて事を言ったかと思うと、《銀の王》は甲冑の右前腕部――ブレーサー部分に左手を添え、そして金属の表面を滑らせるように動かす。
と、その直後、《銀の王》の真正面の床に、突然黒い渦が出現する。
って、この渦……っ! 小さいけど、私たちがこっちの世界に来た時の奴とまったく同じ……っ!?
私が――いえ、私とユーコがそれに気づいてロディの方を見ると、ロディも私たちの方へと顔を向けてきた。
つまり、《銀の王》はあの技術にも関わっていたって事になるわね……
そんなわけで(?)第2部組の《銀の王》との初邂逅です。
といった所でまた次回! 次の更新は11月29日(月)の予定です!




