第86話[Dual Site] 理の書き換えとゴースト
<Side:Akari>
「やれやれ……まさか、あそこでシャルが乱入してくるとはな……」
肩をすくめながらそんな事を言うグレン。
それに続くようにしてグレンの部下らしいふたりが言葉を紡ぐ。
「そうねぇ……まあ、こっちもちょっとやり過ぎた気はするけど」
「ああ。『黄金』の力を使うのはさすがに失敗だったと今では思う」
「さすがにガレスは使わなかったわね」
「ははは、単に習熟出来ていないというだけの話だよ。完全に物にしていたら使っていたかもしれないね。それくらいふたりとも成長していたし」
シャルの問いかけに対し、笑いながらそう答え、ロディとゼルを交互に見るガレス。
ガレス以外の3人は、シャルの攻撃で大ダメージを食らったはずなのだけど、どう見ても無傷というか、ピンピンしてるわね。この空間自体になにか仕掛けがあるのかしら?
と、そんな事を考えていると、
「ん、折角だからシャルともやり合ってみたかった。うん、無念。いっそ……うん、今からでも」
「あー……それ以上は、かすり傷と判定されるダメージを1発受けただけで気絶しかねないから止めておけ。ロゼのHPはもう1だ」
「ん? そうなの? そんな感じはしない……」
「そりゃ、ここの理を書き換えて、肉体的な負傷はほぼ無効化してあるから、肉体的にはそう感じるだろうさ。ただ、そうする代わりに精神的な疲労が大きく蓄積される状態になっているからな。ロゼの精神疲労はもう既に限界だ」
なんていう会話をするソウヤとロゼ。
サラッとHP1とか言ってるけど、それは置いといて、どうやらそういう事らしい。
うーん……。言われてみると、私もユーコも何度か負傷しそうな攻撃を受けた気がするわ。
戦闘中は、ギリギリ防御や回避が間に合ったか、あるいはグレンが寸前で攻撃を止めたか……みたいに考えていたけど、そういうわけではなかったみたいね。
よくわからないけど、肉体的な負傷を精神的な疲労に変えるという、妙な力が働いているらしい。
そんな意味不明な状況を平然と作り出せるソウヤという人物が、『黄金守りの不死竜』のトップである事が良く分かるわね……。って、そういえば……
「あの……もしかして、『ターン制』の術式を生み出したのは貴方なのですか?」
と、私の中に湧いてきた疑問を、私よりも先に口にするユーコ。
ま、普通に考えたらユーコの思考もそこに行き着くわよね。
「いや、俺の理の書き換えはこの空間限定だ。あんな風に現実世界において理を書き換えるのは無理だな。まあ、術式の構成さえわかれば、真似は出来るだろうが、俺ひとりでは無理だな。それ相応の道具や人間、そして複数の術式が必要となるだろう」
「それって、やろうと思えばソウヤ以外でも出来るって事?」
ソウヤの回答に対し、シャルがそんな疑問を投げかける。
「まあ、出来るだろうな。実際やっている事だし。……ただ、あそこまで人間の意識を操るような物となると……割と血なまぐさい術式になるんじゃないかと思うがな……『■■■の■■■■■■』にある、理に関する情報を前提にするのなら、だけど」
……発現の一部分がノイズになったし……。何気に厄介よね、これ……
◆
<Side:Souya>
理に関する情報だけでも膨大すぎる程の量がある、『竜の座のデータベース』を全て確認したわけではないが、あの手の術式には――シャルの産まれた里で行われていた、絶霊紋や思考操作などの数々の忌々しい秘術や秘法が良い例だが――人の意識に侵食する為の触媒として、人の負の感情と血肉そのものを扱う……要するに、人間の生命そのものをリソースとする物が多い。
俺はその事を説明すると、
「所々ノイズってて聞き取れなかったが……もしかして、アレが関係している……のか?」
と、そんな風に呟くように言い、ユーコの方を見るロディ。
「……あっ! 私が偶然見つけてしまった、あの白骨死体とその隣の……!?」
顔を向けられたユーコがハッとした表情でそう言い、それに続く形で、
「あ、たしかにそうなのです。あそこは夜になったら大量のゴーストが湧くのが確実なくらい、アストラル残存が酷すぎたのです」
なんて事を口にするクー。
ふむ……白骨死体に、夜になったらゴーストが大量に湧くであろう程に酷い場所……か。
そこで血なまぐさい『何か』が行われたという事か?
「……なんだか物騒な物を発見したみたいだな。凄い気になるから、出来れば詳しくそこら辺の話を聞かせてくれないか?」
俺は腕を組みながらそんな風に告げた。
◆
<Side:Yuko>
「――というわけでして……」
私が説明を締めくくった所で、
「あ、ちなみに……ですが、さすがに我々ではゴーストの対処までは出来ませんので、知り合いの祓魔師に対応してもらう予定です」
と、補足するようにジャンさんが言います。
「ああ、それならこちらから祓魔師を送って浄化しておこう。さすがにそのまま放っておくのは危険そうだし」
そう告げるなり携帯通信機を取り出し、速やかにその旨を誰かに伝えるソウヤさん。
こうもすぐに動かせるとは、さすがは『黄金守りの不死竜』のトップといった所でしょうか。
「――とりあえず、高位の者を派遣したからゴーストの件については大丈夫だろう」
「『黄金守りの不死竜』には、高位の祓魔師までいるんですのね……」
ソウヤさんの言葉に、エリスさんがため息交じりにそんな風に返しました。
「まあ、ウチもそれなりに大きいからな。……で、少しそいつと話をした感じだと、やはりそこで多くの人間が触媒にされた……と考えて、まず間違いないとの事だ」
顎に手を当て、思考を巡らせながらといった様子でそう口にするソウヤさん。
「それってつまり……エレンディアの市内で大勢の人が殺された、って事だよねぇ?」
「残念だがそういう事になるな……」
アリシアさんの疑問に対して、嘆息しつつ答えるソウヤさん。
それを聞いたアリシアさんは、
「うーん……いくら『南側』だと言っても、さすがにそんなに多くの人が殺される――というか、街から姿が消えるような事が起きたらぁ、それに関する何らかの情報を、警備局が掴んでいるはずだと思うんだけどぉ、そんな情報ないよねぇ……?」
と言って、ゼルディアスさんの方へと顔を向けます。
「ああ、たしかにそれっぽい情報は何一つ共有されてねぇな。ただ……悲しいかな、今の警備局は一枚岩じゃねぇから、どっかが局内に共有される前に握り潰した――情報を隠したままにしているっつー可能性もゼロじゃねぇんだよなぁ……困った事に」
ため息交じりにそんな風に言うと、両手を広げ、やれやれと首を横に振るゼルディアスさん。
もしそうだとしたら、ホントに困った事ですね……
うーん……それにしても、まさか偶然発見した――してしまったアレが、あの術式そのものに関係している可能性が高いとは、さすがに予想していませんでしたね……
というか、あの理解不能な代物を生み出した人は、多くの人の命を使い捨てるようなそんな真似をしてまで、一体なにをやろうとしているのでしょうか……?
蒼夜のノイズがかかる発言部分は、今回はキャンセラーが(クーが持ってきていない為)ないので、蒼夜側に視点を切り替えるという方法にしてみました。
といった所でまた次回! 次の更新は、10月27日(水)を予定しています!




