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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第1章 アルミナ編
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第3話 アルミナ

「これは凄いな……」

 テレポータルをくぐり、夜明けの巨岩と言われる岩の上に降り立った俺は、その岩の大きさに驚く。

 それは、地球で例えるならオーストラリアのエアーズロックだ。縁に立って下を覗くと、まさに断崖絶壁といった感じで、地上までかなりの距離がある。たしかにこれは巨岩という名で呼ばれるに相応しい。


 そんな感想を懐きつつ周囲を眺めると、眼下には森と荒野が広がっていた。

 また、遠方には険しい山々が連なっているようなのだが、こちらは霧が出ているのか、白い靄に包まれてしまっており、シルエットがうっすらと確認出来る程度だった。


 それにしても……随分と森と荒野がくっきりと分かれているな。まあ……ここは地球とは別の世界だし、何らかのこの世界特有の法則……のようなものがあるのだろう。


 その森と荒野のちょうど境目となる辺りに、線路らしきものが延々と引かれており、その途中に建物が立ち並んでいる場所があった。建物といっても、先程みた首都の建物とは違い、木造や土壁造りが多く、そのほとんどが平屋か2階建てだったりするが。


 うーん……ここから見た感じだと、なんとなく中世の町並みが残るヨーロッパの片田舎といった雰囲気のする町だな。おそらく、あれがディアーナが言っていた、この森と同じ名前を持つ町――アルミナの町――だろう。

 ……よし、ここは実験も兼ねて、あれを使って覗いてみるとするか。


 というわけで、俺は一度目を閉じ、そのまま軽く息を吐く。そして一呼吸置いた後、目を勢い良く開き、そのまま町の方を凝視し続ける。

 と、視界が望遠鏡を覗いているかのような状態となり、町並みがどんどんと拡大されていく。

 そして、ついには街行く人々の姿までもが、くっきりと見えるようになった。


「って、見えすぎだろ!?」

 あまりの事に、心の中で留めるはずだったツッコミが口をついて出てしまう。


 この光景は、遠くを見たり透視したりする事が出来る『クレアボヤンス』と呼ばれるサイキックによるものだが、やはりこの『クレアボヤンス』も地球にいた頃と比べ、格段に性能が強化されていた。

 だが、まさかここまでくっきりと遠くを見る事が出来るとは……もしや、透視も可能になっていたりするのか? 

 と、そう思った俺は、視界の端に入っている駅と思しき建物に視線と意識を向け、そのまま建物の中を透視してみようと試みる。

 

 ……結局、しばらく粘ってみたが透視は出来なかった。いくら強化されているとはいえ、そこまでは無理なようだ。

 透視自体は、至近距離なら前も若干出来ていたので、単に距離が遠すぎるのだろう。

 透視は一旦諦め、別の方へ視線を動かしていくと、ちょうど駅へと列車が入っていく所が見えた。どうやら、先頭の機関車が客車を引っ張るタイプのようだ。

 ちなみに、煙突の類は見当たらないので、おそらくなんらかの内燃機関によって駆動するのだろう。


 ――列車が完全に駅に入ったのを見届けた俺は、視線を少しずらし、駅前を行き交う人々の姿を観察してみる事にする。

 大半は地球で見慣れている容姿の人間ばかりだったが、中には頭の上にフサフサとした耳――ネコ耳がついている男性がいたり、ウサギ耳の女性がいたりもした。

 ふむ……どうやらこの世界には、様々な姿形をした人間――亜人や獣人などと呼ばれる事が多い、そんな人々が普通に存在しているようだ。


 ちなみに、服装を確認してみると、たしかにディアーナが言ったとおり、現代の日本で大量に売られており良く見かける、そんな服装の者たちがほとんどであった。

 しかし……剣や槍といった明らかに武器だと分かるものを、身につけたまま歩いている人たちを普通に見かけるけど、この世界では一般人でも自由に武器を所持する事が出来るのだろうか?


 ……ま、そのへんは後で、この世界について書かれた本とやらを読んでみれば分かる事か。次元鞄の中に入れてあるとディアーナが言ってたしな。

 あーでも、町へ行くのであれば、どこの出身かと問われた時のための設定だけは考えておくか。異世界から来たとか言うのは、まずいらしいし。……だとすると、そうだな……

 

 ――さっきのあの場所へは簡単には行けないだろうから、隠れ里みたいな感じの所の出身って事にするのがいいか。排他的な、だとか、秘密の、だとか言えば、なんとかなるだろう。

 それに……そういう隠れ里であれば、周りの情勢に疎いという事で、この世界特有の一般常識などを知らなくても、あまり不自然にはならないはずだ。

 もっとも、最低限度の一般常識くらいは早めに覚えたい所ではあるが――

 

 とりあえず、そんな簡単な設定を頭の中で纏めた俺は、空を見上げる。

 と、つい先程まで青空だった空に、ほんの少しだけではあるが、茜色が混ざり始めていた。どうやら夕暮れが近づいてきているようだ。


 さて、それなら完全に暗くなる前にさっさと町へ行かないと駄目だな。ディアーナに渡された『この世界について書かれた本』とやらを、ゆっくり読みたいし。

 ……たしか、この巨岩から下へ降りるには、出口から後方へ少し移動した所にある昇降路を使えばいいとディアーナは言っていたな。……よし。


 心の中で方針を決め、後ろを振り向くと、先程自分が出てきたテレポータルが既になく、岩肌のみが広がっていた。もう閉じたのか……早いな。

 まあ、ディアーナと話す必要があるのなら、オーブを使えばいいだけなので、別に問題はないんだけどさ。


                        ◆

 

 ……歩き始めて10分以上経過したが、未だに降りられるような場所にはたどり着かない。

 でかすぎるだろ、この岩! っていうか、全然『少し』じゃないし……。いやまあ、もしかしたらディアーナにとっては、これでも『少し』なのかもしれないけど。


 ってか、いっそのこと、このまま飛び降りてショートカットしてしまえばいいのではなかろうか。

 そう、例えばサイコキネシスを使って自分自身を浮遊させるとか、だ。

 まあもっとも、地球ではサイコキネシスで自分自身を浮遊させる、なんて芸当は無理だったんだよなぁ……。ただ、この世界に来た事で、全体的にサイキックの力が増しているようだし、もしかしたらやれる可能性もある……か? 

 うーん……。せっかくだし、試すだけ試してみるか。


 ――精神を集中させ、頭の中で自分が浮かんでいる所をイメージをする。

 浮遊……浮遊……体が地面から浮き上がる……

 

 と、次の瞬間、自分の体がふわりと宙に浮いた。おっ? これはいけるか? 

 そんな期待を胸に、そのまま前へ進……もうとした瞬間、浮遊状態が解除されてしまった。

「うおっと」

 いきなり解除されたので、つんのめりそうになったぞ……。危ない危ない。


 うーむ。一応、浮遊する事が出来るくらいには力が増しているようだが、浮遊状態を持続したまま移動するっていうのが、どうにも上手くいかない。……ま、これを使ってショートカットするのは、現状では不可能だという事がわかっただけ、よしとするか。


 あれこれとショートカットの手段を考えるものの、一向に良い方法は浮かんでこない。……というか、これ以上考えている暇があったら歩いた方が良さそうだ。


                        ◆


「ふぅ、やれやれ……」

 どうにか地上まで降りてきたところで、ふとそんな呟きが口から漏れる。

 結局、あれから20分近く歩いて、ようやく俺は岩の縁に人工的に作られた坂――昇降路へと辿り着く事が出来たのだった。

 

 しっかし、どうせ昇降路を作るんなら、町に近い方に作ればいいのに、なんでわざわざこっち側に作ったんだ……? ここからさっきの場所まで戻る事を考えると、なかなかにしんどいぞ。

 と、そんな事を心の中で愚痴りつつも、歩かない事にはいつまで経っても町に着かないので、諦めて今度は巨岩にそって歩き始める。


 森の中ではあるが、巨岩の周りには背の高い雑草や足を取られやすい根っこなどは一切なく、思ったよりも歩きやすい。このペースで歩いていければ、ここから町まで、1時間もかからずに辿り着けそうな気がする。

 

 20分程巨岩沿いに森の中を歩いていくと、岩肌がカーブしている場所へと辿り着いた。どうやらここらへんが、テレポータルの出口があった地点の真下付近となるようだ。

 巨岩の上を歩いた時は昇降路まで30分近くかかったから、10分くらい早く着けたな。


 さて……アルミナの町は、テレポータルの出口から見て真正面あたりだったから……次は、この巨岩の先端部分を背にして一直線に進めば良さそうだな。

 と、進むべきルートを定めた直後、俺の視界の隅で何かが光る。


 ん? なんだ? 


 まるでカメラのフラッシュのような感じだったが……この世界にカメラなんてあるのか? 

 そんな事を考えていると、再び閃光が放たれる。

 またか。……うーん、どうにも気になるぞ。


 ま、進むべきルートからさほど外れるわけでもないし、ちょっとばかし様子を見に行ってみるとするか。

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