第80話[Dual Site] オールレンジアタッカー
投稿が想定より遅くなりました……
<Side:Akari>
「――《蒼晶の氷牙槍》!」
ユーコがそう言い放った瞬間、自身の周囲に出現した文字通り槍の如き大きさを持つ氷柱が6つ出現する。
それを横目で見ながら私はグレンへと突っ込む。
直後、1つ目の氷柱が飛翔し、私の横を抜けながらグレンへと迫る。
無論、その程度の魔法を防げない相手ではない事は、重々承知というものよ。
案の定、グレンは双頭の薙刀を風車のように回転させ、氷柱を消し飛ばしてきた。
――だけど、それもまた織り込み済みなのよね。
私は先に準備しておいた加速魔法を発動しつつ、素早く踏み込む。
そして一気に間合いを詰めた所で、斧と化したPACブラスターを横一文字に振るう。
グレンは氷柱を消し飛ばしたその刹那に、自身へと迫る私と私の斬撃に対して一瞬驚きの表情を見せる。
……でも、それだけだったわ。
グレンは双頭の薙刀をクルッと回しながら垂直にすると、私の振るったPACブラスターを自身の身体に届く前に、受け止めた。
更にそこから、まるで加速魔法を発動したかの如き速度で、反撃を繰り出そうとしてくるグレン。
それをユーコが、反撃などさせないとばかりに氷柱で迎撃。
そのユーコの動きを予測しつつ、私は反撃への防御行動を取る事なく、更にグレンめがけて、PACブラスターを上段から叩きつけるようにして振るう。
それは、恐ろしく隙の大きい、受け止めやすく回避しやすい攻撃。
だが、それは罠。
こちらの誘いにのって、受け止めるなり回避するなりの動作をしてくれれば御の字。
ユーコの追撃が炸裂するというもの。
しかし、双頭の薙刀を斜めにしたグレンのとった行動は、受け止めでも回避でもない――『受け流し』だった。
くっ! あの状態でまさかの受け流し……っ!
むぅ、なかなか想定通りにはいかないわね……
そんな事を思いつつ、受け止められて地面に激突する寸前のPACブラスターに力を込める。
地面は再現された古代の石畳であり、硬い。
勢いよく得物を叩きつければ、叩きつけた際の力の強さに強弱の差はあれど、反動が生じる。
まあ、受け流されたのなら受け流されたで、軌道を少し調整すればいいだけなのよね。
回避された際に想定していた動きで次の攻撃へと繋げれば、それでオッケー。
回避と違い間合いが近い為、グレンからの対の先――ゲームなんかだと、被弾直前に攻撃を仕返して相手の攻撃を潰しながらダメージを与える『ジャストカウンター』とかそういう風に呼ばれる事が多いもの――が大いに考えられるけど、そこはそれ。
きっと、多分、おそらく、ユーコがカウンターを防いでくれるはず。……ふ、防いでくれるわよね?
そんな思考をしつつ、地面に激突させたPACブラスターを、反動を利用して一気に振り上げた。
その瞬間、グレンの対の先が、ユーコの魔法によって失敗したのが視界に入る。
ナイス、ユーコ! さすがだわ!
こうなればこちらの危険は、ほぼないと言って良いわ。
既にこちらは相手を捉え、相手を切断する軌道で得物が振るわれている。それに対して今から対の先を実行するのは手遅れ、不可能。
だからといって後の先――攻撃を受け止めるなり回避するなり受け流すなりしてすぐに反撃をを放とうにも、下から上への攻撃というのは、得物で受け止めるのも受け流すのも難しい。
無理矢理、受け止めたり受け流そうとしたところで、自身かあるいは得物か、そのどちらかが吹き飛ばされる可能性が高い。
つまり……防御は悪手であり、この時点で取れる手は回避以外、基本的にない。
結果、さすがのグレンも、今度ばかりはこちらの想定通りの動きをした。
その瞬間、相手の回避は回避ではなく連撃を仕掛けるチャンスとなる。
回避の動きに合わせる形で、ほんの少し、相手の得物が届かない程度に――後の先を受けない程度に――間合いを調整。
……さぁて、一気呵成に仕掛けるわよ!
振るう、振るう、振るう、ひたすら振るう!
こちらの得物であるPACブラスターは長柄であり、両手で持つ必要がある都合上、グレンの持つ双頭の薙刀に比べると、手数が少なくなるわ。
でも……その分、グレンの持つ双頭の薙刀よりもリーチがあるのよね。
で、双頭の薙刀も長柄ではあるけれど、柄の中心部分を持って振り回す必要があるから、武器自体の長さに対して、どうしても攻撃可能範囲は狭くなるわ。
なので……簡単な話、双頭の薙刀の攻撃可能範囲外をギリギリ維持しつつ、得物を振るい続ければ、相手は対の先なり後の先なりで反撃しようにも届かないから、そのままでは反撃する事が出来なくなり防御や回避に徹する以外の手段がなくなる……というわけ。
無論、グレンは高い戦闘技術を持つからその状況下――防戦一方になる状況を打開すべく、こちらの連撃の間隙を突くようにして踏み込もうとしてくる。
しかし、それはユーコの魔法によって潰され……その結果、私は一方的に攻撃を繰り出せるというわけ。
これぞまさに、ずっと私のターンという奴よね!
◆
<Side:Lilia>
あの薙刀の有効範囲を見切って、届かないギリギリの距離からの猛攻……
弓の使い手かと思いきや、そんな事はありませんでしたわね。
遠近両用――いえ、遠近可変のオールレンジバトルスタイル。アカリは、思った以上に優秀な戦闘技術を持っているようですわ。
それはもう、このままではグレンの方が押し負けてしまう程に。
「まあもっとも……『このままでは』と付くのですけれど」
尖塔から眼下の戦いを眺めながらあれこれと思考を巡らせ、そしてその思考の終わりに、そんな事を呟く私。
……というか、あの戦闘技術、本人の経験だけでは到底辿り着けるような域ではないですわよね……。やはり根底にある冥将とアルチェムの魂が……?
――そんな事をふと思ったその直後、案の定と言うべきか、グレンが動く。
グレンは、アカリの攻撃を受け止めた瞬間、左手のみを横へとスライドさせるように動かした。
……武器を両手で握っているのだから、左手側のみが動くなどとはずがない。
本来なら左手を動かせば右手も動く。……しかし、そうはならなかった。
ええ、ならなかったんですのよ。
なぜなら……左手側には、もう一つ同じ形状の薙刀が握られていたから……ですわ。
今回はアカリの猛攻という事で、あまり視点移動しない形にしました。
とまあそんな所でまた次回! 次の更新は、10月6日水曜日を予定しています!




